表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エストレージャの願いを  作者: 村咲アリミエ
13/59

5 ニールの過去

 僕は、二つの病気を持っているんです。


 病気と言っても、風邪とかそういう種類のものではなくて、癖と言うか……うまい言葉が見つからないので、病気と僕は表現しているんですけど。


 幼いころ……今も子供ですけど、本当に記憶があるかないかってころから、僕はおかしかったんです。そのころはおかしいって思っていなかったんですけど、今考えたらそのころから異常だったんです。


 見るものすべてが、どの道具でも、どうやったら人を傷つけられるかが分かるんです。机も、椅子も、髪の毛も、窓ガラスも、花も木も、全部。


 ただ、幼いころは、ただあれはこうやって使ったら効果的だな、とぼんやり考えるぐらいだったんです。だれかにそれを話したこともなかったですし、実行してみたこともありませんでした。



 三年前のある日……朝だったんですけど、家に強盗が入ってきたんです。スーツ姿だったので、多分その姿に騙されて、母はそいつらを家に招き入れてしまったんです。


 最初、僕は寝ていました。母親の叫び声で目が覚めたんです。慌てて叫び声の方に向かったら、背の高い男が二人いて、母の髪の毛を掴んで……大丈夫です。怖い思い出ですけど、大丈夫です、話せます。


 それで、髪の毛を掴んで、金を出せ! って怒鳴っていたんです。

 父親は出かけていて、家には誰も助けてくれる人がいなかったんです。しばらく恐怖で立ちすくんでいました。そうしたら、髪をつかんでいなかった方の男が、僕を見つけたんです。睨まれました。

 その瞬間だったんです。傍にあった花瓶を、僕はなるべく音が鳴らないようにそっと割って、破片の中で一番使いやすそうなものを手にしたんです。


 怖くはなかったんです。まずは、何も知らずに近づいてきた男の手首を切りつけました。相手が手を伸ばしてきたので……きっと人質にしようと思ったんでしょうね。よくわからないですけど、取りあえず切りつけたら、男は大声を出して膝をつきました。


 奥で、もう一人の男がどうしたんだ? と叫ぶ声が聞こえました。

 僕は切りつけた男を避けて、もう一人の男の方へ走って行きました。

 もう一人の男も、動揺して動きませんでしたよ。


 足を切りつけて、態勢が崩れた瞬間に手首を切りつけました。それで、二人は喚きながら出て行きました。

 母親は、僕に感謝していました。そのときは、なんですけど。

 ありがとう、助けてくれてありがとうって。


 そこで終わっていたらよかったんですけどね。


 次の日、悪夢で目が覚めました。その男たちの夢です。鏡を見たら、僕の目は真っ赤になっていて、怖くて、少しだけなんですけど、暴れました。家具を壊して、ベッドを破って。


 母親はびっくりしていましたけど、昨日の今日だから、と僕を慰めてくれました。

 でも、次の日も、次の日も、僕は悪夢で飛び起きて、鏡を見たら目が死んでいたり、隈がひどかったり、赤かったりしたんです。そのたびに、発作と言うか、怖くて、周りのものをとにかく破壊していました。


 母親は心配して、僕と一緒に寝てくれたんです。

 その次の日、悪夢で飛び起きて、でも母親がいたので、少し安心したんです。

 母親は、すぐに起きて、大丈夫かと声をかけてくれたんです。

 そうしたら……スイッチが入ったように、何かを壊したくなりました。


 リッツの人には、破壊衝動っていうんだ、と教えてもらいました。

 危うく……母親を傷つけてしまうところでした。すぐに母親が逃げたからよかったんですけど。


 母親は僕を怖がるようになりました。僕も怖かったし、母親を傷つけたくはなかった。


 だから、家を出ました。家出です。


 さっき、家族はいないって言ったんですけど、正確にはいます。でも、僕はもうあの家には戻りたくないので、いないも同然です。だからいないと言ったんです。


 家を出た後は、路地で過ごしました。ホテルで生活するお金はありませんから。

 一年ぐらいしてやっと悪夢は治まったんですけど……何かを壊したい、っていう気持ちは毎朝起こるんです。


 意識ですか? ふわっとしてます。遠くでもう一人の自分が見ているというか。最近は記憶そのものがとぶこともしばしばあるんです。朝起きたら、周りの物が壊れていた、なんてことがよくあります。

 鏡をのぞくと、起こるんです、発作が。それだけは分かっているんです。鏡を見ないと、母親を襲った時みたいに、いつ発作が起こるかわかりませんから……毎朝起きたら、鏡を見て発散しています。


 一日一回ペースなんです。起きてすぐ、発作が起こるんです。

 最初は十五秒もなかったんですけど……最近では長くなってきてて、三分ぐらいですかね。リッツの人が言っていたので、正確にはわからないんですけど……そりゃぁ、怖いです。


 あ、そうだ、リッツに入ったのは、路地裏で、一人暴れていたときに、リッツのメンバーの人が通りかかったんです。というかその人は逃げていて、助けるつもりはさらさらなかったんですけど、多分人に反応して、リッツのメンバーを追いかけていた人を、木か何かで殴って気絶させてしまったんです。


 リッツの偉い人が、それを聞きつけて、一人でいるのはなんだからと、僕に寝床をくれたんです。普段は雑用してます。リッツの人たちとは正直なじめていません。とりあえず、住まわせてもらってます。


 リッツのメンバーは、僕の病気について知ってるので、暴れているときは誰も入ってきません。むしろ逃げてます。でも、今日の朝、僕が暴れているところに女性が入ってきて……今日の記憶は、ぼんやりですがあるんです。その人は見たことがなかったから、多分新入りだと思うんですけど。音がしたから、心配して見に来てくれたんじゃないですかね。その人に襲いかかっちゃったんです。その女性を、お二人に助けてもらったんです。


 あのときに助けて、逃げてって言った理由? あ、それは……えっと、実は僕じゃなくて、彼女を助けてくれてありがとうって言おうとしたんです。逃げても、お二人に逃げてほしくて……でも、意識が朦朧としていて、はっきりと言えなかったんですね。


 怪我の手当てまでしてもらって、感謝しています。おいしいフルーツも、ごちそうさまでした。でも、僕はリッツに帰ります。というより、ここにいたくない。また明日の朝、僕は暴れだします。迷惑はかけたくないですから……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ