表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/25

第1話 あぁ、勘違い

 二十歳の茂人は、中流大学の経済学部二回生。電車で片道30分の道のりを、自宅から通っている。欠講することもなく、毎日真面目に通っていた。

 サークルにも入っていない、バイトもしていない、彼女がいないばかりか友達さえいない茂人にとって、学校に行くこと以外何もすることがなかった。大学に入学した理由も、もっと勉強したいことがあるとか、将来のことを考えてとかいう目的があった訳ではない。 ただ、まだ就職する自信がなかったからというのが本当のところだ。とりあえず大学に入ろうということで、自分のレベルに合った大学に入った。先のことなど何にも考えていない。

 しかし、茂人はいつも思っている。『俺ってなんて真面目なんだろう。大学一の優秀な学生だ。顔と性格がいいばかりではなく、頭までいいんだなぁ……』と。本当は、試験ではいつも追試を受けるギリギリの線なのだが。



 今朝も茂人は朝の七時に起きて、ゆっくりと朝食を摂っていた。一時限目の講義は9時からなので、八時過ぎの電車に乗れば余裕で間に合う。苺ジャムをたっぷりぬったトーストにかぶりつき、口をモグモグさせていると、ドタバタと階段を駆け下りてくる足音がした。

「わぁ、やばい! 朝飯食ってる暇ねぇよ!」

 高校二年生の弟、健人けんとが台所の掛け時計を見て叫ぶ。

「もっと早く起きろ」

 茂人は横目で健人を見て呟く。

「兄貴と違って俺は夜遅くまでバイトしてるからな。その上に勉強やデートで忙しいんだよ」

 健人はそう言い、テーブルの上の紙パックの牛乳を掴むとそのままゴクゴクと飲んだ。

「おい、コップに入れて飲め!」

「じゃ、行って来ます!」

 茂人の言うことは無視し、健人は手で口を拭うとそのまま慌てて家を出て行った。

「チッ、あいつはいつもラッパ飲みしやがる……行儀悪いよな。その上、態度もでかい。弟のくせに……」


 なんで、あんな奴に彼女が何人もいるわけ?そのことも茂人には不思議なことの一つだった。健人は小学生の頃から女の子にモテて、女友達がたくさんいた。中学生の時にはもう彼女がいた。しかも、茂人が知っている限り三人の女の子と付き合っていたようだ。高校生になった今も、複数の女の子と付き合っている。

「信じられん……俺の方が断然カッコイイのに」

 茂人はいつも持ち歩いているコンパクトを取りだし、自分の顔を映しだしてみる。

 きっと、俺が長男だからだ。長男ってなんとなく女の子に嫌われるんだよなぁ……茂人はそう考え、軽くため息を吐く。今時、長男だからといって付き合うのをやめる女の子がいるのか?というツッコミを入れる人間はその場にはいなかった。


 茂人は朝食を食べ終わると、食器を洗って乾燥機にかけ、牛乳やジャムは冷蔵庫にしまい、テーブルの上を拭いた。両親はとっくに仕事に出かけているので、いつも一番最後に家を出るのは茂人だった。それで、食事の後かたづけは茂人の仕事となる。時々、洗濯物を干し忘れた母親の代わりに洗濯物を干すこともある。ブツブツ文句を言いながら家事をこなす茂人だが、案外家事が嫌いではない。スーパーのチラシをチェックして、学校の帰りに買い物をすることもある。冷蔵庫にある在庫品は、母親より良く知っている。

 洗濯物の取り入れも、一番早く帰って来る茂人の役目だし、時々アイロンがけや取れかけたボタンを縫いつけたりもしている。


 あぁ、やっぱり長男って損だよなぁ……好きでやっているということに気付かない茂人は、物思いに耽りながら玄関のドアに鍵をかけ家を出る。あっ、でも、こうして憂いを帯びた顔で考え事をしている俺って、かなりカッコイイかも。茂人は一人でニンマリと笑う。

 茂人は気持ちの切替も早かった。

 こうしていつものように、茂人の一日は始まる。





プロローグとエピローグは一人称、他は三人称で書いていこうと思います。

茂人はこういう人間なのです。温かく見守ってやって下さい。(^^;)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ