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ねこの手、貸します。 夏  作者: 白月 仄
にゃん一章 季節外れの大掃除
2/22

いちのいち

 ──主な登場キャラ紹介──


 ・少年/カレン

 東京からやってきた少年(♀)。『にゃんてSHOP』に下宿しており、アルバイト店員第三号。


二章・四章・えぴろーぐの語り部


 ・きび(←ニックネーム)/嬢ちゃん

 春から『にゃんてSHOP』の店員になった女性。


ぷろろーぐ・一章・三章の語り部


 ・音恋ねこ/店長

 ねこが大好きすぎる“ねこ第一主義”の『にゃんてSHOP』の女性店長。


 ・詩音しおん/副店長

 『にゃんてSHOP』の副店長を務める男性。副業でシンガーソングライターをしており、名前の詩音しおんは芸名。


 ・歌音うたね

 詩音の妹。ねこカフェのカフェフロアを任されている。


 ・夢野ゆめの のぞみ

 『にゃんてSHOP』のアルバイト店員第一号。後述の夢野 叶とは双子。


 ・夢野ゆめの かなえ

 『にゃんてSHOP』のアルバイト店員第二号。高校生ながらフリーのプロフルーティスト。前述の夢野 希とは双子。


 ・ギーペ

 人間と同等以上の知能と知性を有するペンギン。『代声機』という機械で人間の言語を操り、会話によるコミュニケーションができる。


 ・みぃ

 『にゃんてSHOP』の看板猫。人間並みの高い知能があり常時二足歩行し、その体躯は雄牛ほどもある超巨大猫。


 ・ねこカフェのネコたち

 『にゃんてSHOP』のねこカフェにて飼われているネコたち。


 ・青年/大学生

 住み込みアルバイトの大学生の青年。アルバイト店員第四号。




 真夏の日射しが眩しい今日この頃──。

 燦々と降り注ぐ陽の光りは、これでもかと言わんばかりにフロア内の光景を照らし出す。

 それはあまりにも凄惨で、腐敗などによる異臭を延々と放ち続けている。

「……いくら、立ち入りが自由だからって──」

「──これは流石に……──」

「──マナーが無さすぎ……ですね」

 さて、現在、アタシと副店長と叶ちゃんが居るのは、『星見ほしみの塔』──昔は天文台だったらしい──と呼ばれている私有地にある施設。

 先ほど、アタシが口にした通り、『星見の塔』は私有地ではあるのだけど、一般に解放されていて基本的に誰でも自由に立ち入りが出来る。

 それゆえに好き放題する輩が出したゴミを持ち帰らない事がよくあるのだとか。

 それが積み重なって出来上がったのが、現在、アタシたちの前に広がる光景。

 では、何故、そんな場所にアタシたちが居るのかというと──


 ──当然、依頼──


 ──だからである。

 アタシは今年の春から、清美市にある“街の何でも屋『にゃんてSHOP』”に就職した。そして日夜、街の人達の助けを求める依頼に奔走する毎日……──。

 ──……に、なると思っていたのだけど、現実には一般的な休日である土日こそはそれなりに依頼が舞い込むが、平日となると『お得意さま』や『常連さん』の依頼はあれど毎日はないので徒然な日々が多々である。

 話を戻すと、今回の依頼は『お得意さま』からで、その依頼内容は──


 ──『星見の塔』の清掃──


 ──である。

 なんでも、『星見の塔』では天体ショー観測のイベントが時折催されていて、いまだ観測ができるペルセウス座・双子座・りゅう座の3大流星群は毎年恒例なのだとか。

 なので、天体ショー観測イベントが近づくと、『星見の塔』の清掃を頼む、とのこと。

 ──しかも、『にゃんてSHOP』指定で。

 それ故に、これまでは『お店』の店員が店長の音恋ねこさんと副店長だけだったので、かなり苦労したのだそうだ。

 でも、──よくよく現状を確認すると、この清掃の依頼に従事しているのは、副店長・アタシ・叶ちゃんの3人だけなわけで、人手が1人増えても店長と副店長が経験した苦労とさして変わらないような……?

 それにしても──

「──ヒドい臭い……」

「ああ。鼻が曲がるどころか嗅覚がマヒしそうなくらいに、ヤバいな……」

 すでに清掃をする為の完全装備なのに、口と鼻を守るマスクのフィルターを通して尚、異臭が届くとか最悪。

 ゴミの片付けの前に先ずは換気しないと、気が狂いそう……。

「あの、ココって換気設備とかないんですか?」

「ああ、あるよ。たしか、設備の操作パネルは──」

 ココの清掃をしたことのある副店長に訊ねると、副店長は一旦周囲を見渡し、

「あー、アレだ。アレ。あそこの壁にあるのが、このフロアの設備を操作するパネルだよ」

 そう言って、副店長が指差した先の壁にその操作パネルはあった。

 しかし、────

「えーと……申し訳ないのですが、副店長、パネルを操作して、換気設備を動かしてもらえませんか?」

 パネルがある壁までの道程には、このフロア内に充満する異臭の源泉の1つが横たわっている。

 ………………。

「え!? オレが、かい?」

「はい、副店長が、です」

 ………………………………。

「いやいや、こういうのは言い出した人──つまり、今回は嬢ちゃんがやるべきだろう」

「そうですよ。言い出しっぺのきびさんがやるべきです」

 ──ほわっ!?

 そんな、叶ちゃんが副店長側に──!

 2対1では分が悪いけど、異臭の源泉の中を突っ切るのは生理的嫌悪感がMAXで拒否っているので、ワガママだけど副店長に代わってもらいたい。

 ──なにか、突破口はないだろうか?

 そう、現状を打破するための切っ掛けが──……あ!

 ああ、あった。そのままじゃ、有効な一手にならない凡手だけど、屁理屈で武装すれば十分な威力を発揮するかもしれない一手が!

「でも、アタシ、あの操作パネルの扱い方がわからないですし。それに、部下を危険から守るのも上司の務めではないかと……?」

「そうですよ、詩音さん。以前にここの清掃をしたことがあるんですから、手本を見せてください。それに副店長なんですから、ここはこの場での責任者として、下の者を危険から守らないと」

 ──ほら、叶ちゃんもアタシの方に賛同してくれている。これで今度はアタシの側が2対1────だ?

 ……………………………………………………………………………………………………。

 ──ン?

「おいおい、叶ちゃんはいったい──」

「──どっちの味方なの?」

 ……。

「どちらの味方かと問われるなら、両方ですから──実質、ボクは中立です」

 …………。

「……そうか」

「……そうなんだ」

 つまりは、叶ちゃんは「どっちでもいいから、さっさとしてくださいね」と言外に云っている。

 しかし、それでは振出しに戻るで、アタシと副店長の主張は平行線で埒が明かなくなる。

 それに、今は仕事中なのだから、徒に時間を浪費するわけにはいかないので、強制的にでも『パネルを操作しに行く役』を決めなくてはならない。

 なら、どうすればいいのか? 答えは単純。そう、それは────



 ──ジャンケン!──



 副店長もアタシと同じ結論に至ったみたいで、アイコンタクトだけで同意見であることが確認できた。

 そして、ジャンケンにて決めるのだから、結果は公平になるべきだよね。──そう、公平に……ね。

 だから、────

「──叶ちゃん、どうもオレと嬢ちゃんの主張はどこまで行っても平行線だ。これでは仕事に支障をきたす。だから、操作パネルの所まで行って換気設備を動かす役割を公平に決定することにしよう。ジャンケンで!」

「…………。あの、それって屁理屈を捏ねて、うやむやのうちにボクも参加させる気でしょ」

 ──うゎー、叶ちゃん、鋭い! アタシらの目論見を看破されちゃったよ……。

 しかし、看破されても副店長はしらを切り、

「あはは、叶ちゃん、そいつは違うよ。有耶無耶のうちにじゃなくて、さっき言った通りに仕事に支障が出るのは不味いからね、強制参加だよ」

 ──いや、完全に開き直ってった!

 しかも、問答無用の暴論で押し切ろうなんて、なんか何時もの副店長らしくない。……ような?

 ──あ!

 気になり、副店長を見ると、気化した刺激物でも目に入ったのか副店長の目は充血していて涙まで溢れている。

 たしか、この『星見の塔』に入る前に─────、


 ────「『星見の塔』の清掃は定期的な依頼だからな、どのくらいの汚れ具合かは想像が付くから、完全装備じゃなくても大丈夫さ」────


 ────って、言って副店長は頭部の装備はマスクしか装着しなかった。

 それが、今回は副店長の仇になってしまった。

 ちなみに、アタシと叶ちゃんは完全装備なので目を保護するゴーグルもちゃんと着けているから、副店長が陥っているような状況からは免れた。

「大人気ない実に暴論ですが…………、仕方ありません、わかりました」

 叶ちゃんは副店長の現状を察してか、しぶしぶ仕方なしと了承する。

 ──それにしても、副店長はなんで限界がきても我慢しているのだろう? 無理しないで一旦外に出て装備を取ってくればいいのに……──あぁ! そうか!!

 アタシたちがココに入ってきた出入口と件の操作パネルの位置関係は現在地から操作パネルまでの距離より格段に近い。つまりは、装備を取りに行ったら「ついでにお願いします」という形になり、副店長としてはアタシとの主張合戦に実質的に敗けとなる。

 どうも、副店長はあそびでの勝負事では不戦による決着は好まない質で、そうなるのがイヤで副店長は暴論に出たのだろう。アタシの私見だけど。

 さて、叶ちゃんがジャンケンに参加することを了承したことで、ここに『第1回 異臭の源泉を突破して操作パネルで換気設備を動かすのは誰だ?! ジャンケン大会!』が開催される運びと相なった。

「んじゃ、ぱっぱと済ませるぞ! それじゃ────」


「「「ジャン、ケン、ぽん!」」」

 アタシ、チョキ。副店長、グー。叶ちゃん、パー。

 ──結果──『あいこ』──

「「「あいこ、で、しょ!!」」」

 アタシ、グー。副店長、チョキ。叶ちゃん、パー。

 ──結果──『あいこ』──


 ──ん? これは……?

 叶ちゃんは淡々と2回ともパーを出した。チラりと表情を覗くと、大人気ないアタシたちに呆れているのか、どうでもいいといった感じの無表情。

 あきらかに叶ちゃんはやる気はナシ。──だからか、2回ともパーを出したのだろうとアタシは推測する。

 なら、叶ちゃんは次の手もパーを出す可能性が高い。

 ──叶ちゃんには悪いけど……、これは、もらった!

 念の為、副店長の表情も覗おうかと視線を移すと──視線が合った! ただ、視線が合った副店長の目は「嬢ちゃん、これはオレたちの勝ちだな」と、語っていた。……気がする。

 はたして────


「「「あいこ、で、しょ!!」」」

 アタシ、チョキ。副店長、チョキ。叶ちゃん、グー。

 ──結果──『叶ちゃん、勝ち抜け!』──


 ──ふをぁッ!?

 謀られた!?──まさか、あのやる気のない態度が罠だったとは……!

「……やるね、叶ちゃん。一本取られたよ」

「いえ、正直こんな見え透いた手に引っ掛かるなんて予想だにしてませんでした。詩音さんもきびさんも勝ちを焦りすぎです」

 ──ぬがっ!

「──へぶしっ!」

 ────叶ちゃんの辛辣で容赦無い言葉が、アタシと副店長の精神に痛烈なダメージを与える!!────

「……さ、さて、それじゃ、決戦といこうじゃないか、嬢ちゃん」

「……そ、そうですね、副店長」

「じゃあ、いくぞ!──」


「「ジャン、ケン、────」」


 副店長との一騎打ち。

 敗けるワケにはいかない!

 そりゃ、ゴミを片付けるのだから異臭の源泉と0距離になることを避けるのは不可避だけど、やっぱり出来るだけ1秒も長く異臭の側にはいたくない。

 だから、────


 ────本気、出す!────


 アタシの集中力を以てすれば、プロのスポーツ選手並みの動体視力を一瞬くらいは発揮できる……ハズ。

 それで、副店長が出す手を直前まで観察すれば、あとは勝ったも同然!


 「「────ぽ────」」


 ──見えた!!

 出されてくる副店長の手は大きく開かれている。

 すなわち、副店長が出す手は“パー”。

 あとは、アタシが“チョキ”を出せば、アタシの勝ち!

 光明を見出だしたアタシは勝利を確信し、“()()()()”。


 「「────ん!!」」


 ……………………………………………………………………………………………………。

 ──ア、れ~??????

 ……おかしいな。確かにアタシは“チョキ”を出した筈なのに……───

 場に出ている手は、


 ──副店長は直前まで観察した通りのパー。

 ──そして、アタシの手はしっかりと握られた“グー”。


 人差し指と中指が真っ直ぐに伸ばされていない、紛うことなき“グー”だ。

 でも、どうして?──確かに、アタシは副店長の手を見てチョキを出そうとしたのに……。

 ……。

 …………。

 ……………………。

 …………………………………………アっ!!

 そうだ。副店長の手を確認して、チョキを出せば勝てると確信した時に手を握って、そのまま出してしまったんだ……。

 ──とほほ…………

「──うっし!」

「それじゃ、きびさん、換気設備の操作をお願いします」

「……はい」



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