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第5話 もうすぐバレンタイン

 茂人は真っ直ぐ家に帰り、服を着替えて自転車でクリーニング店に直行した。行きつけのクリーニング店は、割引セールをしていていつもより値段が安かった。

 美子から貰ったお金で充分足りて、おつりが返ってきた。

 カツカレー代を入れたとしてもお金あまるよな……。美子に返した方が良いとは思うが、もう一度会いたいとは思わなかった。あの女、俺のタイプじゃないし。電話かけて呼び出して、変に勘違いされても困るんだよなぁ……。俺に一目惚れとかされても迷惑だし。

 茂人は余計なことを色々考えながら、自転車を飛ばしてそのまま近くのスーパーに走った。今日も母親からのメールで、夕食の材料を頼まれていた。買い物だけではなく、結局茂人が料理も作ることとなる。一応嫌な顔はしてみせるものの、茂人は買い物も料理も好きだった。

 夕方近くになり、スーパーは主婦を中心とした買い物客で賑わっていた。

 茂人は買い物かごを手にとって、店内に入る。割と大きなスーパーで食材は多くなんでも揃っているが、値段はあまり安くなかった。

 タイムサービスの時間はもうちょっと遅い時間だからなぁ。今日の目玉商品は何だろう?チラシチェックしとけば良かった。

 専業主婦より主婦らしい考えをしながら、茂人は野菜売り場へと向かう。

 今日はカレーライスとポテトサラダにしよ。お昼に食べ損ねたもんな。……そう言えばあの女、俺のポテトサラダ食ったんだろうか?……。唯一無事だったポテトサラダのことをふと思い出す。俺も食いたかったなぁ。けど、美子とかいうあの女、変な奴だ。直樹に負けないくらい変だ。

 茂人は、美子の糸のような目を思い出す。どうもさっきから美子の顔が頭から離れない。美しい子と書いて『美子』かぁ……。茂人はプッと吹き出す。珍しい顔だったよな。今夜夢に出てこなきゃいいけど。

「うわっ、野菜高い……」

 茂人は野菜の陳列台を見て、思わず声を出す。レタス一個、三百九十八円! キャベツ一個、四百九十八円!……。このところの大雪の影響で野菜はどれも高値だった。

 もうちょっと安いスーパー探してみるか……。茂人は渋々レタスをかごの中に入れる。

 買い物を済ませレジに並んでいると、レジ横に『バレンタイン・デイ』コーナーが出来ていた。各種チョコレートが陳列されている。

 もうちょっとでバレンタインだもんな。去年、茂人はバレンタインのチョコを一個も貰わなかった。高校生の時は義理チョコというのを何個が貰ったのだが、大学では義理チョコさえもらったことはない。もっとも、茂人は貰ったチョコを義理チョコだとは思っていなかった。

 大学生ともなると、チョコを渡すのも色々考えるんだろうなぁ。そのまま付き合えば『結婚』ってことになる可能性もあるわけだし。俺二十歳、親の許可なしに結婚出来る年だ。茂人はククッと含み笑いする。今年は篠原百合香からチョコもらえるかもしれないな。

 茂人は百合香の顔を思い浮かべうっとりとする。


 茂人が自転車を走らせて家に戻って来ると、玄関先に弟の健人とガールフレンドが立って楽しそうに喋っていた。ママチャリに買い物袋をつんだ茂人は、横目で二人を見るとキキィとブレーキをかけて自転車を止めた。

「よぉ、兄貴買い物お疲れ!」

「わあ、スゴイ! 健人のお兄さんって主婦みたいだね」

 ガールフレンドは大きな買い物袋を手に持つ茂人を見て笑う。

「主婦じゃなくて主夫だよ。読み方は一緒だけど」

 健人も笑う。茂人は舌打ちしながら、二人を無視し家に入る。

 お気楽な弟め! また別のガールフレンド連れて来やがって。

 去年も健人は山のようにバレンタインのチョコを貰っていた。健人がチョコが好きじゃないため、健人のチョコの大半を茂人はいつも食べることとなる。チョコ好きの茂人には嬉しくもあったが、少しだけ惨めな気持ちにもなるのだった。

 フン、今年は百合香の手作りチョコをゲットだ! バレンタインのチョコは量じゃなくて質だ。本命からのチョコ一個貰う方が断然価値があるもんな。百合香はどんなチョコ作ってくれるんだろう?

 すっかりチョコを貰えると確信している茂人は、鼻歌交じりに台所へと向かった。




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