盗聴器と裏切り(5)
ぞくり、とウラウの背も震えた。
「どこでそんな情報を手にしたのか分かりませんが……ウラウさん、エストレージャの、ラインと言う男の接触は幸運です。あいつから情報をもらいましょう。ニールを取り返せたら、そのまま遠くに逃げましょう。あいつの言うことは正しいです」
「エストレージャを敵に回した時点で、逃げた方がいいってことか」
「はい。どんな情報を向こうが握るかわかったもんじゃありません。手があります。後でそれを説明しますが、とにかく明日、私は彼と接触します。
明日そいつと接触しているときに、隙を作りますから、あいつを気絶させることはできますか?」
「相手は盗聴に気が付くような奴だぞ? 隙は作りづらいと思うが……」
「……女の武器を、使ってやりますよ」
ティラはぎりっと、下唇を噛みしめた。へぇ、とウラウが満足そうに笑う。
エストレージャに情報を握られると言う危機的状況を理解していてなお、ウラウはこの状況を楽しんでいた。
「ようし、やってやる」
ウラウはにやりと笑うと、ティラの肩に手を置いた。
「では、まず今からラインに電話をかけますね」
ティラはそう言うと、ポケットから携帯電話を取り出した。
次の日の朝、ラインは相変わらず早起きし、ニールの容体を見た。
今日は部屋が男だけではどうなるかといった実験だったため、部屋にはラインとギル、それにルークしかいなかった。
アクルはじっと待ちながら、ふと天井に目をやった。昨日ギャンが工事して作っていたものは、すでに完成しているようだった。さすがギャン。アクルは心の中で、小さく笑った。
それから三十分後、ニールは起床した。発作は起きた。自ら進んで飛び出て、ニールの相手をしたのはギルだった。相手をしたと言っても、ニールの攻撃を受け流すだけだ。時々他の人にも攻撃をしようとしたが、ほとんどの攻撃はギルに向けられた。
ほとんどいつもと変わらないタイミングで、ニールは力尽きて倒れた。ルークはそっとニールを抱き上げると、ベッドに寝かせてやった。
「周りが男だけだからと言って、力や時間に変化は生じない」
ルークはそれだけ言うと、ふうとため息をつき、椅子に腰かけ、そのまま眠ってしまった。
アクルは部屋を出ると、そのことをボスに報告した。
「明日は女性だけでするのかな?」
「多分そうだと思います。後にルークさんから連絡が入ると思いますが」
「了解」
その後、皆で朝御飯を食べ、各自部屋に戻った。
「アクル」
部屋に戻る途中で、アクルはラインに声をかけられた。ラインはいつものスーツ姿ではなく、ラフな格好をしていた。
「一仕事、行ってくるよ」
「こんな朝からですか?」
「うん。そうだ、もうすぐ作戦決行でしょ? みんなに準備しとくようにって連絡はした?」
「いえ、まだです」
「早めにしておいた方がいいよ。いつになるかわからないから」
ラインの警告に、アクルは素直に従った。
「わかりました。では……お気をつけて」
「うん」
ラインはにこりと笑って、アクルに背を向けた。
アクルは急いで部屋に戻ると、紙に文字を書き、壁にある伝書鳩にそれをつっこんだ。全ての部屋のボタンを押す。これで、伝書鳩を通して送ったメッセージは、各部屋に漏れなく送られる。
「そろそろです。各自準備を開始してください」
紙には、そう書いてあった。