一件落着(3)
ボスは、その後、四人に誓わせた。
ニールには二度と手を出さないこと。リッツからは手を引くこと。他人に迷惑をかけるような行動は起こさないこと。
ここまでで小一時間を要した。縄をほどき、誓約書を書かせた。何度も、しつこいほどにボスは四人に説教をした。小さい子に言い聞かせるように、何度も、何度も。
そして最後に、何か困ったことがあったら、すぐにエストレージャに助けを求めに来ることを伝えた。
「悪巧みにはのれねぇが、なんかあったら助けてやることもできるかもしれないし。ほら」
ボスはそう言うと、胸ポケットから名刺入れを取り出し、そこから紙を差し出した。白い紙に、黒い大きな星のマーク。
「……これは」
ウラウが息を飲んだ。
「招待状だよ。別に、ただの紙だよただの紙。これを門番に見せれば通れるから、いつでも来いよ。あぁついでに、門番はお前らにやられたふりをしただけだ。屋敷に入ってきてほしかったもんでな。門番も本当は強いから、気をつけろよ。まぁ、人の顔を記憶するのが得意な奴だから、お前らが来て招待状を見せたら、すぐにでも無害だと判断して、笑顔で通してくれるさ」
ボスの言葉に、ティラが口を挟む。
「……転売をしてしまう、などとは考えないのか?」
「したけりゃすればいいさ。そんときゃお前らが屋敷に入れなくなるだけだ」
「にこにこ入って、お前らを殺すかもしれないぞ?」
「戦ってやるから安心しろ」
「そうか」
「そうさ」
ボスはにこりと笑うと、それぞれに招待状を渡した。
「では! 反省もしたと思うし、解散解散!」
相手に反論をさせる時間も与えず、ボスはにこにこと部屋から四人を強制的に追い出した。背中を押し、肩をたたき、いやぁお前ら、若いのになかなか行動力があるじゃないか、と笑いながら、ボスは四人を屋敷の外まで送りだした。
「んじゃ、また会えたら会おうぜ」
「…………」
ウラウが何か言おうとしたが、結局何も言わなかった。
「あのガキどもはちゃんと俺から説教しとくし、事情説明もうまいことしといてやるよ。お前と行動を共にしてるやつらは、別に話ししておくし。大丈夫だ、心配すんなよ」
「……お人よしだ」
ティラはそう言うと、踵を返した。ウラウは一度、頭を下げると、ティラと共に屋敷を後にした。その後ろに、金髪と銀髪の女性もついて行った。
「なんだよ、意外といい若者じゃねぇか、あいつ」
ボスはウラウを見つめると、満足そうに笑った。
「元気でやってくれるといいんですが」
アクルがそれに答えた。なんだかんだ、見送りにはアクルのほかに、ニールとラインもついてきていた。
「そうだな……」
ボスは去りゆく背中を、まるで母が子を見送るかのような優しい目で、見つめていた。
屋敷に戻り、次に向かった場所はニールの部屋だった。
「おおお。予想以上の数」
ボスは目の前の情景を見て、思わず後ずさった。ニールとアクルも部屋を覗き込み、おぉと声をあげてしまった。ちなみにラインは、ラインが気絶させたエリートたちを自分の部屋に連れ込み、起きても逃げないように見張っているため、不在だった。
ニールの部屋から、甘いにおいが漂った。その部屋の床を埋めるように、人が眠っていた。
ほとんどが子供だった。扉のすぐ近くにアニータとギルが、部屋の真ん中にミクロとマクロ、少し離れた場所にアズムとルークがすやすやと眠っていた。
「よし! 起こす!」
ボスはそういうと、上着を脱ぎ捨て、腕をまくった。まずはエストレージャの仲間から起こし、続いてリッツの子供たちを起こした。かなりの人数だったために、リッツの子供たちを起こすのは、全員で取りかかっても数分はかかった。
その後は、ボスの演説会、もとい説教会が繰り広げられた。
寝起きに、意味も分からず説教を食らうはめになり、反論する子供も数人いたが、この人数を相手にしたアニータとギルの一睨みで、大人しくなった。
ボスは子供たちを前に、堂々と、偉そうに、説教をした。
リッツの本当の姿も、衝撃が少ない程度に伝え、手を引くように言った。リッツの裏の顔を知ると、さすがに子供たちにも不安の色が見え隠れした。
「でも大丈夫! 帰る場所があるやつはそっちに帰れ! ない奴は協力して、なんとか生きて行けばいい! 困ったら、屋敷に来い! 仕事をあげるから!」
そう言って、ボスはその場にいた子供たち全員に「招待状」を配ったのだった。
「はい解散! 出口までは、このピンクの頭のアニータ姉さんについて行って!」
短い説教会の後、子供たちはぞろぞろと屋敷を後にした。何人かの子供たちはその列について行かず、ボスに直接相談をした。
「俺たち、本当に行く場所がなくて……」
「そっか」
ボスは少しだけ寂しそうに笑うと、その子供たちの頭を順々に撫でた。その後、ギャンがニールの部屋に呼び出された。
「この子たちに、働ける場所、紹介することってできる?」
ギャンは、すがるように見つめてくる子供たちに、微笑みを返した。
「できますとも。この近くにも、人出が足りなくて困っている場所はたくさんある。ちゃんと働くことを約束するなら、仕事と居場所を与えますよ」
子供たちはギャンの案内に従い、屋敷を出て行った。
「さぁてと……次はラインのとこにいかなきゃな」