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ねこの手、貸します。 夏  作者: 白月 仄
にゃん三章 忘却領域
14/22

さんのさん


 ──「動くな」──


 それは、普段の言動からは想像がつかない程に冷淡で無感情な副店長の声。

 幻の壁を通り抜けてドームの中へと入ったアタシは、入ってきたドアが閉まり外からの光が遮断された瞬間に暗がりから飛び出してきた副店長に身動きを封じられてしまった。

「は~い、どちら様~? お顔を拝見」

 さらに副店長が侵入者を取り押さえたのを確認して、店長も暗がりから出てきた。

 そして、パッと点けれられた店長の腕時計に備え付けられているライトの光りが、アタシの顔を照らす。

 ──うわっ、眩し……。

「──って、やっぱし、きびちゃんだったか」

「──マジか!? ……ふぅ~、まったく驚かさないでくれよ嬢ちゃん」

 店長が侵入者がアタシであることを告げると、副店長は感情を表にして何時もの副店長に戻ってアタシの拘束を解く。

 ──えー……、アタシも、いきなり副店長に身動きを封じられてちびりそうなくらい…………驚かされたんだけどな……。

「──にしても、認識阻害の魔法つっても思ってた以下だな。何者かに尾行をされるは『ドームの中(ここ)』に入るところを嬢ちゃんに目撃されてるは、気休めにもなってねー。それとも、不良品を貸し出されたか?」

 副店長はブレスレット型ケータイをしているのとは逆の腕にしている腕輪をペシペシと叩く。

 一先ず、副店長が口にした魔法云々は後にして、そのあと言った“尾行していた何者か”は間違いなく“アタシ”だよね。どうやら、副店長はさっき店長が「──やっぱし、──」と言ったのを聞き逃していたようだ。

 ──でも、なんだかおいそれとは「尾行していたのはアタシです♪」とは、言い出せない。さっきのアタシを拘束したときの副店長の雰囲気はマジで恐かったし。

 それにしても、

「副店長はなんでアタシが目撃してたって判ったんですか?」

「そいつは簡単な推理さ。オレたちがこの中に入ってから、あんまり間を置かずに同じ入り口から入ってきたってことは、オレたちが入るところを目撃していたとしか考えられないからね」

「成る程、言われてみれば確かに簡単な推理ですね」

 そうだ。こうして店長たちと合流してしまった事だし、折角だから店長たちが何をしているのかを直接聞いてみよう。教えてもらえるかは分からないけど……。

「……あのー、ところで店長たちは此処で何を──?」

「……」

「……」

 店長と副店長は一瞬「どうする?」と無言でアイコンタクトを交わすも、すぐに答えが出たようで、

「……そうね。きびちゃんがスパイごっこしちゃうくらいかなり興味津々みたいだし、────」

 ──わをッ!? 薄々さっきの発言でわかってはいたけど、店長にはアタシが尾行していたのがバレてた!!

「────わざわざ隠す事でもないからね。いいわよ。私たちが何をしているのか教えてあげる」

 そして、店長は店長たちが何をしているのかを教えてくれた──


 ──それは例えるなら、外見は見るからにビックリ箱なのに蓋を開けたら只の箱だったみたいな肩透かし感。

 店長が教えてくれた店長たちがしていた事は──────『遺産』と呼称されている極秘研究施設群時代の名残の定期点検調査。もう少し詳しく述べると、『遺産』に変化や何者かの干渉の形跡や痕跡が無かったかどうかの調査。

 アタシが想像していたのとは掛け離れていた真実。──そりゃ、そうだよね……。

 ──ハァ~…………

「──それで、店長たちはこれからどうするんですか?」

「そうね……。ぶっちゃけ、ドームの中に入れるなんて予想だにしてなかったから、どうしたものかしら? ……まあ、何も見なかった事にして“全件異常無し”って報告書を出すのがベストなのよね」

「……それって、契約違反なのでは──?」

「普通ならそうなんだけど──ところがどっこい、“余程の事態かあからさまな現状でない限りは基本的に異常無し”で“報告をしてくれ”って云われてるのよ」

「そ……──そうなんですか……」

 ──「ソレって裏がありありって事じゃないですか」と口から出かけたけど、“勘ぐらない方がいい”と何故か直感し、すんでのところでその詞を呑み込んだ。

「まぁね。って、言っても、──実は便宜上は同じ依頼主から、“何かあった”場合は『遺産』の調査を可能な限りするって依頼も別途請けてるから、片っ方の報告書に『異常無し』って書いても、どの道『ドームの中(ここ)』の調査はしないといけないのよね~」

「はぁ~、成る程、そうなんですか。……………………。……それでは、店長たちの調査の邪魔にらないようアタシはこれで──」

 ──ガシッ。がしっ。

 何と無く、このまま店長たちとご一緒すると調査を手伝わされそうな気がしたので、アタシはくるりと踵を返しお暇しようとしたが、右肩を副店長に、左肩を店長に、捕まえられてしまった!

「ちょうど、よかったわ。ねぇ、きびちゃん──」

「ああ、丁度よかった。なぁ、嬢ちゃん──」


「「──調査に一人でも人手が欲しいから、手伝いヲしてもらえないかな」」


 ──はい、気がした通りになりましたよ。コンチキショウめ。あぁ、前言撤回の撤回をしとけばよかった……。まんま、後悔先に立たず。

 まあ、店長たちに捕まってしまった以上、致し方ない──けれども、やぶさかでもない。

 正直、心の中では、店長たちに誘われて嬉しいという思いが、事無かれな思いと同じくらいあったのだ。

 ただ、──

「──わかりました、お手伝いします。しますから、肩を掴んでいる手の力を抜いてください!」

 今日は久しぶりに出来た上辺だけではない本当の友人との遊楽にちょっぴし気合いを入れて肩出しファッションをしていたので、店長と副店長のアタシを逃がさんとする思いが籠もった手が肩に直に食い込んでいる。

 ──これ、絶対に手形の跡が残るよ……。

「あ、ゴメン」

「あ、スマン」

 2人とも詫びてはいるが、内心のガッツポーズしている姿が透けて見えた。

「……それで、調査って何を調べるんですか?」

「そうね~……。まず、雑でも見取り図作成は必須よね。あとは目についたり気になった事やヵ所をメモ取りや画像で撮って、私たちで解析できる範囲での詳細調査ってところかしらね」

 つまりは手当たり次第。そりゃ、人手が要る訳だ。1人でも多くいた方がその分集められる情報量も多くなるし。

 あー、でも──

「見取り図の作成は清書以外なら、すぐに完了出来そうですよ」

「おいおい、嬢ちゃん、一応こいつは仕事なんだからさ、そういう冗談とかはよくないぞ」

「そうよ。きびちゃん、そんなご都合展開なんて、現実では稀なんだから」

 ──えー……、本当なのに……。だって、

「嘘や冗談で言ってませんよ。ほら、店長から見て左後ろにある端末の横のパネルに見取り図が表記されてます」

 いま居る場所は薄暗いけれど、物が見えないほどに真っ暗闇でもない。なので、ついさっき店長たちの方に振り返ったときに見取り図が表記されたパネルが目に入ったのだ。

「あら、本当。見事なまでのご都合展開ね」

「…………ああ、そうだな」

 店長を先頭にアタシたちはパネルと端末が設置されている場所に移動して、改めてパネルに表記されている見取り図を眺める。

「……これはまた……、野球場並みのドーとはいえ、その屋内に森を造るとは……、驚きだな」

「……確かにね。それに、ドーム内の九割近くがその森だなんて……目的は何だったのかしら?」

「……そうですね。……植物園……というわけではなさそうですし……」

 見取り図には店長の言った通り、図面上の殆んどを森の区画が占めている。──更に、森の区画は4つに区分けされていて、それぞれに名前が付けられていた。

「ま、何はともあれ、まずは最低限の成果は得た事だし、帰りましょう」

「──はゐィ?!」

「おい、音恋──」

 店長はパシャリと取り出したカメラで見取り図を撮影すると、即刻に撤収宣言。

「──アホか!」

 ──きゅぴ~んッ!

 

   「──アホか!」


   「──アホか!」



   「──アホかーっ!!」




   ずびしぃいいぃぃぃーーーんッ!!




「ぎゃふん!?」

 それは、────────副店長のツッコミだった。しかし、副店長が店長にツッコミを入れた瞬間に脳内に直接流れ込んできたカットインとリフレイン演出の効果イメージは一体……──?!

「いまの幻覚は……?」

「…………………………………………………………………………………………………………超クリティカル──」

「へ?」

 この街ではクリティカルという不可思議現象が起きるという事を偶然にも実体験でアタシは知った。が、超クリティカル???

「オレも噂話にしか聞いた事がなかったが、クリティカルが起きるよりも更に発生確率が低く、超クリティカルが起きると通常のクリティカル効果に加えて『ツッコミを入れた者のカットイン』と『ツッコミのリフレイン』が当事者とその現場の目撃者の脳裏に強制的にフラッシュバックされるんだそうだ」

 うわ……、さっきのは副店長が話してくれた内容のマジまんまだった。

「うぅぅ……、もう、なんなのよ! 一日に二回もクリティカルが発生するなんて……、私が一体何をした?!」

「さあ、そいつは知らん。だが、ろくに調査もせずに帰ろうとする奴が何処にいる!」

「ここ♪ それに見取り図だけでも依頼主には十二分過ぎるくらいの成果だわ。さらに今更ながら、はっきり言って、準備不足よ。さっきはノリできびちゃんを私たちの仕事に誘ったけど、此処は仮にも百年以上も前の建造物で且つ極秘研究施設の一部だったのよ。何が起こるのかわかったもんじゃないところに準備もなしに入っていくなんて、無謀以外の何物でもないわ」

「……………………たくッ、確かに、そうだな。わかった。──だが、せめて見取り図の横にある端末くらいはいじってからにしろ」

 確かに店長の言った事には一理あるけれど、アタシとしては大好物を鼻先に見せびらかされてお預けを喰らったままの飼い犬のような気分。

 …………でも、仕方ないか……。昔からよく言うよね、「何かあってからじゃ遅い」って。

「わかったわよ、もう。やればいいんでしょ」

 副店長の諫言に渋々感を出しながら店長はパネル横の端末をあれこれといじるも、

「……あれま、なんの反応もナシ。ドームの出入口のドアが動いたんだから、コレも動くと思ったんだけど……。──う~ん……………………もしかしたら、侵入者対策にプロテクトでも掛けられているのかも……」

「そうか──……なら、少し強引な手でいくか。音恋、ハッキングだ」

 …………。

 「え~、いやだ、メンドくさい」と表情だけで副店長に伝える店長。しかし、副店長は店長の訴えを「いいから、やれっ!」という強い眼力だけで一蹴した。

「……はいはい、やりますよー。──さ~て、じゃ、ちゃちゃっとやっちゃうよ」

 店長は見取り図と端末を撮影したカメラをしまって、今度は『透明の板──最新型タブレット端末』を取り出し、端末をハッキングし始める。

「どれどれ、約百年ものの端末の性能とやらを見せてもらおうか」

 芝居かかった言い回しをしながら、店長は指をタブレットの表面で高速タップダンスの如く華麗に舞い踊らせる。

 …………………………………………

 ──ヴーゥン。

「流石、最新型──販売前のモニター依頼での報酬──! 正規品が発売前に大幅グレードダウンされたわけだわ。プロでなくとも楽々ハッキングが出来るんですもの」

 端末の起動に成功した店長。

 強制起動された端末は起動音とともに真っ黒な画面に光を灯す。

「さてさて、何が出るかな~♪ 何が出るかな~♪────ほぉ、これはまたけったいね」

「おいおい……、こんな場所に警備システム?」

「……この、登録者名簿って何でしょうか?」

 起動が完了した端末。

 その画面に映し出されたのは、幾つかのアイコンが表示されたメインメニュー。

 『カメラ』、『システムチェック』、『緊急事態マニュアル』、『隔壁操作』、『登録者名簿』etc...。

「へぇ~、登録者名簿、か。どれ、中身を拝見」

「あ、ちょっと、私が起動したのに、なんで詩音くんが最初に触るのよ?!」

「別にいいじゃないか。ほれ、名簿が表示される────────ぞッ!?」

「────マジ?! これって……、どういうことかしら?」

「なんで…………………………アタシ達が登録されているんですか???!!!」

 副店長が端末の画面のアイコンをタッチすると、画面が切り替わり、顔写真が伴った登録者名簿が画面に表示された。そして、其処に──登録者名簿に登録されていた顔触れは皆見知った顔ばかり!?

「記入されている情報は──顔写真と……指紋、虹彩、両手の静脈、DNA情報に…………その他諸々……あとは、魔力波長……ね。それ以外のプロフィール欄は名前を含めて空白だわ」

「──これ、『ねこカフェ』の猫たちまでも登録されてますよ!?」

「……あん? 皆はゲストで登録されてるのに、なんでオレだけスタッフで登録されてるんだ?」

 いろいろと謎だらけだ。

「……他には────ふみゅ……、これは入退場のログ……みたいね」

「……ホントだ。アタシたちのところ、『南側非常口から入場』ってなってますね」

「……!? ──おい、音恋!」

「ん、詩音くん、何?」

「少年のところを見てみろ」

 副店長の発言でアタシも彼(?)の登録情報に目を向けると、其処にはアタシたちと同様に入退場のログ欄に『東側非常口から入場』となっていた。しかも、入場した時間がアタシたちよりも少し早い時間だった。

「──これは………………、準備不足を言い訳に帰るわけにはいかなくなったわね。此処の安全性が確認出来ていない以上、何かが起こる前に、保護しに行くわよ!」

「おうよ!」

「──あ! 待ってください。副店長、歌音ちゃんのところを見てください」

「──なッ!? 歌音うたねまで、此処にいるのかっ?!」

 歌音ちゃんの登録情報の入退場のログ欄には彼(?)よりも更に早い時間が記録されていた。しかも、何処から入ってきたのかを示す欄には──『『門』ルームより入場』──と、あった。

 『門』ルーム──確か見取り図にもあった。森区画と非常口がある区画の間にあり、見取り図上ではココから森区画に行くのに必ず通過するようになっている。

「何はともかく、近い方から順に保護していくわよ」

「ああ。だが、居場所は──?」

「それなら、大丈夫。いま端末から入場している登録者の現在地を検索するシステムをタブレットにコピーしたから。二人とも、急ぐわよ」

 流石は店長。手際がいい。それに、ここまでキリッとした店長の姿を視るのは、アタシは初めてだ。──詰まりは、それだけいつも以上に真剣だということ。

 暗がりの中を迷うことなく先頭を疾駆する店長。

 非常口があるこの区画は、何の嫌がらせか隣接している『門』ルームまで真っ直ぐ進むことが出来ず、まるで迷路だ。さっきの見取り図が無かったら迷っていたかもしれない。

 …………………

 ──ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ。プシュー。

 非常口のある区画と『門』ルームを隔てるドアが開く。

 ドームの出入口と同じセキュリティが設けられていたけれど、こちらにはドアと認証スキャナーを隠す幻影が無かった。

 開かれたドアをくぐり抜け、『門』ルームに進入するアタシたち。

「──……これは、またシンプルというか、まるで儀式場だな」

「差し詰め、白魔法の儀式って、ところかしらね」

 進入した『門』ルームは、点々としかライトがなかった非常口のある区画とは違って室内全体をしっかり照らすライトがあり、さらには壁から天井に床までがほぼ白色で統一されていて、白の空間を成していた。

 さらに、店長たちが零した詞が表している通り、この空間内の床には人が10人くらいが余裕で立てるスペースに円を伴う幾何学的紋様が描かれている。そのうえ、その幾何学的紋様を黄色で引かれた線が正方形に囲う。

「──儀式はともかく魔法……ですか……?」

 副店長からは以前やついさっきも厨二病チック──普段の副店長からは厨二病な発言を聞いた事が無いので──な発言を聞いたけど、まさか店長からも同様の発言があるなんて────?!

「きびちゃん、確かに普通なら“魔法なんて絵空事”だけどね、実際問題この現実せかいには魔法は実在するのよ。信じられないと思うけど、特に|この(清美市)では表には出てこないけれども、裏では密接に魔法なんかの“絵空事”が関わってるのよ」

 店長の瞳から発せられている眼光には1ミリもの冗談も含まれていない。本気な眼差し。

「──なぁ、今は魔法云々話よりも、一刻を争う最優先事項があるだろ」

「……そうね」

「……はい、すみませんでした。余計な手間をとらせてしまいまして」

「ん、わかれば結構。んじゃ、行くぞ!」

 副店長の窘めに店長とアタシは余談を中断して、『門』ルームから森区画へと出る通路へ────

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