表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エストレージャの願いを  作者: 村咲アリミエ
50/59

   一件落着(3)

 ボスは、その後、四人に誓わせた。


 ニールには二度と手を出さないこと。リッツからは手を引くこと。他人に迷惑をかけるような行動は起こさないこと。


 ここまでで小一時間を要した。縄をほどき、誓約書を書かせた。何度も、しつこいほどにボスは四人に説教をした。小さい子に言い聞かせるように、何度も、何度も。


そして最後に、何か困ったことがあったら、すぐにエストレージャに助けを求めに来ることを伝えた。


「悪巧みにはのれねぇが、なんかあったら助けてやることもできるかもしれないし。ほら」


 ボスはそう言うと、胸ポケットから名刺入れを取り出し、そこから紙を差し出した。白い紙に、黒い大きな星のマーク。


「……これは」

 ウラウが息を飲んだ。

「招待状だよ。別に、ただの紙だよただの紙。これを門番に見せれば通れるから、いつでも来いよ。あぁついでに、門番はお前らにやられたふりをしただけだ。屋敷に入ってきてほしかったもんでな。門番も本当は強いから、気をつけろよ。まぁ、人の顔を記憶するのが得意な奴だから、お前らが来て招待状を見せたら、すぐにでも無害だと判断して、笑顔で通してくれるさ」


 ボスの言葉に、ティラが口を挟む。


「……転売をしてしまう、などとは考えないのか?」

「したけりゃすればいいさ。そんときゃお前らが屋敷に入れなくなるだけだ」

「にこにこ入って、お前らを殺すかもしれないぞ?」

「戦ってやるから安心しろ」

「そうか」

「そうさ」


 ボスはにこりと笑うと、それぞれに招待状を渡した。


「では! 反省もしたと思うし、解散解散!」

 相手に反論をさせる時間も与えず、ボスはにこにこと部屋から四人を強制的に追い出した。背中を押し、肩をたたき、いやぁお前ら、若いのになかなか行動力があるじゃないか、と笑いながら、ボスは四人を屋敷の外まで送りだした。


「んじゃ、また会えたら会おうぜ」

「…………」

 ウラウが何か言おうとしたが、結局何も言わなかった。


「あのガキどもはちゃんと俺から説教しとくし、事情説明もうまいことしといてやるよ。お前と行動を共にしてるやつらは、別に話ししておくし。大丈夫だ、心配すんなよ」

「……お人よしだ」

 ティラはそう言うと、踵を返した。ウラウは一度、頭を下げると、ティラと共に屋敷を後にした。その後ろに、金髪と銀髪の女性もついて行った。


「なんだよ、意外といい若者じゃねぇか、あいつ」

 ボスはウラウを見つめると、満足そうに笑った。

「元気でやってくれるといいんですが」

 アクルがそれに答えた。なんだかんだ、見送りにはアクルのほかに、ニールとラインもついてきていた。


「そうだな……」

 ボスは去りゆく背中を、まるで母が子を見送るかのような優しい目で、見つめていた。



 屋敷に戻り、次に向かった場所はニールの部屋だった。

「おおお。予想以上の数」

 ボスは目の前の情景を見て、思わず後ずさった。ニールとアクルも部屋を覗き込み、おぉと声をあげてしまった。ちなみにラインは、ラインが気絶させたエリートたちを自分の部屋に連れ込み、起きても逃げないように見張っているため、不在だった。


 ニールの部屋から、甘いにおいが漂った。その部屋の床を埋めるように、人が眠っていた。

 ほとんどが子供だった。扉のすぐ近くにアニータとギルが、部屋の真ん中にミクロとマクロ、少し離れた場所にアズムとルークがすやすやと眠っていた。


「よし! 起こす!」

 ボスはそういうと、上着を脱ぎ捨て、腕をまくった。まずはエストレージャの仲間から起こし、続いてリッツの子供たちを起こした。かなりの人数だったために、リッツの子供たちを起こすのは、全員で取りかかっても数分はかかった。


 その後は、ボスの演説会、もとい説教会が繰り広げられた。


 寝起きに、意味も分からず説教を食らうはめになり、反論する子供も数人いたが、この人数を相手にしたアニータとギルの一睨みで、大人しくなった。

 ボスは子供たちを前に、堂々と、偉そうに、説教をした。


 リッツの本当の姿も、衝撃が少ない程度に伝え、手を引くように言った。リッツの裏の顔を知ると、さすがに子供たちにも不安の色が見え隠れした。


「でも大丈夫! 帰る場所があるやつはそっちに帰れ! ない奴は協力して、なんとか生きて行けばいい! 困ったら、屋敷に来い! 仕事をあげるから!」


 そう言って、ボスはその場にいた子供たち全員に「招待状」を配ったのだった。


「はい解散! 出口までは、このピンクの頭のアニータ姉さんについて行って!」

 短い説教会の後、子供たちはぞろぞろと屋敷を後にした。何人かの子供たちはその列について行かず、ボスに直接相談をした。


「俺たち、本当に行く場所がなくて……」

「そっか」


 ボスは少しだけ寂しそうに笑うと、その子供たちの頭を順々に撫でた。その後、ギャンがニールの部屋に呼び出された。


「この子たちに、働ける場所、紹介することってできる?」

 ギャンは、すがるように見つめてくる子供たちに、微笑みを返した。


「できますとも。この近くにも、人出が足りなくて困っている場所はたくさんある。ちゃんと働くことを約束するなら、仕事と居場所を与えますよ」

 子供たちはギャンの案内に従い、屋敷を出て行った。


「さぁてと……次はラインのとこにいかなきゃな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ