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ねこの手、貸します。 夏  作者: 白月 仄
にゃん四章 常白の丘
18/22

よんのいち

 依頼主(お得意さま)の内部ではかなりの大騒ぎになったであろう“『荷物運び』の依頼”から早、数日────。

 因みに、なぜ、“であろう”と推定なのかと述べると、──あの日──希さんときびさんが侵入者対策のトラップによって閉じ込められてしまったあと、急ぎ店長の音恋さんは知り合いの専門家──セイメイ先輩を呼んで事態の解決策を練ったのだが、ある壁にぶち当たったのだ。

 因みに、セイメイ先輩こと──安部やすべ 晴明はるあき先輩は、希さんと叶さんの友達の一人で、実は本物の魔法使い。ギーペはセイメイ先輩の名前がかの有名陰陽師と一字違いから『なんちゃって陰陽師』と呼んでいる。閑話休題。

 本題に戻ると、それは、希さんときびさんを救出解放するにはトラップの要を壊すしかなかったのだが、“それ”をするとイタチの最後っ屁的なトラップが発動してトラップの効果範囲内に在るトラップが仕掛けられた当時に既に有った物が消失してしまい、“『荷物運び』”の依頼が失敗に終わってしまうのだ。

 それに気付いた音恋さんとセイメイ先輩は「どうしたものか?」と頭を悩ませていた。が、そこに叶さんが零した一言が突破口をもたらしたのだけれども、別の壁にぶち当たった。

 その別の壁とは、依頼の荷物を一旦別の場所へと移す事になること。普通であれば依頼主に掛け合って許可を得ればいいのだけど、ところがどっこい、この依頼の依頼主になっていた人は下っ端管理職で独断専行の権限が無かったのだ。

 これは依頼失敗もやむなしとどん詰まりかけたその時、音恋さんが『お得意さまのドン』と呼んでいる人が現場視察に訪れていて、困り果てていた『わたしたち』に声を掛けてきたのだ。

 そして、音恋さんと『お得意さまのドン』は知己の仲らしく、トントン拍子に話はまとまり、見事、希さんときびさんの救出と依頼達成の両方を成し遂げた。

 さて、ここに出てきた『お得意さまのドン』。どんな人物かというと、一代で土木建築業者から現在は国内で十指に入る一大企業グループを築いた人。即ち、この清美市を本拠地にしている一流企業──天地あめつちグループの会長さんなのだ。

 詰まり、企業グループのトップが出張ってきたのだから、現場の人達は大わらわ。ってな理由わけで、前述の“であろう”なのだ。

 ──では、話を現在に戻して、今現在、『わたしたち』はとある施設に子どもたちの引率者の一員として来ている。

 その経緯を説明すると、────近所の『子ども会』という地域コミュニティでとある旅行が計画されていたのだが、その旅行が手違いで中止になり、子ども会に参加している子どもたちからは失望の眼差しを子どもたちの親からはクレームの嵐を受けた子ども会運営陣の人達は頭を痛めた。

 そして、困窮極まった子ども会運営陣は藁にも縋る思いで『うち』に「中止になった旅行に代わるものを企画してもらえないか?」と依頼してきたのだ。

 ここでちょっと余談をすると、中止になった旅行の行き先は、かのネズミのキャラがマスコットの夢の国。かつて、東京二十三区壊滅の原因の一つである南海トラフ大津波で夢の国も壊滅的被害を受けて、災害からの復旧復興が始まった当初は「ついに夢の国もおしまいだ」といわれていたが、そんな噂もどこ吹く風で夢の国は不死鳥の如く復活を果たして、現在でも国内一番のテーマパークの座に君臨している。

 それでは余談はこれまでにして本題に戻ると、その依頼を請けて音恋さんが考案した企画が『夏とソラの満喫ツアー』。

 そのツアーの内容は──日程を旅行の予定だった一泊二日に合わせた二日間で、二日目は清美グランドパーク内にある『屋外レジャープール』での行楽と発表されているが、一日目である今日の内容は子どもたちはおろか子どもたちの親御さん更には引率の大人達と『わたしたち』にまでも秘密となっている。

 そんなワケで、音恋さんに引き連れられてやってきたこの施設が一体どんなものなのかは未だ不明。

 子どもたちが音恋さんに再三聞いても、音恋さんからは「見てのお楽しみ♪」としか返ってこず、施設に着いてから職員の人達に聞いても「見てのお楽しみです」と音恋さんと同様の返答で、子どもたちは膨れっ面になっている。

 ただ、この施設は、この街を本拠地にしているとある企業の私有地内にあり、普段は関係者以外立ち入り禁止になっている。

 施設の中を職員の先導で歩き進むことしばし。進行方向に大きな物でも余裕で通れる巨大な扉が姿を現した。さらに、通路も搬入路と合流していて幅が広く、ちょっとした広場になっている。

 其処で先導していた職員の人は一旦足を止めて、こちらに振り返った。

 子ども会ご一行も職員に倣って歩みを止めて、何事かと職員を見つめる。

「ご来場の皆様、これからこの円柱状の部屋の中へと入ります。その際、一旦部屋の中が真っ暗になりますので足元に注意してお進みください」

 そう注意事項を述べた職員は再び前を向くと、巨大な扉の横にある操作パネルを操作して巨大な扉を開かせる。

 ──ゴゥンゴゥンゴゥンゴゥン……

 低重音を響かせゆっくりと開いていく巨大な扉。

 開いていく扉の間からは真っ暗闇が顔を覗かせていて、暗闇に恐怖を覚えたのか近くにいた男の子がぎゅっとわたしの手を握ってきた。

「怖い?」

「こここ、こわくないやい! 真っ暗なんてホントこわくないんだからなっ!!」

 詞とは裏腹に握ってきた手の力は増していて、なんか微笑ましい。

「あー、ウソ付いてる~! こわくないなら、何でおねーさんの手をつかんでるの~?」

 わたしの手を握っている男の子の友達が男の子の見栄っ張りを看破して、男の子をからかう。

「こ、これはちがうもん! おねーさんがこわくないよーにつかんでるんだもん!」

「もう、強がり言っちゃって。もしかして、カレンちゃん(おねーさん)に惚れっちゃった?」

「──ファッ!? そそそそそ、そんなことないもん!! 黄色いリボンのおねーさんはへんなこと言わないでよ!」

「…………ヒドい、わたくちという彼女がありながら、他のひとに手を出すなんて!?」

 あー、なんか希さんが小さな火種に火薬を投げ入れた……。そんなことをするとどうなるかは火を見るとか以前に大爆発するから……──というか、してるし……。

 ああ……、幼いながらにも修羅場になってる……。

 幼子の修羅場を作った希さんは「いや~、ゴメンね」とは謝るもその言葉には悪怯れた様子はなく、成り行きを笑いながら見守っている。

 他の子ども会の子どもたち──主に小学生高学年から中学生の女子──は修羅場に興味津々のようで、中には囃し立てる子まで出てくる始末。

 ──しかし、そんな賑やかな場に冷や水をぶち撒ける人物が、

「他人様の前でリア充が、キャッキャッウフフするなーーーーっ!!!!」

 乱入してきた。

 その叫声は一瞬で場を水を打ったように鎮まらせた。

 あの人は……確か──、

「──姉ぇ、いくら受験勉強漬けの日々のストレスが溜まってるからって、八つ当りはよくないよ!」

 ──そう確か、今宥めに入った男の子のお姉さんだ。

 子ども会は名前が示す通り、メインは子どもたちで、参加資格は数え年で十七歳──年度換算で──まで。そして、運営には子ども会に参加している子どもたちの親御さんの中から選出された人達が携わる。

 さて、そんな子ども会の企画に何故に受験生のお姉さんが参加しているのかというと、

「アンタね、アタシだってただでさえ受験勉強でストレスが溜まってるのに「気分転換にもなるだろうから」って説得されてアンタの保護者役を引き受けてきたのに、そこでリア充の様を見せ付けられるなんて、なんの嫌がらせよ!」

 という訳。

 しかし、受験生のお姉さんのヒステリーは場の雰囲気を『お盛んな、お子さまだこと』から『受験生は大変だよねorなんだ』という、受験生のお姉さんへの同情や哀れむものへと塗り替えた。

「ああはなりたくないわね」

 ……えー!? 受験生のお姉さんがヒステリーを起こした原因の元を辿れば、希さんが投げ込んだ火薬が原因なのに…………。

「それではご来場の皆様、これより部屋の中へと入りますので、足元には十分ご注意下さい」

 うわー、ちょっとした騒ぎが起きたのに完全なまでにスルーとか、この職員の人は肝が据わってる……──ハッ!?

 あー、違った。営業スマイルの瞳の奥に大人気なくも幼いカップルへの嫉妬の火が見え隠れしていた。

 そんな職員の人に導かれて、子ども会ご一行は真っ暗闇な円柱状の部屋の中へと踏み入れる。

 ──ゴゥンゴゥンゴゥンゴゥン……。

 職員と子ども会ご一行の全員が部屋内に入ったところで、開いた時と同じ低重音を響かせながら入ってきた扉が閉まってゆく。

 同時に外側からの光も遮られて部屋内は完全な真っ暗闇と化した。

 ──ぎゅっ。──ギュッ。──ぎゅッ。…………。

 どうやら真っ暗闇が怖かったようで、周囲の子どもたちがわたしに掴まってきたようだ。

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