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第12話 初めてのバイト

 美子が病院に行った後、茂人は台所に入って行った。

「ゲッ、食器洗ってないじゃん……」

 小さな流しには、いつ置いたか分からない食器類が汚れたまま残っていた。しかも三角コーナーには生ゴミが入ったままだった。

 汚い流しって許せないんだよなぁ! 茂人はムッとしながら、さっそく食器を洗いにかかる。

「お兄ちゃん、こんにちは」

 さっきぐずっていた美子の妹が、テーブルについてプリンを食べている。茂人を見ると、にこにこ笑って足をブラブラさせながら、美味しそうにプリンを口に含む。お世辞にも可愛いとは言えない幼稚園児だが、にこにこ笑顔には愛嬌があった。

「……こんにちは。えっと、恵子ちゃん」

「恵ちゃんって呼んで。お兄ちゃんプリン食べる?」

「いや、今はいいよ」

 小さな子の扱いに慣れてない茂人は、短く返事してスポンジに洗剤をつける。

「お兄ちゃん、名前何て言うの?」

「え、成川茂人」

「ふ〜ん、茂ちゃんって呼んでいい?」

「……あぁ」

 恵子のお喋りはそれからも延々と続いた。茂人は適当に返事を返しながら、食器を片づけ、冷蔵庫の野菜や魚を使って手早く鍋料理を作った。

 簡単な鍋料理にしてみたけど、味は完璧だな。茂人はスープを味見して満足する。

鍋から熱い湯気が立ち、いつでも食べられるようテーブルに食器をセットした頃、美子が帰って来た。

「お姉ちゃん、今日はお鍋だよ! 茂ちゃんが作ってくれたの」

 恵子は美子の姿を見ると走って行った。

「わあ、美味しそうな匂いがするね」

 美子は団子鼻をクンクンさせながら、台所に入って来る。

「あのさ、食器くらい洗っとけよ。それに、布巾汚れてたからまな板と一緒に漂白しといた」

「ありがとうございます! 洗う時間がなくてついそのままにしていました」

「じゃ、俺、帰るから」

 台所の時計は七時を回っていた。家には遅くなるとメールを入れていたが、帰れば家の夕飯も作らないといけない。

「成川さんも一緒に食べませんか?」

「いいよ、もう遅いし」

「そうですか。……あの、もし良かったら母親の病気が治るまで、家でバイトしてもらえませんか?」

「え? バイト?」

「家事をしてもらいたいんです。あの、成川さん、得意そうですし」

 美子はニッコリと茂人に笑顔を向ける。

「得意って訳でもないさ」

 この女、俺に家政婦、いや家政夫のバイト頼むつもりか?……。ま、こいつには家事なんか出来そうもないよなぁ。バイトってやったことなかったし、小遣い稼ぎにはなるよな……。茂人は色々と考えをめぐらせる。

「バイト代にうちのお野菜もつけますよ」

 美子はにこにこ笑顔で茂人に迫る。大好きな家事の仕事だけでなく、新鮮な野菜までもらえる! 茂人は即答で返事をしたかったが、一応考えているフリをする。

「……そうだなぁ。ま、君の母さんのためだ。良いよそのバイトしても」

「ありがとうございます!」

 美子はペコリと頭を下げた。恵子も真似して頭を下げる。

「では、明日から毎日学校が終わったら来て貰えますか?」

「あ、あぁ」

 茂人は頭を掻きながら短く返事する。クールに見せながらも、心の中では万歳をしていた。


「茂ちゃん、バイバイ!」

 すっかり恵子に気に入られた茂人は、恵子に手を振ってもらいながら店を後にした。自転車の後と前の籠にはどっさりとお野菜を詰め込んでいる。

 すっかり日は落ち、空には星が瞬いていた。『にこにこ青果店』に来ると何故か心が軽やかになる。茂人は自然と口笛を吹きながら、自転車を漕ぎだした。

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