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ねこの手、貸します。 夏  作者: 白月 仄
えぴろーぐ
22/22

ごのいち

 ──ドサッ。

 ……ン? ナニ??

 意識が浅く覚醒した微睡みの中、布団に加わった衝撃で出た音に目が覚める。

 薄目を開けて周囲を確認。

 天窓から射す月明かりだけの薄暗闇の部屋内。

 そして、「すぅ~、すぅ~」と寝息をたてながら、わたしを抱き枕にして眠るきびさん。

 月光に照らされて輝く白金の髪(プラチナブロンド)

 なんでも隔世遺伝なんだとか。

 きびさん当人から聞いた話によると、きびさんのご先祖はこの国が少子高齢化時代末期に少子高齢化対策の一つとして施行された“諸外国からの帰化移住者の大幅受け入れ”で帰化移住してきたとのこと。

 さて、それはそうと、……暑い……。

 気候が人工的に制御されているとはいえ、その制御は不完全にされていて、夜でも夏の蒸し暑さは抜け切らず、剰え抱き枕にされているのだ。

 最初は……──そう、最初は夜中にきびさんが唐突にわたしの部屋に入ってきたときはビビった。ただ、きびさんに抱き枕にされて感じた温もりの中に不思議と安らぎと安心感を覚えたのは記憶に新しい。

 なにしろ、この街に来て二日目の夜だ。やはり、両親と離れて、部屋でひとりになると、どうしても淋しいという気持ちが込み上げてきてしまう。

 そこへ寝惚けたきびさんが間違ってわたしの部屋に入ってきて、わたしを抱き枕にしてそのまま眠ってしまったのだ。

 以来、“淋しさが込み上げてこなくなるまではいいか”と、きびさんが夜中に忍び込んでくることをわたしは黙認ならびに容認していた。

 それに、きびさんの方も最初の一夜こそ偶然ではあったようだけど、以降は故意に“寝惚けて部屋を間違って”いる。

 きびさんもまた、わたしと同じく新しい環境に戸惑っていたのだと思う。

 だが、しかし、夏の夜がこんなにも蒸し暑いものだとはこの街に来たばかり当時のわたしには知る由もなかった。

 なぜなら、以前住んでいた新東京タワーのタワー都市内では年間の気候──気温・湿度──は一年を通して一定に保たれていて、季節も暦上の陰暦に基づく季節の節目と同じく記号化されていて、直に季節を肌で感じることはなかったのだ。

 こんなことなら、淋しさが込み上げてこなくなった辺りで、きびさんには遠慮してもらうよう言っておけばよかったかな……?

 いや、でも、秋の半ばから冬にかけては夜は寒いらしいから、これからも忍び込んでもらった方が、いい……のか?

 ま、この事はおいおい考えるとして…………あー、暑い……──。

 これじゃ、眠ろうにも暑さに眠気を妨げられる。

 なんとかならないかな……。

 …………、はぁ~…………ダメだ……。

 目を瞑っても、やっぱ眠気よりも暑さによる不快の方が上回って寝付けない。

 まったく、「ぐぅーすか」寝られてる、きびさんがうらやましい。

 …………………………………………そういえば────、きびさんって、わたしのことを男の娘と勘違いしていたっけ。

 音恋さんや希さんからは、きびさんが自分で思い込みによる勘違いだと気付くまでは「絶対、バラしちゃダメ!」って言われてた。

 まあ、わたしとしては別に性別に限らず他の事柄であっても勘違いされていようが支障が出ていないのならば訂正はしない。

 むしろ、支障が出ていないのに下手に相手が勘違いしている事柄を指摘して、関係性が拗れたりする方が厄介だ。

 ただ、まー、夏に入ってからわたしは寝間着を通気性のいい薄い生地の物を着用しているので、ほぼ毎日わたしの部屋に忍び込んできてはわたしを抱き枕にして眠るきびさんはもうとっくに自身の勘違いには気付いていることだろうが。

 ふうぅ~……。

 それにしても、昨日の無重力体験は本当貴重だったな。あの重力から解放された無重力感の感覚は忘れることはないだろう。

 まさに……──夢のよ…………────う………………──────だっ……………………────────たッ!?

 ──ふんづっ!!

「なに、人の顔の上に乗っかってるの?!」

 夜中ゆえ、小声で怒鳴る。

 さらに、同じく夜中ゆえ及びきびさんに抱き枕にされているため、可能な限り且つ細心の注意を払って、ふん捕まえたわたしの顔の上に乗っかってきた動物を放り投げる。

「『おいおい……、なんたる仕打ちだ?! オレ様はただ、カレンが眠れないと云うから、体内の酸素量が低下すれば眠れるだろうと思って手助けしただけなんだが……?』」

「──いやいや、それだと眠りから永久に醒められなくなるから!」

「『……ん? ……………………、ああーッ! 確かに。オレ様としたことがとんだ失態だ。すまん、赦せ』」

 っていうか、改めて思うが、ギーペの身体能力ってホント高い。

 ついさっきだって、わたしが放り投げた状態のままだったらギーペは動物動画で視られるようなプールから上がったときに腹這いになったペンギンの姿で床に着地していたことだろう。

 しかし、結果はそうはならず、ギーペはくるりと一回転して見事に着地をキメたのだ。

「──で、こんな夜中に何の用?」

「『フム。なに、思いもよらず目が覚めてしまい、“どうしたものか?”と彷徨いていたら小娘がカレンの部屋に忍び込もうとする姿が見えてな。で、ちょっと覗いてみてみるかと覗いたら、カレンが眠れないと云っていたわけだ』」

「あー、そうなんだ。じゃあ、わたしもう寝るから──」

「『待て待て待て。オレ様は目がぱっちりかっちり目覚めてしまっていて、これから直ぐには寝直しが出来ん。頼むから、オレ様が眠くなるまで付き合ってくれんか?』」

「えー、わたし、今日予定があるから無理にでも寝て体を休めないと……──」

「『そこをなんとか頼むぜ、なあ?』」

 はぁ~……。

 ……ま、いいか。

 付き合うっていっても話し相手だし、自分は寝たまま──抱き枕にされているので身動きが出来ない──だから、そのうち眠れるだろうし。

「わかった、いいよ────」



 ────……甘かった。

 「何が?」と問われたなら、その答えは「自分の考えが」だ。

 ギーペの話し相手になって暫くして漸く眠気が襲ってきた矢先、まだ眠気がきていなかったギーペはわたしの就寝をブロックしてきたのだ。

 さらにその後も、わたしが眠気に襲われるたびにギーペはあらゆる手段でわたしの就寝をことごとくブロックしてきた。

 ──そして、ギーペの話し相手から解放されたのは空が白みだした頃。

 いまから寝たら間違いなく寝坊することは目に見えているので、やむなくわたしは徹夜からくる寝不足でボーッとする頭に活を入れることにする。

「……そうだ、眠気覚ましにマスターさんの珈琲でも飲もう……」

 わたしを抱き枕にしているきびさんを起こさないようにひっぺ剥がし、わたしはマスターさんに珈琲を淹れてもらうため自分の部屋を出るのだった────────





         ──夏・了──

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