自己紹介(4)
ボスは特に何を言う訳でもなく、無言で階段を下りて行った。それにニールが続き、アクルがその後ろを行った。
ニールはかなり緊張した。いまさらになって疲れがどっと出てきた。きっとボスもアクルも、無言なのはそのせいだろうとニールは解釈していた。
ボスが階段を降りきり、ニールがすぐ後ろにいることを確認すると、廊下へとつながる扉を開けた。
ニールが廊下に出ようとした瞬間、破裂音がした。直後に、目の前を紙吹雪が舞う。
「わっ」
ニールが驚く間も与えず、扉の両脇に隠れていた双子が、待ってましたと言わんばかりにニールに飛びついた。
「お疲れ様ー!」
「お疲れ様ー!」
「へっ? えっ?」
慌ててボスを見ると、ボスはにやりと笑った。その後ろで、アクルも楽しそうに笑っている。扉の両脇には、ライン、アニータ、ギル、アズム、ルーク、ギャンも隠れていた。皆戸惑うニールをみて笑っていた。
「ぽかんとしてるじゃん」
アニータが楽しそうに言った。
「そりゃ驚くだろ、いきなり双子のタックルだぞ」
アニータの隣のギルが笑う。
「若いなぁ」
最年長のギャンがにやついた。
「そうだ、ボス。あのスイッチですが、ありゃ偽物でしたよ。中はすっからかんでしてね」
「なんだって?」
ボスが笑った。
「ちくしょうウラウとか言う野郎、そんな小道具持ってたのかよ」
「逃げること前提で、わざわざスイッチを持っていたのかもしれませんね」
アクルが言った。確かに、とボスが頷く。
「逃げることに関しては、天才的な奴だったのかもしれない」
「サキ様に会ったんでしょう? それって、正式に認められたってことだから、みんな嬉しくて仕方ないの」
アズムがニールにそっと告げた。
「おめでとう」
ルークが拍手し、皆がそれに続いた。笑い声と拍手が交じる。
「ニール、疲れてるか?」
ラインの質問に、ニールはまだぽかんとしながらも、首を振った。
「そうか」
ラインはにかっと笑うと、ニールの頭を撫でた。
「じゃぁ今からパーティーだ! 歓迎パーティー! ファインがすごい料理を作って待ってるぞ」
「パーティー?」
だってこの前もしてくれたじゃないか、というニールの心を呼んだように、双子が両脇から囁いた。
「理由をつけてはパーティーしたがるの」
「理由がなくてもパーティーしちゃうんだけどね」
「はっは、そのとおり!」
大きな声をあげたのは、ボスだった。
「あ、ところでヤツキは?」
「しばらくは部屋で寝ているそうですよ」
ギャンが言った。ボスはふんと鼻で笑った。
「嘘だな、気が付いたらふらふらとどっか行っちまって……はっ」
ボスはいきなり天井を見上げた。天井にあった黒い目と、ボスの視線が交差する。
「ありゃ、見つかっちゃいましたか。驚かしてあげようと思ってたんですけど」
「ヤツキ! また天井に隠れて、降りてこい」
ヤツキは天井から、音もなく降り立った。ニールに笑いかけ、手を振る。
「さっき二階であったよね、どーも。ヤツキです、よろしく。ふふふ」
「よ、よろしくお願いします!」
ニールは小さな頭をおもいきり下げた。その様子を見て、ヤツキは嬉しそうにほほ笑んだ。
「ま、とりあえず自己紹介も飯を食いながらにしないか! みんな、食堂に行こう!」
ボスの声を合図に、双子がニールの腕を握り締めたまま走り出した。引きずられるように、ニールも食堂へ向かって行った。はしゃぐ姿を見ながら、皆それに続いた。
一番後ろからついて行ったボスとアクルは、皆の背中を見つめていた。
「サキ様、嬉しそうだったなー」
「ですね」
「やっぱ、仲間が増えるときって、嬉しいよな」
「そうですね」
「俺、今踊りだしたい気分」
「ダンスパーティーにします?」
「あとで気のきいた音楽でもかけようか」
ボスの楽しそうな笑顔を見て、アクルも微笑んだ。