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日本文学のレポート

一月中旬に入ろうとする頃、二葉宏明が通う大学では冬休みを終え、学内ではたくさんの学生達が溢れ返っている。

宏明は正門の前で彼女で西野紀美と友人である水木京子と相川茂の三人を待っていた。

「ヒロ!」

「オゥ! 明けましておめでとう。今年もヨロシクな!」

新年が明け、心なしかふっくらした茂が笑いながら言う。

「こちらこそ…。茂、少し太った…?」

宏明は茂の顔を見て聞く。

「少しな」

頭を掻きながら参ったなというように答えた茂。

「それよりノンちゃんと京子はまだなのかよ?」

「うん。多分、一緒に来るだろ」

宏明がそう言ってからしばらくすると、紀美と京子がやってきた。

「明けましておめでとう!」

京子が元気よく新年の挨拶をする。

「おめでとう」

宏明と茂も新年の挨拶をする。

「もうすぐ卒業だよね」

京子は三人の先頭に歩きながら言う。

「うん。今月末で授業が終わって、来月の初めにはテストだしね。早かったよね」

紀美は白い息を吐きながら答える。

「残り少ない学生生活、楽しもう!」

元気よく言う京子。

「それにしても、今日から授業なんてなぁ…」

かったるそうに呟く茂。

「いいじゃない。私達、一緒に授業なんだから…」

「そうだけど、一限目から日本文学の授業だぜ? あの教授の授業、眠いんだよなぁ…」

引き続き、かったるそうな茂。

「ヤル気ゼロじゃない? 茂ってば太ってヤル気も失くしたってわけー?」

ケラケラ笑いながら言う京子。

「太ったって余計な一言だ」

「何kg太ったのよ?」

「四kgぐらい」

小声で答えた茂。

「全く正月太りもいいとこよ。運動して痩せなきゃ」

「そうするつもりだよ」

そう答えた茂はいつの間にか京子の隣で歩いている。

「あの二人いい感じじゃない?」

紀美は小さな声で宏明に聞く。

「うん。付き合ったらいいのに…」

宏明も紀美と同意見のようだ。

「二人共、何コソコソ話してるのよ?」

京子が後ろを振り返りながら何の話をしているのかを聞く。

「いや、なんでもない」

「ふーん…」

京子は首を傾げながら二人を見る。

「まっ、いいわよ。今度のデートはどこにしよう、なんて話でもしてたんでしょ?」

京子の言葉に、笑ってごまかした二人だった。





一限目の授業が終わり、宏明達は次の授業の教室に向かう途中、日本文学のレポートの事を話していた。

「レポート、どうする?」

「どうしようか…。卒業レポートで今までより詳しく書いてこいって事だろ?」

宏明は途方に暮れた声を出す。

「そうなんだよね。本を読んで書くのもねぇ…」

京子はため息をつく。

「オレの先輩で学習塾の講師やってる人がいるんだ。話だけでも聞きに行く?」

突然、茂が提案する。

「先輩って…誰だよ?」

「大学の先輩だよ。同じバスケ部で、二つ上の先輩なんだ。その先輩とは仲が良くて、今でも連絡取り合ってるんだ」

「そうなんだ。早速、連絡とってみてよ」

「了解」

茂は頷くと、携帯を取り出した。

しばらく話をして、携帯を切った。

「どうだった?」

「明日の夜なら開いてるみたいだけど…」

「私は大丈夫よ。バイトも休みだし…」

「私もよ。ヒロは?」

「オレも大丈夫だ。決まりだな」

「明日、午後六時半に大学前まで来るから、また連絡するって…」

茂は先輩がこの大学に来る旨を伝えた。

「明日の四限目終わってだいぶ時間あるけど…どうする?」

「校内のカフェで待ってようよ。私、カフェのホットココア好きなんだ」

まんべんな笑顔で答える紀美。

「そうだね。ノンちゃんって単純だねぇ…」

京子はしみじみ言う。

「単純ってどういうことよ?」

頬を膨らませる顔を京子に向ける紀美。

「そのままの意味よ。でも、ココア好きだよね。なんで…?」

「なんでって…だって、私、甘い物好きだもん」

焦って答える紀美。

そんな紀美を見て、ニヤリと笑う京子。

「さては甘い物だけが理由じゃなさそうだよね」

「もー、京ちゃんってばイジワルー!!」

「いいわよ。ここまでにしてあげるわよ」

京子はニヤけたまま紀美に言った後にチャイムが鳴った。

「あ! ヤバイ! 早く行かなきゃ!」

大声を出す京子。

三人は急いでそれぞれの授業の教室に向かった。










翌日の午後の授業の終了後、校内にあるカフェに集まった宏明達。

宏明と茂はホットコーヒー、紀美はホットココア、京子はアイスレモンティーをオーダーし、四人席が空いている席に着いた。

「やっと授業が終わったー」

紀美は伸びをしてから言った。

「茂、その先輩は大丈夫なのかよ?」

「うん。毎週木曜日と日曜日は休みみたいなんだ。その先輩以外に友達が二人来るみたい」

茂は言い忘れた事を宏明達に伝えた。

「じゃあ、三人来るってこと?」

「そういうこと。先輩が連れてくる友達二人もこの大学の卒業生なんだ。一度、会った事あるんだけどな」

「三人もいると日本文学について色々聞けちゃうね」

紀美の言うのに、宏明も頷いて、

「そうだな。オレらよりも知識は上だろうしな」

「兄さん!!」

宏明が話している背後から、若い男性の声がして四人は振り返った。

「す、進!?」

茂は今までに聞いた事のない驚いた声をあげた。

「何してるんだよ?」

「お前こそ何してるんだよ?」

「オレはカフェに用があっ来ただけだ。兄さんは?」

「先輩待ってるんだよ」

茂の答えにふーんという表情をする。

「こいつはオレの弟の進。この大学の経済学部にいるんだ」

茂に紹介された弟の進は軽く会釈をした。

「目元が似てるよね」

「そうか?」

苦笑いをする茂。

「兄さん、用が終わったら合流していい?」

「いいぜ」

「用済ませてくるな」

進はその場を離れると、会計のほうに向かう。

「相川君ていたんだね」

「今、一回生なんだ」

茂は答えると、弟を見つめる。

それからすぐに用を済ませた進は、宏明達のテーブルに舞い戻ってきた。

五人で話していると、茂の先輩と会う時間がやってきた。

カフェを出た五人は正門に向かう。

「先輩!」

茂が正門にいた男性三人組を見つけると呼びかけた。

「ヨゥ! 相川、久しぶり! 元気にしてたか?」

真ん中にいた背の高い男性が、茂に手を振った。

「はい、元気です。先輩も元気でしたか?」

「この通り、元気だ」

「そうですか。こちらが言ってた同級生とオレの弟です」

茂は宏明達を紹介した。

「そうか。ここでもなんだからオレの妹が働いている居酒屋にでも行こうか」





大学から歩いて十分のところにある居酒屋に着いた。

八人は奥の広い座敷席に通された。

席に着いた八人は、改めて自己紹介をする事になった。

「オレは山口和久。相川から聞いてると思うけど、学習塾で国語を教えています」

細身で背の高い和久は笑顔で名前を言う。

「僕は田中勇。印刷工場で働いています」

勇は真面目そうで大人しいタイプの青年だ。

「オレは尾崎卓也。今、大学院で勉強してます」

卓也は体格の言いガッチリしたタイプだ。

「今日はよろしくお願いします。色んな話を聞かせて下さい」

代表で茂が言う。

「わかった。話足らずだろうが出来る限りの事は話すよ」

和久はおしぼりで手を拭きながら答える。

「お前の妹はいつ出勤なんだよ?」

卓也が和久に聞く。

「そろそろのはずなんだけど…」

和久はそう答えると時計を見る。

「あれ? お兄ちゃん?」

若い女性が宏明の席にいる和久に声をかけてきた。

「オゥ! 里子、今からか?」

「うん、そうよ」

和久の問いかけに、妹の里子が返事をする。

最初は何気なく聞いていた宏明は、改めて居酒屋の店員である和久の妹のほうを見た。

その瞬間、宏明は驚いた表情をした。

里子のほうも宏明に気付き、驚きを隠せずにいた。

「…宏明…」

ポツリ宏明の名前を呟く言う里子。

「知り合いなのかよ?」

和久は宏明の顔を見た後に里子に聞いた。

「うん、ちょっとね…」

言葉を濁す里子。

「へぇ…紹介が遅れたけど、オレの妹の里子です」

「美人だな」

卓也がニヤけた表情で里子を見る。

「尾崎、ニヤけた目で見るなよ」

「別にニヤけてねーよ」

「私、そろそろ戻るね」

里子はそう言うと、全員に会釈をして、持ち場へと戻っていった。

「じゃあ、日本文学の話でもしようか?」

和久は里子を届けた後に言うと、勇と卓也は頷いた。

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