表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エストレージャの願いを  作者: 村咲アリミエ
48/59

14 一件落着(1)

 ウラウは、大男だ。横にも縦にも大きい。子供のニールからしてみれば、自分より五十センチ以上も高い相手なんて、まるで巨人のようだった。その男を、白いスーツを身にまとった女性は、軽々と肩に担いでしまった。


「…………」

 開いた口が、本当にふさがらなかった。

 あんなことしちゃうの、あの人。


 ボスは気絶したウラウを肩に担ぎながら、屋敷に歩いて行った。その途中で、思い出したかのようにぴたりと止まり、上を見上げた。


まず、ボスの視線は、ニールと合った。安心しろ、とでも言いたげに、手をすっと挙げ、微笑む。次に、ボスの視線はアクルを捕えた。手をぴんと伸ばし、ぶんぶんと振っている。


「あぁ見えて力持ちだからなぁ」

 ニールの気持ちを読み取ったかのように、隣にいたアクルが言った。ニールが隣を伺うと、アクルはボスに返事をするかのように、片手を軽く挙げていた。その姿を確認したボスは、満足そうに屋敷に戻って行った。


苦笑交じりに、アクルは続ける。

「本当にすごい人なんだぜ」

「…………本当に」

 ニールには、その言葉を返す以外に何も残っていなかった。


 本当に、なんだろう。綺麗。美しい。強い。強情。強力。魅力的。素敵。そんな言葉にはおさまらない人だった。

 屋敷の二階、アクルと共にニールはそこにいて、一部始終をしっかりと見ていた。


 自分のいたグループのボスが、そそくさと逃げようとしたこと。それを、今後所属するグループのボスが止めたこと。

 少しの戦闘。

 ひやっとする場面で、隣にいたアクルがボスを守ったこと。


 信じられないことだったが、アクルはボスの後ろに近づいた女性二人を、見事に撃ち抜いた。屋敷の二階から、しかも、一歩間違えばボスにあたり、一瞬でも遅ければボスの命が危ない場面で、彼は冷静に、確実に仕事をこなした。


 その後、黒ずくめの女性の接近。その女性は、アクルの指示を受け、その場に行った。気配を消せる子なんだと、アクルに紹介された。ヤツキという女性は、二階からではよく分からなかったが、何か行動を起こし、少しだけボスと話すと、屋敷に戻ってきた。きっと何かあったのだろうと、アクルとニールは察していた。


「あの二人はどうするつもりだろう……」


 アクルは、自分が倒した二人を眺めながら呟いた。銀髪の女性と金髪の女性は、肩を撃ち抜かれ、仰向けに倒れたまま起き上がらない。


「……あの二人は」

 死んでしまったのでしょうか。

 ニールがきくよりも前に、アクルが口をあける。


「死んでなんかいないよ。麻酔弾ってやつ。肩を狙って効くなかなって思ったけど、きいたみたいだね」

「ウラウさん……リッツのボスに撃った弾は?」

「あれは普通の弾。大丈夫、足にかすめただけだから、今頃ボスが包帯でも巻いてあげてるよ」

「……アクルさん、僕、よく分かっていないんですけど、リッツがみんなで押し寄せてくるって、アクルさんたちは分かっていたんですか?」


 アクルは窓の外にやっていた視線を、ニールに向けた。


「どうしてそう思うの?」

「アクルさんはすぐに僕を連れて二階に向かいました。僕がミクロ、マクロと屋敷を探検した時には見つからなかった、隠し扉から……だれにも見つかることなく。もし緊急事態だったのに、あんなに冷静に行動できたのなら、凄いなって思って」

「なるほどね。ま、そのとおり、全部全部作戦だったんだよ」

「……リッツのみんなが屋敷に押し寄せてくるような、作戦?」


 アクルを見上げ、首をかしげるニールの姿に、思わずアクルは笑ってしまう。


「そうそう。ちょっと俺が作戦立てて、みんなで実行したの。ニールにはまだ言ってなくてごめんな。今日、言おうとしてたんだよ、本当に。そしたら今日の朝やってきちゃって、あいつら。それはちょっと誤算だったから焦ったけど……こうなるように、俺たちが、仕向けたんだよ」

「……すごいですね」

「ありがと。詳しいことは、もうちょっと落ち着いたら教えてあげるよ」


 アクルはそう言うと、話しはもう終わりだと言うように、ニールの頭を撫でた。ニールもそれを悟ったのか、何も言わなかった。


「んじゃぁ、下に降りようか。ここ、真っ暗で怖いでしょ」

「ちょっとだけ」


 ニールは笑った。その部屋は真っ暗で、光が入ってくる場所は、アクルとニールが門をのぞき見ていた窓しかなかった。アクルが窓を閉め、遮光カーテンで窓を覆ってしまうと、その部屋に光が無くなった。


 ニールはアクルの裾を握りながら、そっとその部屋を出て行った。

 アクルがその部屋のドアを開けた時に、その部屋の隅から音が聞こえた。パソコンを起動する音だ。


 誰か人がいたのか? とっさにニールは振り返って、その音の正体を探ろうとしたが、アクルに背中を押され無理やり部屋から出されてしまった。あまり気にはならなかったが、それでもその瞬間だけ、ニールは違和感を覚えた。


 誰か、いた……?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ