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ねこの手、貸します。 夏  作者: 白月 仄
にゃん四章 常白の丘
20/22

よんのさん

 モヤっとした感じを抱えたままお昼休憩は過ぎ、再び案内の職員の人が部屋の中へとやってきて見学ツアーが再開された。

「──それではご来場の皆様、これより見学ツアーを再開します。まずは────」

 職員の人の話が始まるが、お腹満腹の子どもたちはどこか上の空。中にはベンチに座ったままお昼寝タイムの子どもも。

 しかし、職員の人はお昼寝タイムな子どもを尻目にしながらも、眉一つ動かさずに話を進めていく。

 そういえば、午前はいま話をしている職員の人一人だったが、午後は他に複数人の職員の人が控えている。しかも、片付けられた昼食と入れ替わる形で様々な機具や物が運び込まれていた。

 それらの中には、走り高跳びなどで使用されるようなマットがあり、一体何に使うのだろう?

「────それでは、皆様御覧下さい。『軌道ステーションTOKYO』の天辺に取付けられました“360°カメラのLIVE映像”です!」

 草原が広がっていた部屋内の明かりが一旦落ち真っ暗闇になるも、すぐに明るさを取り戻す。

 すると──、

「おおぉーー!?」(←大多数)

「く、空気、空気────!?」

「また、ワープしたっ────!?」

 視界に広がるは虚空の海。そして、眼下には地図上で赤道が通る付近を境に蒼に包まれた北半球とこの百年以上晴れた事の無い厚い雲に覆われて陸地も海面さえも見る事がかなわない南半球を有する惑星──即ち、現在の地球の姿があった。

 さらに足下に視線を移していくと、地球から伸びる軌道エレベーターと軌道エレベーターの現在の最上階である『軌道ステーションTOKYO』が目に入ってくる。

 その光景に、眠りかけの子どもは目を見開き、眠っていた子どもは同伴の親御さんや友達に起こされるやいなや現実なのかと原始的な確認方法を試していたりする。

「どうです、スゴいですよね。ちなみに、このLIVE映像を御覧になられるのは現在のところは当社のこの施設だけ。つまりは超貴重映像なんです!!」

 「どうだ! 参ったかっ!!」といった感じの超ドヤ顔の職員の人。しかも、控えている職員の人たちまでもが同意の首肯や同じく超ドヤ顔をしている。

 ──さて、それはさて置き、そういう事だったのか。

 『夏とソラの満喫ツアー』の“ソラ”は『宇宙ソラ』のことだったんだ。

 これで、モヤっとした感じは無事解消された。

「──さ~て、ご来場の皆様、ここからが本見学ツアーの最大の目玉! 現在、特許申請中な為、これまでは一般外部には非公開でした当社の最新発明の一つ『疑似無重力装置』を御覧ならびに体験していただきます!! 嘘偽り無しに本日見学ツアーに参加されている皆様が、関係者以外では初めて地上で“限りなくリアルな無重力”を体験される方たちなのです!!!!」

 地上で無重力体験?!

 もし、お父さんがこの場にいたなら、垂涎は止まらずかつ周りが引くくらい昂奮していたのは間違いなしだ。

 なにしろ、人が空中に浮遊や浮揚する装置は現在に至るまで多種多様開発されてきたけれど、そのいずれも重力の呪縛からは解放された事は一度たりとも無かった。

 さらに、昔からの飛行機を用いての疑似無重力体験はあるが、未だ一般人にはおいそれと手が出せる価格帯ではないし、なにより無重力を体験出来るのはほんの僅かな時間。

 それが、ついに人類は重力が働いている中で存分に無重力を体感するに至ったのだ!

「あ、疑似無重力装置の説明をしますので、一旦映像を切りますね」

 ──ブツン。

 脳内でそんな擬音が響いた。

 何故なら、先ほどまで宇宙空間だった部屋内が本来の姿──無機質な材質の壁と床の円柱状内部の様相に一本の木と丘だけ──に様変わりしたのだ。

 まるでテレビを視ていたら唐突に電源を落とされた気分。

 ただまぁ、どういう仕掛けかは識らないけれど、宇宙の映像が投影されている間は持ち込まれた機具や使い道が気になっていたマットが見えなくなっていたので、そのまま説明されていたらナニがナンダか分からなかっただろう。

「では、早速説明に入りますと、この疑似無重力装置は────」


「────というわけなんです。残念ながら、製造にはまだまだコストが掛かるため、この場に用意できました三台が現存する完成した疑似無重力装置になります」

 長々と続いた職員の人の装置の説明が終わりに差し掛かると、子どもたちは勿論のこと引率や同伴の大人たちまでもがそわそわしだす。

「それでは、これより無重力体験の準備を致しますので、誠に恐縮ながらご来場の皆様には準備が整います迄暫しお待ち下さい」

 案内の職員の人が話を終えると、控えていた職員の人たちがてきぱきと作業を始める。

「ねえねえ、音恋さん、無重力体験にあたしたちも参加していい?」

 どうやら、希さんは無重力体験に興味津々なようで、音恋さんに体験への参加の了承を問う。

「ん、いいよ」

「やった♪」

 音恋さんからのオーケーサインは二つ返事で下り、希さんは小踊りしてこちらへと「よかったね♪」と満面の笑みをくれた。

 って、わたしも無重力体験に興味津々なのが、希さんに筒抜け!? ──いや、顔に出ていたのだろう。

 音恋さんが了承を出す前は抑えられていたが、いまは抑えようにもあとからあとから涌いてくるわくわく感が止められない。

 なんたって、無重力なのだ!

 軌道エレベーターと『軌道ステーションTOKYO』が完成して、停滞していた宇宙開発が大きく動き出して早十数年。未だ宇宙は一般人には遠すぎる。

 お父さんの言では「一般人が宇宙に進出するのには早くとも半世紀は先だろう」と、のこと。「せめて、一生を終えるまでの間に仮想空間でない現実の宇宙ソラに行ってみたいものだ」とも、お父さんは言っていた。

 そんな、お父さんの夢の一つが──場所こそ地上だが──、疑似とはいえ現実で可能になったのだ。

 勿論、お父さんからの影響を受けているわたしはお父さんの宇宙やそれに類するモノへの憧れへの思いは理解できるし、お父さんには及ばないが自身もお父さんと同様に宇宙への憧れを抱いている。

 故に心の内から、期待感がとめどもなく溢れてきて、無重力体験への期待値をMAXまで押し上げる。

「ご来場の皆様、大変長らくお待たせしました。無重力体験の準備が整いましたので、どうぞこちらへ」

 職員の人の準備完了の言葉に、子ども会ご一行はにわかに騒めきを増す。

「それでは、先ずは職員がデモンストレーションを行います。そして、デモンストレーション終了の後に、皆様にも体験していただきます。では、これより職員のひびきによるデモンストレーションです」

 そう紹介された職員の人が前に出てくる。全身をレプリカの宇宙服に包んだ出で立ち。

 見学ツアー参加者によりリアルな宇宙感を持ってもらうためのパフォーマンスなのだろう。

 ──ぺこり。

 宇宙服姿の職員の人は子ども会ご一行に会釈をすると、踵を返して職員の人たちがナニかの棒で組み立てた立方体の前へと移動した。

 見れば、その棒で出来た立方体の中には気になっていたマットが立方体の底面一杯に収まる形で床に敷かれていた。

 はて──? この棒で組み立てられた立方体とマットの組み合わせと似たような組み合わせを何処かで見たような……──??

 ……………………。

 あッ!? あー、アレだ、アレ!

 棒で出来た立方体とトランポリンだ! それで確か……その立方体は…………そう、確か『シージュボックス』って名前で、スイッチを入れると立方体の全面に弛んで衝撃を逃す膜が発生する──いわゆる、全面防護ネット。ただし、膜が弛んで衝撃を逃すのには外側にそれなりのスペースが要るので、前提条件として広い場所での使用が必須。

 そして、当然であるが床との接地面には膜が弛む余裕は生まれない為、トランポリン等以外での使用にはそれを補う道具が必要になる。

 それが、あのマットか。

「ねえ、カレンちゃん、カレンちゃんのお父さん何で宇宙服を着てるのかな?」

「…………たぶん、……そう多分、見学者の皆に無重力体験で宇宙感をより感じてもらうためのパフォーマンスだと思う……」

 叶さんからの唐突の問いにわたしは用意しておいた答えを返す。

 結果だけを見るなら前述した通りなのだが、お父さんからしたらわたしが叶さんに言った答えは偶然の副産物にすぎない。

 っていうか、お母さんが「浮気かも……?」と心配していた真相がコレか!!

 それは、昨夜の事。お母さんから突如「パパが浮気かも……?」とのメッセージが着たのだ。なんでも、趣味や興味のある事関連のイベントに参加するときにしか有給休暇を取らないお父さんが、イベントに参加するでもないのに翌日──詰まりは、今日──の有休を取ったのだ、と。

 しかして、お母さんの心配は杞憂だった。

 話を戻すと、おそらくお父さんは“自分が宇宙感をより感じるため”に宇宙飛行士のコスプレをしているのだろう。

 さて、話はまた脱線するが────何故、お父さんがこの場に……しかも職員として居るのだろうか?

 案内の職員の人がデモンストレーションをする職員の人を紹介したとき“「へぇ~、自分と同じ苗字の職員さんか……」”と思った。だが、紹介された職員の人が子ども会ご一行に会釈をしたとき、チラッとヘルメットの中が見えた。

 それは、最大限まで昂奮しきった顔をしたお父さんだったのだ。

 まぁ、ほぼ予想した通りのお父さんの姿に呆れてお父さんが居ることに気付いたときは疑問が生じなかったが、叶さんにお父さんの格好の事を問われて初めてお父さんがこの場に居る謎に直面した。

 思うに、お父さんの勤める会社はこの施設を有する企業とは同じ企業グループの傘下にあるので、偶然にもお父さんの耳に今日の情報が入ったのだろう。ただ、いくら同列会社だからといって、社外の者が私用で潜り込める道理はない。

 更なる憶測をするなら、企業に支障の出ない些細な事であれば無理を通せる人物とお父さんは知り合いなのだろう。例えば、そうお父さんの最高傑作の『踊る妖精』の開発費をポケットマネーから出してくれた会長さんとか。そうでないと、お父さんがこの場に居る説明が付かない。

 ま、これ以上、お父さんがこの場に居る謎について考えるのは頭打ちなので、線路に戻ろう。

「お~! カレンちゃんのお父さん、はしゃぎまくりだね~♪」

 デモンストレーションを行っているお父さんを見て感想をもらす希さん。

 確かに、お父さんは希さんの感想通り大人気もなく無重力体験にはしゃいでいる。

 再び、部屋内は宇宙の映像に切り替わっており、シージュボックスとマットは見えなくなっていてお父さんの無重力体験のデモンストレーションは真に迫っている。

 見えなくなっているシージュボックスの膜を巧く使い、縦横無尽に無重力を堪能するお父さん。

 そんなお父さんの姿に子ども会ご一行は目が釘づけ。

 憧憬の視線が注がれる中、デモンストレーションは終わりを迎え、重力下に戻ったお父さんは宇宙服のヘルメットを外して充実感に満たされた表情で子ども会ご一行に「Good luck!」のポーズ。

 お父さんの現在の気分は大方「無事、ミッション成功して帰還した宇宙飛行士」なことだろう。

 子ども会ご一行からの鳴り止まぬ称賛と興奮の声に、お父さんは気をよくして手を振り返し英雄気分に浸っている。

 そんな中、お父さんの視線がわたしと合う。それは一秒にも満たない一瞬であったが、お父さんから夢現つな気分を吹き飛ばすのには事足りていた。

 笑顔に苦みが混ざったお父さんはわたしからの視線に合わないよう目を逸らし、子ども会ご一行の前から挨拶もそこそこにそそくさと退いていった。

 ──もう、別にわたしはお父さんのことを責めるつもりはないのに…………。でも、仕方ないか。わたしの容姿はお母さん似だし。

 おそらく、お母さんに“ちゃんと有休を取った理由の説明をしていなかった”という致命的な失策をした事に気付いたお父さんにはわたしの顔が怒りを湛えたお母さんの顔に見えたのかもしれない。

 ま、それはそれとして。

 いよいよ────

「それでは、ご来場の皆様、これより無重力を体験していただきます。では、一番前のベンチに座られている皆様から順番にこちらへどうぞ」

 ────無重力体験が始まった!

 お父さんがあれ程迄にはしゃいだのだ。いやが上にも期待値は此迄のMAX値を限界突破のオーヴァードライヴ状態だ!

 くうぅぅ~~……、自分の順番がくるのが待ち遠しい。


「では、次の方──」

 ──来た! 無重力を体験実感する、その時がっ!!

 職員の人によって、ベルト型の疑似無重力装置がわたしの腰に巻かれた。

 そして、サポートをしてくれる職員の人とともにシージュボックスの中へ入る。

 ──ピッ。

 シージュボックスのスイッチが入り、膜が発生したことをサポートの職員の人が確認する。

 『みょ~ん、みょ~ん』といった感じに職員の人に押された膜が伸びる。──見えないけど。

 そうして、最終チェックとしてしっかり疑似無重力装置が巻かれているかの確認の後、疑似無重力装置が起動される。これで、準備完了。

「それでは、どうぞ」

 職員の人からのゴーサインが出た!


 ──いざっ!!


 ──ふわり──


 ──重力が────


 ──ついさっきまであった惑星ほしの呪縛が────



 ──消えた────────



 足場であったマットを軽くトンと蹴った勢いだけで、身体が宙へと飛び出る。

 一G下ではまず有り得ない現象。さらに浮いているという感覚もなく、自分が見えている世界の中心点になったかのよう。

 その証拠に、身体の体勢が傾くとそれに併せて認識する天地てんちが変化していく。

 重力下では体勢が横倒しや逆立ちしたとしても、重力などの影響で認識する天地は固定されている。その枷が無くなっているのだ。


 ──まさに新鮮っ! まさに感動っ!! これが、無重力!!! 感無量だ!!!!──


 かつての宇宙飛行士の人達が初めて宇宙空間で遊泳したときは、こんな気持ちだったのだろう──いや、それ以上だったかもしれない。

 なにしろ、現在でも超難関ではあるけれど宇宙飛行士の資格適性試験に合格出来れば軌道エレベーターで安全に宇宙に出れるが、軌道エレベーターが完成する以前は宇宙に出るのだって現在と違って命懸けだったのたから。

 そんな感慨に浸りつつ、わたしは無重力を心行くまで堪能した────────



「ハァ~……♪」

 今日は思いがけずな一日だったな。

 まさか、『悠久なる四季』の三つ目に行くとは思わなかったし、其処で無重力体験までするなんて予想だにもしなかった。

 ついでに、その場にお父さんが居たのも想像だにしなかったよ。

 あー、そういえば、上がったらお母さんにメッセージで報告をしないと。お父さんが帰り着くのは夜中になるだろうし、なによりいつまでもお母さんを杞憂でやきもきさせるわけにはいかないし。

「カレン、ご機嫌だね」

「うん、今日は充足した一日だったよ。特に無重力体験とか……────」


 ────今日一日あった事を歌音ちゃんに語り、それから他愛無い話をして、わたしたちはお風呂を上がった。

「……これでよし、っと」

 部屋に戻って忘れないうちにお母さんにメッセージ。

 これでお父さんもこっぴどくは怒られないだろう。

 さて、明日はレジャープールか……──音恋さんは「友達と存分に遊んじゃっていいよ。依頼の方は私と詩音くんでやるから」って言ってたけど、本当いいのかな?

 まー、でも、詩音さんからも「ああ、依頼の方は任せな。少年たちは気兼ね無く目一杯遊んどけ」ってお墨付きをもらったし……、…………うん、折角だから言葉に甘えよう。




 そうと決まれば、やる事済ませて、明日に備え今日は早く寝よう───────────





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