第10話 気になるメール
部屋の机の前に座り、茂人はケータイを見ながらニンマリする。さっき、百合香からお礼メールが届いたところだ。女の子からメールを貰ったのは生まれて初めてだった。今までほとんど使用されていなかったメール機能をフル活用し、茂人はさっそく百合香にメールを返信する。
え〜と、顔文字と絵記号……。いきなりハートマークっていうのは、やりすぎかなぁ……。花マークにしとくか、あっ間違えた! 操作を間違えて、せっかく書いた文章を全部消してしまった。
チッ、またやり直しだ。茂人がもう一度打ち直していると、メールの着信音が鳴った。 えっ? 百合香からまたメール?? 心の中ではもう呼び捨てだ。茂人が着信メールを見てみると、直樹からのメールだった。
「なんだ、彼奴かよ……。彼奴にアドレス教えたっけ?」
不審に思いながらもメールを見てみる。そこには、『カメラは見た! 成川君の熱愛発覚!?』と書かれ、添付画像が載っていた。
「なんだコレ!」
茂人と百合香が二人並んで歩いている写真だ。彼奴はいつの間に……。ストーカーのような直樹の写メールを不気味に思いながらも、茂人はまんざら嫌な気分はしなかった。
芸能人のスクープみたいだなぁ、と少し浮かれた気分になりながら、茂人は百合香へのメールを打ち始めた。
その日から、百合香は茂人に気軽に話しかけるようになった。付き合うようになった、という関係ではないが、茂人にもようやく友達らしい友達が出来たわけだ。他の学生達は、茂人に話しかける百合香を信じられない目で見ていたが、茂人は全く気にしていなかった。
「いいなぁ、成川君は。バレンタインデイには、ミス・キャンパスとラブラブな夜を過ごすんだよね……」
相変わらず茂人に付きまとう直樹が、羨望の眼差しで茂人を見つめる。
「……ま、まぁ、そうだな」
茂人の頭の中を色んな想像が駆けめぐり、頬が紅潮する。
「知ってる? 篠原百合香って、今まで誰とも付き合ったことないんだよ」
「えっ!? ウソだろ……」
あの美貌とあの性格の良さで? 男が放っておかないだろ。ていうか、呼び捨てにするな。
「噂では、言い寄ってくる男を片っ端から振ってるみたいだよ。男に興味ないのかな?」
「そんなことないだろ。俺には興味あるみたいだし」
「はぁ、そうだね。成川君みたいなのがいいのかもね」
「そうそう」
普通の男とは一味も二味も違う茂人に興味を示す百合香は、ちょっと変わった趣味をしているのだと直樹は思った。だが、茂人は素直に喜んでいた。
と、茂人のケータイが鳴った。
「あっ、もしかして篠原百合香!?」
だから、呼び捨てにするな! 茂人は期待しながら大慌てでケータイを見る。
「……チ、母さんだ」
期待空しく、母親からのメールだった。『帰りに「にこにこ青果店」で野菜を買って来なさい』有無を言わさぬ短いメールだった。
『にこにこ青果店』にはしばらく行ってなかった。たくさん買いこんでいた野菜も在庫がなくなってきていた。ここ数日百合香のことで頭がいっぱいで 、美子のことなどすっかり忘れ去っていた。
そう言えば、あの女大学では全く会わないな……。まだ、母親が病気なのだろうか? 何故か少しだけ気になる。自転車で片道四十五分の道のりはきついがまた行ってみようかと、にこにこマークの笑顔を思い出しながら茂人は思った。