にのに
「『…………な、──』」
「ん、何、ギーペ、「な」って?」
「『──何が安全だ?! めちゃめちゃスピードが出て、危なかったじゃねぇか!?』」
「──ああ、確かに。『道』から出たところに、通りかかった人がいたのは流石にビビったよ」
ギリギリなんとか衝突事故は回避できたけど、冷や汗ものだった。まだちょっと、さっきのドキドキが残っている。
「『ソレもそうだが、そうじゃねぇ!』」
「……、じゃあ、なに?」
「『だから、スピードの出し過ぎだったっつってんだ! そもそも、スピードを抑えてりゃ、さっきのニアミスも避けられたんだからな!!』」
…………。言われてみればそうだ。
ついスピードにのった爽快感が気持ち良くって、最後まで風を感じていたいという欲求を自制できなかった。
以後、気を付けるように肝に銘じておこう。──反省。
「……ギーペ、ごめん。みぃも恐い思いをさせてごめんね」
「『わかりゃいいんだよ』」
「……」
──ふるふる。ぽんぽん。
しかし、予想以上の速さが出たな。まさか、現在地までバスだと三十分かかるのを十数分で到着とか、いろいろ差し引いても充分に早い。
それに、さっき反省したばかりだけど、風を切りながらの滑走はクセになりそう。
「それじゃ、電波塔に行こうか」
ここからだと、目的地である電波塔まではバスで二十分強。予定していた時間よりも早く現在地に着けたので、一本はやいバスに乗れそうだ。
──清美市中央地区中央公園のそばにある電波塔。東西南北の各地区に中継・補助・予備を兼た計四基と合わせて五基で、清美市市街地の電波事情を一手に担っている重要施設。
その外観は現在は無きスカイツリーをモデルにしているのだそうだ。ちなみに、東西南北の四基は旧東京タワーがモデルなんだとか。
「『しっかし、観光名所の一つだってーのに名前が電波塔って用途のまんまとか、ネーミングセンス云々以前だな!』」
「ギーペ、そういうのは思っても『言葉』には出さないもんだよ……」
「『ハッ。オレ様は基本正直がモットーだからな!』」
もう、少しは余計なお喋りは控えてほしい。展望デッキにいるわたしたち以外のお客さんが、チラチラとこちらを見てくるのだ。
恥ずかしいったらありゃしない。
ここはとっとと目的を済ませて、少しもったいないけど今日は退散しよう。
じゃあ、まずは北側。
展望デッキの窓の外、眼下に広がる光景はビル群が視界の半分以上を占めている。
確か、北地区の特色はオフィス街だったっけ。
次に東側。
東地区はお店が最も多く、全国からここにあるお店を目的に来る観光客もいる。
その次に南側。
南地区には清美市への現在唯一の出入り手段である鉄道があり、観光拠点として宿泊施設が多数。
さらに、観光客を意識して街の景観が他地区とは毛色が異なり、ヨーロッパのレトロな街並みを模していて、古めかしいデザインの路面電車なんかも走っている。
そして、西側。
西地区は他地区よりも格段に教育機関が多い。
なんでも、隣接している清美グランドパークとパーク内にある各種施設の運営管理維持に必要な多種多様な職員の育成と人材人員の確保が目的でそうなったんだとか。
……ふぅ~。
これで一通り街の景観は見た。さて、
「『で、何処に行くんだ?』」
「そうだね~……──」
うーん……、う~ん……。
……うん。
「今日は北地区を散策しようと思う」
「『その心は?』」
「うん、北地区はオフィス街だし、普段もそう行くことないだろうから、かな」
「『……フム、成る程な』」
「みぃもそれでいい?」
「……」
──コクリ。
「よし、それじゃ行こうか!」
中央地区の電波塔を後にして、バスに揺られて小一時間で北地区に移動したわたしたち。
現在は電波塔の展望デッキから見下ろしていたオフィス街の中を風の吹くまま気の向くままにブラブラしている。
「『なあ、カレン。今更言うのも何だが、北地区はさきの電波塔でもう暫く眺めるだけでよかったのではないか?』」
「まー、ギーペの言い分にも一理はあるけど、遠くから眺めているだけじゃ見えないものが、赴いたことで発見できることだってあるんだから、一概には徒労とは言えないよ」
「『そうか? 発見できたのは『道』ばかりではないか。今からでも遅くはない。東地区に移動して美味いものを食べ歩きしねぇか?』」
確かに、ギーペが言った通り発見できたものは『道』が殆んどだ。でも、それ以外にも色々と発見はできた。
例えば、今現在、眼前に佇むオルゴール屋。
ここは先に述べた通り、オフィス街でビルが多い。それ故に、ビルより低い建物はビルの陰に隠れてしまい遠目からでは見えない。
「ギーペの提案も捨てがたいけど、せっかくこうして見付けたんだから、ちょっと覗いていくくらいはいいと思うんだけど、どうかな?」
「『なんだ、カレンはオルゴールに興味があるのか?』」
ギーペに言われて改めてオルゴール屋を見やる。一応、オルゴールのことは知識としては知ってはいるけど、現物は見たことがない。
「う~ん……。うん、ある!」
さっき自分で口にした通りここは「せっかく」だし、俄然興味が湧いてきた。
「『……仕方ねぇーな。ちょっとだけだぞ。軽く店内を覗いたら、とっとと東地区のグルメストリートに行くぞ!』」
……………………!
「『なんだよ、カレン。なんか不満でもあるのか?』」
…………。
「ううん。ごめん、ギーペ。気付いてあげられなくて」
「『は? カレン、何を謝って……──って、おい、何故オレ様を下ろすのだ?!』」
「はい、コレ。五千円分チャージしてあるから」
「『??? 先程から一体、何なのだ?!』」
「バス代を引いても充分に食べ歩きできるから、先に行ってて」
「『──だから、何だと言うのだ!!?!』」
「だって、ギーペお腹ペコペコなんでしょ? 時間だってお昼回ってるし。わたしとみぃはオルゴール屋寄ってから行くからさ」
そう、ギーペは先ほどから東地区に移動して、食べ物を食べたいと訴えていた。
なのに、わたしときたら──
「『──だらっしゃー!! オレ様の話を聞けーーーッ!!!!』」
「っ!? ……でも、ギーペ、早くお昼ご飯食べたいんで────」
「『だ~か~ら、オレ様が何時、直ぐ様昼飯食いてーって言った?』」
「だって、さっき東地区に行って美味しいもの食べたいって……、それにちょっとだけって……」
「『……………………あー、もう、わかった! カレンが気が済むまで、オルゴール屋にでもなんでも付き合ってやる!!』」
「……ホント?」
「『ああ、ホントだ!』」
「ありがとう、ギーペ」
「『フンっ。なら、さっさとオレ様を抱っこし直せ! あと、コイツは返すぞ』」
「……あー、ソレはギーペが持ってて。音恋さんからのギーペへのお小遣いだから」
そう、電波塔近くのバス停にバスが着いて運賃を払おうと財布を取り出したときに、ソレが入っている事に気が付いた。一緒に入っていた走り書きのメモにギーペとみぃに渡すよう書かれていたのだ。
「『ほうー、音恋もたまには気前がいいじゃねぇ~か♪』」
うん、ギーペが機嫌を良くしている手前、あの事は言わないほうがいいだろう。
念のために音恋さんに確認のメールをして、音恋さんからの返信メールに書かれていた内容。
──みぃに渡すヤツとギーペに渡したヤツの中身に大きな差があることを──。
「うんしょ。──さて、オルゴール屋に入るよ」
「『おうよ』」
「……」
──コクリ。