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ねこの手、貸します。 夏  作者: 白月 仄
にゃん一章 季節外れの大掃除
4/22

いちのさん

 ──ゴシゴシ……、ゴシゴシ……。

「あの、副店長」

 昼休憩をすませたアタシたちは、再び清掃の装備に着替えて、清掃作業を再開。

 ゴミを片付けたとはいえ、汚れは健在。ただ、立ちこめていた異臭は換気と源泉の撤去でマスク越しには皆無。

「ん、嬢ちゃん、なんだい?」

「はい、あの少し気になったんですけど、依頼主は何で『ウチ』に依頼を? こう言ってはなんですけども、清掃業者に頼んだ方が依頼料は安上がりになるのに……」

 ──ゴシゴシ……、ゴシゴシ……。

「ああ、そいつは仕方ないさ」

「仕方ない、ですか?」

 ──ゴシゴシ……、ゴシゴシ……。

「そう。午前中にオレが『忘却領域』の説明をした時に言った事を覚えてるかい?」

「あ、はい。……たしか『偶発的に原因その他不明の異常が起こる空間(?)』でしたよね?」

 ──ゴシゴシ……、ゴシゴシ……。

「そう。で、その後に言った事は?」

「えーっと、……『──……特定条件下じゃなきゃ、稀……──』でしったっけ?」

 ──ゴシゴシ……、ゴシゴシ……。

「はい、ご名答。その特定条件下で起きる異常が理由で、ロボット任せの清掃業者には頼めないのさ」

「そうなんですか?! それで、その特定条件とは?」

 ──ゴシゴシゴっ!? ゴシゴシゴシッゴシッ……ゴガガガガ……!!

「清掃業者のメイン商売道具の清掃ロボットのフロア内への進入だ。なんでも、清掃業者が持ち込んだ清掃ロボットがこのフロア内に入ると動作不良や搭載AIのエラーに暴走、果ては動力回路が異常を起こしてロボットが爆発なんて事があったらしい。以来、清掃業者はここ『星見の塔』の観測フロアの清掃は請け負わなくなって、依頼が『ウチ』に回って来たってわけ」

「そうだったんです、か! それにしても、しつこいですね、この汚れは!」

 ──ガガガガガガ……!!

「あー、嬢ちゃん。そういった頑固な汚れには……あったあった……コレを使うといい」

 頑固な汚れに苦戦中のアタシに副店長は持ってきた清掃用具の中から、ひとつのクリーナーを取り出してきてくれました。

「ありがとうごさいます」

 アタシは受け取ったクリーナーの使用法を確認して、早速、頑固な汚れにリベンジ!

 すると、

「……スゴい! どんなに擦っても剥がれなかった汚れが、ウソみたいにツルっと取れました!」

 アタシの奮闘が虚しくなるくらい、それはあまりにもあっさりと、こびり付いていた汚れは副店長から受け取ったクリーナーの効力によって除去された。

「そうだろ。オレも最初は半信半疑──いや、どっちかと言うと胡散臭いインチキ商品だと思っていたんだ」

「そうなんですか?!」

「──それは仕方ないですよ」

 ──はへ!?

 会話の流れ的に予想をしていなかった叶ちゃんからの応答に、アタシは一瞬驚く。

 ただ、なにやら、叶ちゃんは何かを知っているようで、興味が芽生えたアタシの耳は自然と彼女の方へと傾く。

「だって、そのクリーナーは本来はジョークグッズで、中身は普通のボディソープのはずなんですから」

「──はい?」

 アタシは叶ちゃんが一体何を言っているのか理解が出来なかった……。

「きびさん、ですから、そのクリーナーは只のジョークグッズで中身は普通のボディソープのはずなんですよ」

「──えエぇヱェぇえーーーーッ!!?!」

「うんうん、やっぱ驚くよな。オレも数日間は受け容れられなかったよ」

 副店長は驚愕しているアタシに「それは至極当然な反応だ」と、詞には出してはいないけど、副店長から醸し出される雰囲気がそう語っていた。

「たまにあるんです。希が通販で買ったジョークグッズがジョークの機能や効力をマジで有している事が」

 ──え……? ナニソレ?! 俄かには信じられないし、怖いんですケド……。

「そうそう。中にはかなりヤバいヤツとかあったな……」

「あの、それって……?」

 それは、単なる興味本位。怖いモノ見たさの好奇心。

「そうだな……。いろいろとあるが、特に印象に残ってるヤツの一つは『真っ裸銃(マッパガン)』だな。アレは色々な意味でヤバいからな──」

 ──『マッパガン』?

 音の響きだけで想像するに、『ガン』とあるのだから銃の形をした玩具なのだろう。でも、『マッパ』ってナニ? 銃で連想するならば、そこは“マッハ”ではないだろうか?

「──なにせ、CMでのジョークの演出は『真っ裸銃』から発射された光が人に当たると当たった人が水着姿になるって内容なんだが──」

 ──あー、ナルホド。なんか頭が痛くなってきた。『マッパ』って『真っ裸』だったのね……………………って、まさか────!?

「──どうやら想像がついたようだな、嬢ちゃん。まさにその通り。希ちゃんが持ってる『真っ裸銃』には────」


「──マジで人を『真っ裸』にする機能がある!!──」


 ──普通なら、ここは“呆れ果てて、言葉も出ない”だったり“冗談と、笑う”ところなのだけど、何故かアタシはそのどちらも出来なかった。

 たぶん、しまってあった不思議な非日常への憧れが顔を覗かせた所為だ。そうに違いない。

「──そうですか。それはまたけったいですね……」

「まぁな。さて、おしゃべりタイムはこれくらいにして、仕事だ、仕事」

「……あ、はい、そうですね」


「──やっぱ、人数が一人でも多いと進捗具合が違うな。これなら、今日中に依頼を完遂できそうだ」

 中天に座していた太陽は、今は西へとそれなりに傾いた。それでも、空の色はまだ青い。

 現在、『星見の塔』の観測フロアの清掃作業は仕上げの段階。でも、

「ドームのガラス部分の清掃はしなくていいんですか?」

 そう、『アタシたち』が今日やった清掃作業は観測フロアの床とガラス張りになっていない壁等だけで、このフロアを覆っているドームのガラスは乾拭きさえもしていない。

「ああ、大丈夫だ。なにしろ、ここのガラスは国が未公開の技術で加工されていて、傷や汚れがつかないどころか経年での劣化さえも起きてないからな」

 国が未公開の技術?

「なんで、そんな事がわかるんですか?」

「そりゃ、この『星見の塔』が春に行った『永遠桜』と同様に清美市が出来る前から在ったからさ」

 あー、やっぱり。

 市道からこの『星見の塔』がある敷地の間に殺風景な道路を通っていたから、確信は無かったけどなんとなく「そうなんじゃないか」と思ってた。

「……お! そうだ! このガラス、ちょっと面白いんだぜ。二人とも見てな」

 何かを思い出したのか副店長は突如そう言うと、ドームのガラス部分の前に立ち、アタシたちの方を「ちゃんと見てるか?」と一瞥する。

 振り返った副店長の顔はとっても悪い笑みを浮かべていて、嫌な予感がする。

 そして、その嫌な予感は的中した!

 なんと、副店長はアタシたちを一瞥した後、手にしたモップを振り上げてドームのガラス部分に向けて力一杯振り下ろした!?

 ──って!?

「ちょ……、副店長、何を──?!!!」

 副店長の突然の暴挙!

 アタシは訪れるであろう当たり前の結果から目を背ける。

 ……

 …………

 ……………………

 …………………………………………アレ? 響き渡るハズのガラスの割れる音は?? いったい……────???

「ホラ、見てみな。さっき言った通り、ガラスに傷がついてないだろ?」

 副店長の得意気な声に、アタシはおそるおそる目を開ける。

 見れば、副店長のドヤ顔の横、副店長がモップを振り下ろした部分のガラスには副店長の言った通り“傷1つ無かった”。

 副店長はアタシたちがガラスに傷がついていないことを確認したのを見て、

「ほらな。面白かっただろう?」

「……お、お、「面白かっただろう?」じゃないです! 心臓が飛び出るかと思いましたよッ!!」

 悪びれた様子もなく、“ドッキリ大成功!”な表情でガラスを2回ノックした。

 ──……。

「……??」

 ──あれ? なんか違和感。

「ん? 嬢ちゃん、どうした? 急に怖い顔をして……。もしかして、怒った?」

 ──それはもう、心頭に発するくらいの怒りはあるけれど、今はそれよりも今さっきの事が気になる。

「……はい──ですが、その話は一先ず横に置いておいて、確認なのですが副店長は“今、ドームのガラスをノック”しましたよね?」

「…………。……あ、ああ、したけど……?」

「“音”しませんでしたね」

「音? ……あー、言われてみれば、手に叩いた感触があったから気にしてなかったが、確かに音がしなかったな。モップで叩いたときも……」

 ──そう、音がしなかった。

 副店長も疑問に思ってか、今一度ガラスをノックするも、音がしない。

 一体、どうなっているのだろうか?

 アタシは不思議に思い副店長がモップで叩いたヵ所を調べてみる。

 ──……。

「???」

 ──おかしい。普通なら音が鳴るような所作でガラスに手を触れたのに無音。


  ──Magia vastare,──


「──え!?」

 今のはナニ──?!

 空耳がした後、一瞬だけどガラスについたアタシの手を中心にして円状の紋様みたいなモノが浮かび上がった!

 ただ、それはホント一瞬で、もしかしたらアタシの見間違いかもしれない。

 ──はふー。

 きっと、今日一日の作業の疲れが出てきたのだろう。


 ──……ピキ。


「? なんだ?」

「どうかしましたか? 副店長」

「……いやな、今、『ピキ。』って音がしなかったか?」

「『ピキ。』ですか?」

「ああ」

 はて、そんな音がしただろう──


 ──……ピキピキ。ピキッ!


「──した!」

 でも、何処から?

 アタシは音の出処を探そうと周りを見渡────す必要はなかった。

 何故なら、目の前の調べていたドームのガラスからその音が鳴っていたから──。

「どうなってるんですか、コレ?」

 それは、異変。

 まるで、“今思い出したのかよう”に副店長がモップで叩いたヵ所を起点に罅が蜘蛛の巣状に入っていく!?


 ──ピキピキ……、パリリ……ッ!


「……わからん。だが、ヤバい事になりそうなのはわかる」

「確かに、ヤバそうですね……」

 罅はさらに広がり、小粒ほどのガラス片が零れ落ちる。

 でも、変。──いや、変じゃない? ────いやいや、やっぱり変。

 始点が不可思議な状況下で、そこから正常(?)な事が起きているのだから……えーっと…………───。

 アタシの頭の中がこんがらがっている間も罅は広がり続けていたようで、ついに────


 ──バリパリパリパリ……、パリッ! ガッシャーンッ!!!!!!!!


 ────────ガラスが外部側へと砕け飛び散った!

 地面へと落ちていくガラス片は太陽の光を反射して、キラキラと輝く。

 そして、まるで映像を逆再生したかのように物理法則を無視して、砕け散った全てのガラス片が元の位置に舞い戻り、罅はおろか傷が1つも無い“そう在った”状態へと復元した──!?



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