自己紹介(6)
「俺は、人の気持ちが、普通の人より分かるんだ。顔とか、仕草とか、口調とかで、直感的に相手の気持ちが分かる。あぁこいつ、不安なんだなとか、嘘ついてるなとか。悩みがあるんだなとか、心開いてくれてないなとか。はたまた恋してるなとか、楽しいことがあったんだなとか。それが、人をまとめる能力に繋がってるって、サキ様は言ってくれたよ。
でも、俺は人の気持ちが分かりすぎちゃって、嘘が分かっちゃうってのが主なんだけど、人間不信に陥っちゃったんだな。若い時にさ。周り全部嘘、嘘。嘘ついてるだろっていうと、嫌われちゃう世界だろ? なんで分かるの、怖いって。俺は世の中を信じられなくなっちゃったし、世の中も俺を求めなかった。
唯一役に立った職業が、ボディーガードだったってわけ。相手が嘘をついてるのが分かれば、雇い主を守ることができるからな。他の道もあったかもしれないけど、デスクワークは苦手でね。腕っ節は昔から強かったし、ひとりでも生きていけるように、俺は力をつけて、ボディーガードになった。天職だと思ってるよ。その職について、俺はサキ様に出会った。彼女は、俺の気持ちを理解してくれて、今でも、俺をずっと守ってくれてる。居場所を与えてくれてる。だから、俺はサキ様の笑顔を取り戻すために、これからも仲間を集めるんだ
ちなみに、もう一個弱点があってさ」
ボスは思い出したように言うと、少し頬を赤らめた。ニールの耳元に手をつけ、小さな声で付け加えた。
「俺、恋愛事になると途端にわかんなくなるんだよね。アクルのこと、みんな気が付いてるし、ニールも気が付いてるんだろ? でも、アクル本人には秘密な、頼むよ」
ボスはそういうと、ニールの前で両手を合わせて、頼み込むポーズをした。ニールは、にやりと笑って、親指を立てて見せた。
「以上、唐突に俺の自己紹介でした。皆の能力は俺が軽く説明したけど、詳しくは個人個人に話してもらうのが一番だ。今日のパーティーは、そのためのパーティーでもある」
ボスは立ち上がった。そして、ファインに大声でシャンパンを一つ頼んだ。
「ニール、お前は?」
「あ、っとリンゴジュースを」
ボスは、リンゴジュースも、と叫んだ。ファインが笑顔で、はいと返事を返した。
「さ、俺たちが飲み物を貰ったら、パーティーを始めよう」
ボスは右手をニールに差し出した。ニールは笑顔で頷くと、その手を取った。
その後、いつもの挨拶を終え、立食パーティーが始まった。ニールは、双子たちと共に、端から端まで料理を少しずつ食べていった。ひとつの料理は一口か二口分しか取っていないのに、全てを食べ終えたときにはもうおなかがいっぱいになっていた。その後、それでもおいしい料理を食べたいと思ったニールは、特に気に入った物を数種類取り、頬張った。
「おなかいっぱい!」
ニールは空になった皿を机に置くと、椅子に座り、腹を押さえた。
「私もー!」
「ニール食べすぎだよー!」
ニールの右端にマクロ、左端にミクロが腰をかけた。
「ニール動けない?」
「ニール動けない?」
「ううん。動けるよ?」
「そっか!」
「それじゃぁ……」
「ん?」
双子はにやりと笑うと、ニールの腕を同時に取った。
「踊る!」
「おなかもいっぱいになってきたしね!」
「今日はダンスパーティーしたいってボスが言ってた!」
「踊ろう! ボスたちも誘おう!」
双子は、満面の笑みでそう言うと、立ち上がった。ニールも無理やり立ち上がらされる。
「ちょっと……まって!」
「やだ!」
「いーやだっ!」
「えぇっ!」
きゃらきゃらと双子が笑った。ニールは両手をひっぱられ、無理やりホールの真ん中まで連れて行かれた。
流れてきたのは、ワルツだった。
「僕踊れないよ!」
「いいの!」
「適当適当!」
双子は手を取り、リズムに合わせてくるくると回り始めた。
それを合図に、大食堂はダンス場に早変わりした。自由に相手を変え、踊り、笑っている。
ラインが、ニールにダンスのステップを教えているのを、遠目にボスとアクルが見ていた。アクルは、持っていた皿を机の上に置くと、ひとつ咳払いをした。
「踊りたいって言ったのはボスでしょ!」
「ん?」
アクルは、ボスの前に行き、そっと手を差し伸べた。ボスの顔が、ピンク色に染まる。
「な、なんだよ」
「一曲……」
アクルはそこまで言うと、眉間にしわを寄せた。黒目が左右にせわしなく動いている。どうやらダンスに誘うセリフを忘れてしまったらしい。言葉に詰まるアクルを見て、ボスはふっと小さく笑った。
「なんですか!」
「こっちのせりふだ、お前! 一曲どうですか? だろ?」
「そうでした……」
今度はアクルが照れるばんだった。アクルは赤面しながらも、小さな声で言った。
「い、一曲どうですか……」
ボスはにこりと笑うと、アクルの差し出した手にそっと右手を置いた。赤い爪が、きらりと光った気がした。
「喜んで」
アクルの頬が赤くなったことに気が付き、ボスは驚いたが、黙っておいた。