盗聴器と裏切り(2)
できるだけ早く、マリアーナ……ティラと接触してください。
それが、アクルからラインに出た指示だった。
指示通り、ラインは早速ティラに連絡し、会いたいと懇願した。意外にも、相手は次の日に会えると言ってきた。会う場所は近くの公園で、午後一時から一時半までの三十分だった。
ラインは早速、屋敷の中の写真を数枚撮った。ティラに、ラインはエストレージャの一員だと証拠づけるためのものだった。トイレの扉を懸命に写真に収めるラインを、双子が訝しげな眼で見ているところを目撃し、アクルは声をあげて笑った。
次の日、ラインはまた、若者の好みそうな格好でその公園に向かった。半刻には到着し、手には綺麗な花束を抱えていた。そんなに大きなものではないが、上品なものだった。
集合時間ぴったりになったところで、ティラが遠くに見えた。ラインは笑顔で、ティラに歩み寄った。
「ティラ。来てくれてありがとう。これを」
ラインはそっと、手にしていた花束を渡した。
「花は好きだが、信用できんお前からそういうものはもらえない」
ティラはうっとうしそうに、それを払いのけ、傍のベンチにでんと腰かけた。
「そんなこと言わないで、ちゃんとカードも書いたんだ」
ラインは隣に座ると、花束につけてある封筒を指差した。ティラは片眉を吊り上げ、封筒を開けた。そこには、扉の写真や、廊下、部屋の内部の写真が入っていた。
「……中も黒か」
「なかなか綺麗だろう」
「趣味に合わない」
ティラはそう言うと、その封筒だけ取り、尻のポケットにしまった。
「花は?」
「いらないと言ったはずだ」
ラインは俯き、露骨に寂しげな顔をした。
「時間がない。とりあえず内部の写真はもらった。しかしまだ信用できない。これはただの家を撮っただけかもしれないだろう?」
「そんな」
「信用してほしければ、人物も一緒に入った写真を撮ってこい。あぁそれと……これは噂にすぎないんだが、もしかしたら、名刺を持っていたりするか?」
「名刺?」
「あぁ、エストレージャの名刺が存在すると言う噂を聞いたことがある。白に黒い星がでんと印刷されているとか、住所が書いてあるだとか……本当かどうかは知らないが」
「招待状のことだね。それなら今度、それを持ってくるよ」
招待状? 存在するのか? すぐに返答できたってことは……。ティラは心臓が高鳴るのを感じながら、できるだけ冷静を装った。
「どうして信じてくれないんだ?」
ラインが近寄り、問う。
「すぐに信じる奴がいるか?」
「俺はすぐに、ティラしかいないって思った。その直感を今でも信じている」
「…………」
「ティラ、ねぇ」
ラインはそっと、ティラの手を握った。ティラは無言で、ラインを睨みつける。
ラインはじっと、ティラの瞳を見た。絶対にそらしてやるもんか、とティラの瞳が言っていた。
こういう女性大好きなんだけどなぁ。違う形で会えたらなぁ。
そんなことを考えながら、ラインはそっと顔を近づけた。その瞬間、ラインの胸を、ティラがどんと押した。
「調子に乗るな」
「そんな……」
「文句があるか?」
「燃えちゃうなぁ、と思っただけ」
ティラはふんと鼻で笑うと、立ち上がった。
「もう行っちゃうのか?」
「お前が本物であるかどうか、確定したわけじゃないだろう?」
「……分かったよ。また連絡する」
ティラは無言で立ち上がると、挨拶も無しに、ビーノの方へ歩いて行ってしまった。ラインはその背中に、声をかけた。
「大好きだよ」
ティラは何も答えなかった。