1 プロローグ
1 プロローグ
そこはまるで、廃墟のような空間だった。
ずたずたに引き裂かれたカーテン。粉々に砕けた窓ガラス。その破片で傷つけられた羽毛布団。そこからはみ出る羽毛。足が折れかけたベッド。壊れた引き出し。
割れてしまった鏡は、これでいくつ目だったか。
「……どうして」
ぼろぼろになった部屋にいる少年は、答えのない問いをぶつけた。何にぶつけたかもわからないまま、その問いは静かに消える。
「どうしてこんなに壊してしまった?」
誰かが答えてくれたら、どんなに楽なことか。
「なんで毎日?」
どうして、毎日こんな悲惨な状況の中、目を覚まさなくてはいけないんだろう?
「僕はおかしいのか?」
朝から、自問自答の毎日。少年は、頭をかきむしった。
僕はおかしいのか、なんて質問、馬鹿らしい。
僕はおかしいんだ。そんなの、知っていた。少年は、ずっと前から、自分がおかしいことを知っていたのだ。
昨日の夜、どうやっても襲ってくる睡魔を前に、少年は仕方なく寝床につくことにした。その前に睡眠を取ったのは、一日と少し前のことだった気がする。小さな部屋を綺麗に片づけ、そっとベッドにもぐりこんだ。
少年は、眠るのが嫌いだった。眠りたくない。しかし、そんな気持ちとは裏腹に、あっという間に少年の意識は夢の中に消えていった。
そういえば、悪夢を見たことを思い出した。胃がぎゅっとなるような、気味の悪い夢だった。内容は覚えていなかったが、何度も見た夢のような気がしてならなかった。
そんな夢から目が覚めて、また少年は地獄を見た。あんなに綺麗に片づけたはずの部屋が、荒らされていた。隅から隅まで、破壊されていた。
犯人は、自分自身だった。記憶にはないが、手の痛みがそれを証明していた。少年はそっと掌を見つめた。何かの破片で切ってしまったのだろう。小さな切り傷ができていて、ちくちくと痛んだ。少年は手を握り締めようとしたが、痛さで顔が歪んだだけだった。握りかけた手は、頼りなく震えていた。
「誰か助けてくれないかな……」
叶うはずもない願いを、少年は今日も唱え続けた。声が、手とともに震えていた。齢自分が情けなくなった。
涙がまた、流れた。