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エストレージャの願いを  作者: 村咲アリミエ
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  行動開始(5)

 アクルが部屋で集中して作戦を見直しているとき、ラインとギルはリッツのアジトに近い小道に身を隠していた。背の高い二人はしゃがみながら、こそこそと話しをしていた。


「俺の調べでは、ターゲットは女性です」

 その言葉に、ラインは思わず噴き出す。

「当り前だろう? どんな娘なんだ?」

「こういう娘です」

 ギルはそう言うと、胸ポケットから写真を一枚取り出した。そこには金髪の女性が写っていた。短い髪の毛は、肩の上でまっすぐにそろえられている。前髪はなく、しろい額が見えている。つり目で、写真を見る相手を射抜くような視線を投げかけている。その緑色の目は、白い肌によくはえていた。この年の少女にしては少し派手すぎるメイクを施しているが、なかなかの美人であった。


「こんな写真……どこで見つけたんだ」

 凄いな、とラインはその写真を眺めながら言った。その写真は、隠し撮りしたものでも、友人とともに写っているものでもない。証明写真だったのだ。背景は白く、胸から上が写っている。


「どうも情報を集め始めると、止まらなくて」

 ギルは苦笑いをすると、写真をもう一枚胸ポケットから取り出した。

「前身はこんなかんじです」

 その写真も、やはり証明写真のようなものだった。背景は白く、質素な服を着ている。


「だからどこで手に入れた……」

「彼女、一時はモデル志望だったみたいですよ」

 ギルはそれだけいうと、服の裏にあるポケットから地図を取り出した。


「彼女はいつも、この時間帯になるとこの場所にたばこを吸いに出てきます。たいていはひとりです。ひとりじゃなければ、明日に来ましょう。でも、多分ひとりです。基本ひとりで吸いたがるようで、仲間に一服するからどこかにいけと言うこともしばしばあるそうです」

「情報元は」

「うわさ話ですよ」

「……凄いなぁギルは」

「病気みたいなもんですからね」

「俺もだけど」


 ラインは美しくそろった白い歯をのぞかせ、意地悪そうにほほ笑む。

「楽しみだなぁ。こういう気の強そうな子、嫌いじゃないよ」

「あくまで、仕事ですから、ねっ」


 ギルは念を押すように、ゆっくりと言った。はいはい、とラインは手を振る。

「だーいじょうぶ。余計なことはしないって。みんな心配し過ぎなんだよ」

「心配もしますよ……実力と過去の経験があるんですから」

「いい褒め言葉だ」

「ラインさん……」

「ふふ」


 ラインは写真をギルに返すと、じゃぁね、と手を振った。

「行ってくるよ」

 立ち上がろうとするラインを、ギルが呼びとめる。

「待ってくださいラインさん」

「ん?」


 ラインは座りなおし、首をかしげた。

「俺は先に帰ってます? それとも待ってましょうか」

「そうだな……まぁ帰ってて大丈夫だよ。情報収集したいのなら、してから帰るといい。ひとりで待たすわけにはいかないからね」

「了解しました。それと、彼女の名前は……」

 ギルの口を、ラインの人差し指がふさいだ。

「それは言わなくていい。初めて出会ったときに、名前を聞くのも俺の楽しみの一つなんだから」

 ふふ、とラインは笑うと、腕に巻いてある包帯を指でいじった。


「フローラとかがいいなぁ」

「フローラですか」

「フローラって感じじゃないだろう? そのギャップがたまんない」


 じゃぁ行ってくるね、とラインは立ち上がり、ラインに背を向けた。

「あ、どういう方法を?」

「ん? あぁ、彼女にどうやって接触するか?」

 ラインは振り返ると、今度は長い人さし指を自分の唇にあてた。


「秘密だよ。帰ったら教えてあげる」

「楽しみにしてますよ」

 ギルは、右手をあげた。

「ご健闘を祈ります」

「任せといてよ」


 ラインはそういうと、駆け足で細い路地を曲がった。ギルはラインが行ったのを確認すると、しばらくしてからその場を離れた。彼が目指したのは、近くの公園だった。その公園は、リッツのメンバーがうろうろしていた。そこで情報が集められたら、と思ったのだ。


 ふと、ギルは振り返った。もちろんその視線の先に、ラインはいない。

 うまくいきますように。

 ギルは、心の中で願った。

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