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ねこの手、貸します。 夏  作者: 白月 仄
にゃん四章 常白の丘
19/22

よんのに


 ──ガコンッ!


 ──っ!? 何の音?

 唐突に鳴った謎の音。

 その音に周囲は騒つき、動揺が拡がっていく。

 そんな中、一条の光りが暗闇を切り裂いた。

 その光りをたどり光源を確認すると、そこには光をこうこうと放つスポットライト。

 そしてその光りは、暗闇の中にあるモノを浮かび上がらせる。

 それは────


 ────一本の木とその木を植えるために造られた小さな丘────


 木の幹は太く枝には瑞々しい翠の葉が生い茂っている。

 ──ガコンッ。ガコンッ。ガコンッ。……。

 続けざまに点くスポットライト。その光りが木とその丘を照らし、まるでイベント会場のステージのようだ。

 一体、何が始まるのだろうか?

 ──ゴクリ……。

 周囲の子どもたちも「なにが起こるのか?」と息を呑む。

「皆様、いま見えています木の上の方を御覧下さい」

 職員の人の誘導に従って、視線を木の上方向へと向ける。

 するとそこには、雫があった。正確には一粒の水滴を像どった蒼い光。

 その蒼い雫はゆるやかに下降を始め、木の天辺に到達するとその姿を滴からサークルへと変えて木に茂る葉の上を滑り降り、幹を伝って木の根元へ。

 そして、丘へと辿り着いた蒼い光のサークルは、そこから輪を拡大しながら一気に丘を駆け下りて────


 ────部屋内に光を溢れさせ、霧散していった────


 ────暗闇から光溢れる世界へと劇的な様変わりをした部屋内。

「お部屋の中なのに……お空が────!?」

「あれ? ココって外────??」

「わ、ワープしたっ────?!」

「────……………………『常白とこびゃくの丘』ね……────」

 子どもたちをはじめ引率や同伴の大人達に、暗闇の中で音がした時以上の動揺と混乱が拡がる。

 その様相を見て、気を良くした表情の職員の人。差し詰め「ドッキリ、大成功!」といった感じ。

 そりゃ確かに、真っ暗闇だった部屋内が明るくなったと思ったら、澄み渡る大空と木の生えている丘以外は何処迄も続く草原という風景になったりしたら、度肝を抜かれる。

 しかし、それはそれとして、わたしはそれ以上の衝撃を受けた。

 その衝撃とは──部屋内が明るくなったことで自分の周囲も視えるようになり、自分の周囲に視線を巡らせるとそこには暗闇の中で掴まってきた子どもたちがいて、そこに混じって意外な人物がわたしの『お店』の制服を掴んでいたのだ!?

 その人物とは──、

「──……あ、ごめんなさいね、弟と間違えちゃったわ……アハハ……」

 ──受験生のお姉さん。

「……ホ、ホントよ。真っ暗が怖かったわけじゃないから! 弟が真っ暗が苦手だから、安心させようと掴んだんだけど、見えなくて間違えただけだから──」

 わたしと目が合った受験生のお姉さんは、乾いた笑いを浮かべて暗闇が怖かったことを誤魔化し、何事も無かったかのようにそう言い残して弟さんの側にそそくさと移動していった。

「────えー、ご来場の皆様、最初のサプライズは如何でしたか? 大変、驚かれた事でしょう。さて、それでは──」

 そして、子ども会ご一行がいまだ混乱と困惑に包まれている中、職員の人がこの施設の解説を始めたのだった────。


 ────────職員の人のこの施設の解説の前半部分を要約すると、──元々この施設は人工太陽(照明)の実験場だった──のだそう。

 成る程。頭上を見上げると其処にはスポットライトとは異なる発光体が有った。

 それは、テレビなどの画面越しに見る太陽そのもので、以前住んでいた新東京タワーのタワー都市内にあった人工太陽と瓜二つ。

 それもその筈で、なんでも、此処にある現物がタワー都市の人工太陽の原型だからだ。

 続いて、職員の人の施設の解説の後半部分を要約すると、──自社の開発した最新映像投影技術は凄いでしょ──だった。

 屋内のハズなのに、屋外に居るとしか思えない現状。

 詳細は企業秘密らしいが、説明されてもきっと自分を含めこの場にいる人達には理解出来ないだろう。

 それにしても、職員の人がドヤ顔で自慢するのも頷ける。

 三百六十度に映像が投影されているのに、人やモノには映像が映ってないのだ。しかも、芸が細かく、足踏みをすると草を踏んだ音が鳴ったりする。

 そして、一番の驚愕する点は視線の先の終着点には壁が存在するはずなのに、その影も形も見えないのだ。先程、闇を切り裂いた光りを放っていたスポットライトもまた影も形も見えなくなっていた。

「では、ご来場の皆様、これより、お昼休憩になります。一時間しましたしたら、見学ツアーを再開しますので、それまでこの部屋内にてご自由にお寛ぎ下さい。お手洗いへ行きたい方は近くの職員にお申し付け下さい、ご案内します」

 ここまで案内をしてくれた職員の人は連絡事項を伝え終えると、子ども会ご一行が入ってきた扉を開けて部屋から退出していった。

 それと入れ替わりに別の職員の人が数人と様々な種類の食べ物を載せた大型テーブルカートが二台、そして、簡易の調理場と寿司屋の移動型カウンターにそれぞれに付随する形でテレビや雑誌等々で見た事のある高級洋食のシェフや板前さんが部屋内へと入ってきた。

 それにしても、扉が開くと草原の中に別空間へのゲートが開いたみたいになり、なんか現実なのに仮想空間に没入しているような錯覚に陥ってしまう。

「希、カレンちゃん、子どもたちへの食べ物の取り分け、お願いね」

「は~い」

「はい!」

 音恋さんからの指示に希さんとわたしは運ばれてきたテーブルカートのところへと移動して、空のプレートを持ってもう列を作って待ち侘びている子どもたちに、早速、食べ物を取り分けていく。

 本日のランチはビュッフェ形式でのグルメストリートで子供人気上位の食べ歩きグルメの数々。

 空腹と先の職員の人の長めな施設の解説で蓄積した退屈感の反動ゆえか、子どもたちは用意された昼食を見て色めき立ち、更にビュッフェ形式なので食べたいものを食べたい分だけ注文できることも相まってテンションがMAXになっていた。


 子どもたちの怒濤の注文ラッシュは落ち着き、いまは食べきってお代わりにくる子どもがちらほらなテーブルカート付近。

 用意された食べ物も半数近くが空皿になり、残りは数える程か僅かな量。さすがは子供に人気なものばかり。そして、まだまだ食べ足りないという子どもは今は寿司屋へと並んでいる。

 されど、寿司屋はともかく高級洋食の出張サービスは余分な気がする。

 実際、前述の通り寿司屋の方には子どもたちも喜んで注文に行くけれども、高級洋食の方には片手さえも不要なほど──即ち、子どもは一人も注文に行ってない。

 高級洋食を注文しているのは引率と同伴の大人達だけ。一応、子ども会なのだから親御さんがメインに享楽するモノは筋違いな気がする。

「希、カレンちゃん、はい、コレ。ボクたちのお昼。一緒に食べよ」

「ありがと、叶。そうね。丁度、キリもいいみたいだし」

「ありがとうございます、叶さん。はい、喜んで♪」

 つい今し方、テーブルカートに載せられていた最後の食べ物が子どもに取り分けられて、用意された食べ物は完売御礼となった。

 そこへとやって来たのは、先ほどまで音恋さんのお手伝いをしていた叶さん。希さんとわたしの分ものお昼を持ってきてくれたようだ。

「そんじゃ、お昼を食べる前にもう一仕事──テーブルの上を片付けときましょう。悪いんだけど、叶も手伝ってくれる?」

「うん、いいよ」

「はい!」

 わたしたちはテーブルカートの上にある空になったお皿や容器を一まとめにしていく。

 取り分けに使った器具も一ヶ所に集め、あとは布巾でテーブルを一通り拭いて片付け終了。

「よし、これでオーケーね! んじゃ、お昼を食べましょう! 何処で食べる?」

「そうだね……」

「彼処がいいんじゃないですか? 丘の木の下」

 たんまり食べてお腹満腹な子どもたちは、音恋さんと叶さんが並べたベンチや広げたシートの上でゆったりまったりと食後休憩をしていて、木が植えられている丘には今は誰もいない。

「いいわね。其処にしましょう」

「うん、ボクも賛成」

 希さんを先頭にわたしたちは人工太陽の真下──部屋の中心にある木が植えられている丘へと向かう。

 大草原の中に“ぽつん”とある“木の生えた丘”。“決して沈まない太陽”が照らす丘。その太陽が作り出した、丘にあるたった一つの“木陰”の下にわたしたちは辿り着く。

「──ああ、そういうことか!?」

「ん? どうしたの、カレンちゃん?」

「──『常白の丘』──」

「おお! 気付いたんだ。ぴんぽ~ん♪ ビンゴだよ、カレンちゃん。……(もぐもぐ……)」

「え!? ココが『そう』なの?」

「……(もぐもぐ……ごくん)。そうだよ、叶。ココが『常白の丘』」

 『悠久なる四季テンプスデアエテルニタス』────清美市(この街)が出来た当初から囁かれている都市伝説の一つ。元々は、春・秋・冬の三つのスポットで『悠久なる四季』だったのだが、後に夏のスポットが追加されて現在語られている姿になった。

 そして、そのうちの一つ。『悠久なる四季』の『夏のスポット』。ソレが、この場所。


 ──『常白の丘』──


 春に詩音さんが言っていた通り、此処は他の場所とは違って普通だ。『春のスポット』や『冬のスポット』のような不可思議現象はナシ。強いて挙げるなら、草原を投影している技術くらいだろうか。

「言われなかったら、たぶん、ボクはココが『悠久なる四季』の一つだなんて気付かなかったと思う」

「そうよね。ココは『永遠桜』や『眠る森』と比べたら、地味すぎるものね」

 確かに。事実、叶さんの言う通り、子ども会ご一行の誰一人として、自分達が都市伝説の“辿り着けたなら幸せになれる”スポットに来ているなんて露ほどにも思っていない。

 聞いた話では、地元民での『悠久なる四季』の認知率は七割を超えている。なのに、気付いている人はほぼ皆無。おそらく、実際にスポットに辿り着いたという情報や事細かな詳細が上がっていないのが、“『只の都市伝説』”止まりになっている一因だろう。故にココがその都市伝説のスポットだと気付くことを至難としている。

 ただし、事細かな詳細を知っていたなら、切っ掛けさえ見付けられれば気付くことはできる。

 ──成る程。音恋さんが行き先をナイショにしていたのはこういうワケだったのか。

 ……でも、コレだけだと『夏とソラの満喫ツアー』の“ソラ”の部分が謎になる。

 ……う~ん……。


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