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第15話 美子の両親

「え?……俺、何かしたっけ?」

 茂人はポリポリと頭を掻く。急に真剣な顔をして茂人を見つめる美子に、茂人は少し照れた。

「うちに来てくれて家事を手伝ってもらえて、すごく助かってます。家族みんな感謝してます」

「でも、これバイトだし」

「成川さんの気持ちが嬉しいんです! 私、ほんとに家事が苦手なんで」

 美子がにこっと笑う。

「……」

 あれ? なんだ? 今、こいつのこと一瞬だけ可愛いなんて思ったぞ……。茂人は自分自身の気持ちに驚く。何でだ? こいつってブスなのに……。

 茂人は頭を左右にササッと振って、心の動揺を紛らわせた。

「じゃ、挨拶だけでも」

「はい!」

 茂人は美子に導かれ、奥の部屋に行った。畳みを敷いた和室に仏壇が置かれ、美子の母は手前に布団を敷いて横になっていた。美子の母も美子にそっくりだった。当たり前のことだが、血の濃い家族だと茂人は思う。

「成川さんですね? 美子がお世話になっております」

 美子の母は、布団から体を起こし笑顔を向ける。

「あ、いえ……こちらこそ」

 元来人見知りの激しい茂人は、どう挨拶していいか分からず戸惑う。

「美子に家事のこと色々教えてやって下さいね」

「あ、はい……」

 茂人は軽く頭を下げる。

「美子の言ってたとおりです」

 母親は茂人を見ながらフフッと笑った。

「え?」

「成川さんはとてもハンサムな方ですね」

「は?」

 茂人は固まる。今思えば、人からハンサムなどと言われたのは初めてだった。自分ではそんなの当然だ思っていても、人からは言われたことなどない。

 ……そりゃそうさ、誰が見たって……。茂人はそう思い軽く笑おうとしたが、顔が強ばって笑えなかった。美子に目を移すと、相変わらずにこにこと笑っていた。

「これからも美子のことをお願いしますね。美子にボーイフレンドが出来たの初めてなんですよ」

「はぁ……」

 何をお願いされたのだろうかと、茂人は曖昧に返事する。

「美子は良い子です。顔だって昔美人でしょう?」

「……」

 昔美人? 確かに目が細くて下ぶくれで……。今が平安時代なら、紫式部なみの美人かもなぁ……。茂人はどう答えて良いか分からず、少しだけ口元をあげて笑った。

「お二人がこれからもずっとお付き合いしてくださると嬉しいです」

「お母さん、成川さんとはまだ知り合ったばかりだから」

 美子が膨らんだ頬を赤く染めて笑った。……なんだ、この雰囲気は、まるで親に彼氏でも紹介してるみたいじゃないか!

「あの、それじゃ、遅くなるんで夕ご飯作ってきます」

 茂人は気持ちを切り替え、サッと立ち上がった。勘違いしないでくれよな、俺、ここにバイトに来ただけだから。

「はい! お願いします」

 美子は明るく返事して、仏壇の方へと歩いて行った。あぁ、美子の父親半年前に亡くなったとか言ってたっけ……。茂人はチラリと仏壇の方へ目をやる。遺影には美子の父親の姿があった。似たもの夫婦なのかと思っていた茂人だが、美子の父親はきりりとした顔立ちの男前だった。美子たちきょうだいはみんな母親似だと言うことが茂人には分かった。 美子は仏壇に供えていたリンゴとバナナをさげて、茂人の方へ歩いてきた。随分長く供えていたらしく、バナナはシミだらけになり、リンゴも腐りかけの匂いが鼻をつく。

「もっと早く取り替えろよ」

「忙しくてつい忘れてました。でも、今日は新鮮な苺をお供えするんで、父も許してくれると思います」

 美子は屈託なく笑う。後で美子の母親が目を細めてその様子を見つめていた。なんとなく、茂人は美子達親子の家族の絆を感じる。美子がこんなに素直で明るいのは、きっと家族の中に愛がいっぱい溢れているからだと思ったりする。茂人は美子の細い目と団子鼻につい見とれてしまっていた。


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