1話
興味を持って下さった皆さん初めまして、ライと申します。まだまだ不慣れな部分があると思いますが、楽しんで貰えたらなによりです。
ダンジョン、それは未知への挑戦
ダンジョン、それは一攫千金の夢
ダンジョン、それは自分の限界を超える場所
ダンジョンに潜れば世界が変わる
超人的な肉体を手に入れるのも夢じゃない
あなたも頼れる仲間とダンジョンに潜って、夢のトップランカーを目指しましょう。
登録手数料無料、初心者応援装備セットも格安で販売中。
ダンジョン攻略協会はあなたの挑戦をいつでも歓迎しております。
いつものダンジョンに向かって歩いている時に、街頭テレビでダンジョン攻略協会のCMが流れているのを目にする。ダンジョンに潜る冒険者であれば誰でもお世話になるところだし、いつもお世話になってはいるのだが・・・相変わらず胡散臭い組織だなぁとも思ってしまう。
いやまぁ、ダンジョンがこの世界に出現してからたったの3年しか経っていない。それなのにダンジョン出現時の大混乱をおさめ、民間人がダンジョンに挑めるような環境を整えた事は驚愕だ。そもそもダンジョンを民間開放するまで3ヶ月くらいしか経ってなかったはずだ。ここ日本だよ?議論と検討を重ねて専門家の意見を聴取してさらなる議論を深めて結論が出ないような国にしては異例のスピードだと思う。あっ、ちなみに世界的に見ればかなり遅かったのは御愛嬌だ。
それはさておき、CMを見ても分かるとおり、政府は国民をダンジョンに駆り立てる方針のようで、ダンジョンの良い面だけを強調している。あれだけ労働災害にうるさかった政府が、怪我や死亡のリスクの高いダンジョンへ潜る事を推奨しているのだ。しかもダンジョンが出現してから確実に治安は悪化している。日本だとまだマシな方だが、海外だとダンジョンで身体能力が大きく向上した人間が、犯罪を犯して大騒動を引き起こすなんて日常茶飯事だ。あと日本ですらダンジョンの中は無法地帯のようなものだ。人が死んでも誰かに殺されたのかモンスターに殺されたのかなんて調べる術はほとんど無い。あと凶悪犯がダンジョン内部に住み着くなんて話もよく聞く。思い付くだけでもこれだけデメリットがあるのに、各国はダンジョンを軍隊で封鎖せず民間人に開放している。自分達みたいな民衆には分からない何かがあるんだろうが、人命や治安を犠牲にしてでもダンジョンから得られる利益が凄いのかも知れない。
そんな事を考えつつも足は止めずにダンジョンの入り口に建てられたダンジョン攻略協会の施設に入る。ははは、上の人間に不満や不信があろうがぶつくさ言いながらも働いてしまうのは社畜時代の名残りだろうか?ダンジョンに自由とロマンを求めて飛び込んだというのに、人間性根はそう変わらないものかもしれんな。おっ、今日の受付は人があまり居ないみたいだ。いつも忙しそうにしてる可愛い受付の娘も空いてるのはラッキーだ。
「ちわーっす。」
「あ、葛原さん、こんにちは。今日もダンジョンに潜るんですか?」
「そんなとこ。適当にぶらついて適当に狩って適当な時間に戻って来るわ。」
「あはは、相変わらず適当ですねぇ。今日もソロですか?」
「昨日も今日も明日もソロですね。」
「ですよねぇ・・・本当はソロは危ないからあんまりオススメしてないのですが・・・いつもの事ですね。」
「ですねぇ。一人の方が気楽ってのはあるので。ちなみにプライベートでもソロですが、そっちは恋人募集中ですよ。」
「そうなんですか、では頑張って下さいね。」
受付の娘にサラッと流されながら業務用の笑顔で見送られる。うーん、稼ぎは悪く無いのは向こうも知ってるはずだが、それくらいで若い娘がおっさんの相手をしてくれるはずも無いか・・・って誰がおっさんなんや!!まだ三十代前半やぞ!!とは言って見たけど受付の娘はまだ二十代前半やろうし、十歳も離れてりゃおっさんかなぁ。というかあれくらいならセクハラで訴えられたりしないよな?うん、きっと大丈夫なはず・・・
ちょっとブルーになりながらも更衣室へと向かう。ちなみにこの更衣室には大きめの鏡とベンチがいくつかあるだけの部屋だ。ロッカーなんてものは無い。そんな設備で大丈夫かだって?大丈夫だ、問題ない。
ここで活躍しますわダンジョンの神秘ストレージである。亜空間にアイテムを出し入れ出来るチートスキルだ。これはダンジョンに挑戦すれば誰でも使えるようになり、個人のレベルに応じて容量が増えていく優れものだ。この能力を得るだけでもダンジョンに潜る価値があると言っても過言では無い。自分くらいのレベルになれば装備一式どころか大掛かりなキャンプ道具一式を入れても余裕がある。ちなみに使用者本人以外がストレージの中身を確かめる手段が無いので、窃盗に密輸に証拠の隠滅など悪用仕放題の超害悪スキルでもある。あっ、使用者本人以外がストレージの中身を確認する例外的な方法として、使用者が死ねば約5分後にストレージの中身が周辺にぶち撒けられるという仕様もあるので、殺してでも奪い取るは可能である。物騒な世の中だ。
さて、今回は浅い階層をぶらつくだけだし、あまり御大層な装備は必要無いだろう。強化繊維の服とダンジョン用のブーツ、そして使い慣れた片手で振るえるサイズの鉄の棍棒を持って準備完了。かなりラフなダンジョン装備の完成だ。
「おいおいあれ見ろよ。」
「ん?棍棒とかマジかよ、だっさ。」
「俺等と同じ初心者だろうけどよ、やっぱり金無い奴らは大変だな。」
「マジでそれな。」
ははは、なんだあの若い兄ちゃん達は?喧嘩売ってるのかな?こっちはいい年した大人だから二十歳いってるのか怪しい兄ちゃん達がちょっと粗相したからって、いちいちキレたりしないけどさ。
「おいおい兄ちゃん達、棍棒の凄さを知らないのか?これでモンスターの頭をぶん殴ればだいたい勝てる優れものだぞ。」
「はははっ、そりゃ当たり前だろ」
「確かに鈍器で頭をぶん殴れば相手は死ぬよな。」
「そう、当たり前だからこそ信頼性が高いぞ。しかも剣と違って雑に扱っても刃こぼれしたり折れたりする心配も無いから安心だな。」
「あはは、マジおもれぇなこのおっさん。」
「それな。おっさんには原始人みたいな武器の方が似合うかもな。」
「そんだけ笑うって事は兄ちゃん達の武器はさぞかし立派なんだろうな?」
「ああ、悪い悪い、せっかくだからおっさんにも見せてやるよ。」
「これが現代の人間の武器ってやつだぜ。」
そう言って若い兄ちゃん達が取り出したのはゴツい拳銃である。詳しくは無いけどマグナムとかそういう類かな?あー、うん。高いけど最近は普通にダンジョン攻略協会のショップで売ってるんだよなぁ。銃火器が普通に売ってるとかアメリカかよって意識は未だに抜けないが、売ってるものは仕方ない。だってダンジョンで活躍出来る強力な飛び道具だし・・・
現代ダンジョンを舞台にした創作物はダンジョン出現以前からいくつもあったが、大概の場合は何かと理由をつけて銃火器の使用を排除してる事が多い。モンスターに通用しないとかなんとかで。でも排除したくなる理由もわかってしまう。だって銃火器を扱える人間が強すぎるから話が面白くなくなってしまう。序盤に出てくるゴブリンなんて人間の子供程度のサイズだぞ?下手すると近付かれる前に銃弾を一発ぶち込んでで終わりだ。銃というのは素人が考えてる程簡単に当てられる武器では無いのだけれど、それにしたって練習すればある程度簡単に当てれるようにはなる。これが弓の場合だったら、まずは矢を真っ直ぐ飛ばすところから練習しなくてはならないので、一から習熟するには物凄い練習が必要なのだ。そして弓を練習したところで威力も精度も連射速度も銃火器の方が優れている。コストを度外視すれば序盤の強武器なのは間違いない。
「おお、言うだけあってカッコいいやつ持ってるじゃないか。」
「うらやましいだろ?こいつがあればゴブリンの頭なんて一発で吹っ飛ぶぜ。」
「ま、これが経済格差ってやつ?俺等は楽にレベルアップするけど、おっさんは地道に棍棒で頑張ってくれや。」
あー、うん、見た目じゃレベル差分かんないだろうけど、こっちが本気になれば銃なんて撃つ前に棍棒で殴って挽き肉に出来るんだが・・・そんな事を懇切丁寧に教えてやる義理はねぇか。こんな金持ってそうな奴等が素人丸出しでダンジョンに潜って行ったら、人狩りしてるような連中にとっては良いカモでしか無いよなぁ。現実は世知辛いってやつだ。
「あー、まぁ頑張るよ。兄ちゃん達も気を付けて頑張れよ。ダンジョン内で危ないのはモンスターだけじゃないからな。」
「ははは、人間に襲われるってか?そういう時こそこいつの出番じゃねぇか。」
「そうそう、護身の為の銃を持ってる奴に喧嘩売る馬鹿はいねぇだろ。」
「あー、そうかもな。じゃあ先に行くわ。もしダンジョン内で俺がピンチになってたらその銃で助けてくれよ。」
「ははは、おもれぇおっさんだな。」
「俺等が辿り着くまでおっさんが生きてたら助けてやるよ。」
適当に手を振ってから若い兄ちゃん達と別れて更衣室を出る。まぁ、強く生きろよ兄ちゃん達。ダンジョン入り口付近の治安が良い場所ならきっと無双出来るだろうからさ。そんな事を考えながらダンジョン入り口前の広場に着くと今日もそこそこ賑わっている。広場にはダンジョン攻略協会が様々な施設を用意して、冒険者達のサポートをすると同時に、報酬で支払った金を回収している。武器や防具を売ってる店、食料や薬なんかの消耗品を売ってる店、魔石やモンスターの素材を買い取る店、ダンジョンに関するニュースが流れる大型スクリーン。あとはダンジョン攻略には直接関係無いかも知れないが、普通に飲食店街もあるし高級レストラン街もある。さらには金を持ってる一部の人間だけが利用出来るVIPエリア的なところも存在する。ダンジョンで稼いだ魔石や素材が宝石やブランド物に化けるのを考えるとちょっと笑える。
あと特徴的な店と言えばダンジョン内でも使用出来る通信機器専門店だろうか?理屈はわからんがダンジョン内では通常のスマホなんかはほとんど繋がらないのが現状だ。どんどん地下に潜って行くからか?だがダンジョン内専用の通信機器であればだいたい問題無く使用出来る。最近ではいわゆるダンジョン配信者なんてのも普通に活動してるし、それ専用の機材だって取り揃えられてる。なかにはドローンが自動的に追尾して撮影してくれる優れものもあったりする。まぁ、ドローンの類がモンスターによって撃墜されるのも配信あるあるだったりするけどな。あと配信用だけでなく偵察用や銃撃・爆撃用のドローンも売ってる。一般人がそんな危険な物を買えるとか物騒な世の中だ。それにしてもファンタジー系で馴染みのある装備とミリタリー系の装備が混在してるのはなんか物凄い違和感を感じてしまう。
とりあえず今日は買い足す物も特に思いつかないし、さっさとダンジョン入り口へと向かう。ダンジョンの入り口は相変わらず人が多い。ここで待ち合わせしてる人もいるし、臨時パーティーを組もうと声をかけてる奴もいる。だがこんなところで声をかけてる奴でまともな人間はほとんど居ない。パーティーメンバーは自分の命を預ける相手なのだから、ぱっと見て声かけてそのままダンジョンに入ろうだなんて正気とは思えない。ここで声掛けるやつはナンパ目的だったり強そうな人にキャリーして貰おうとしてる奴だったりがほとんどだ。人狩り連中の下っ端がここで組んだ臨時パーティーをダンジョンの奥に誘い込むなんて手口もある。
「ねぇねぇそこのお兄さん。」
「あ?」
「ちょっとお話良いっすか?」
さっさと通り過ぎようとしてたら珍しく声をかけてくる奴がいた。ぱっと見まだ十代だと思う若い女で、もしかしてまだ高校生なんじゃないか?体格はとにかく小さめ、150cmギリあるくらいか?髪はショートカットだし足とか腕とか引き締まった感じではあるし、何かしらスポーツでもやってた感じか?というかダンジョンに入ろうかって段階でぱっと見で筋肉の付き方が見えるような肌の露出をしてるなんて、素人丸出しの格好で憐れみを覚える。
「あー、まぁ、なんだ?」
「お兄さん一人っすか?それとも誰かと待ち合わせしてるっすか?」
「一人で潜るつもりだ。」
「だったら私も一緒に連れて行ってくれないっすか?キャリーして欲しいっす。」
うわ、久しぶりに出たよ・・・しかも仲間に入れて欲しいとかぼかさずにキャリーして欲しいと来たか。
「はぁ・・・わざわざキャリーしてやるメリットがねぇよ。他をあたれ。」
「まぁまぁまぁ、そう焦らずに話くらい聞いて欲しいっすよぉ。ほら、若くて可愛い女の子とお話出来る機会なんてなかなかないっすよ。」
「はいはいそうだな。他にもいっぱい人はいるんだから俺にこだわらずに次に行ってくれ。」
「いやいや、人選びにはこだわるっすよ。ここに人は多いですけどお兄さんみたいな良い人はなかなか見つからないっすよ。お兄さん、初心者みたいな装備してるっすけど、実はかなりのベテランっすよね?」
「・・・なんでそう思う?」
「おっ、少しは興味持ってくれたっすか?まずは雰囲気っすね。本当に初心者ならダンジョンに入る前は緊張してるっすよ。そんな一人で散歩にでも行く感じでダンジョンに入ってく人はいないっす。それによく見たらブーツも棍棒も使い込まれた感じがしたっす。」
ダンジョン前にこんな装備で居るから頭が悪い奴かと思っていたが、意外とよく見てるんだな。まぁ別に実力を隠してたとかじゃないので、見抜くのがそこまで難しいとは思わないが。
「まぁ、確かに多少は腕に自信はあるな。だがなんでわざわざ俺に声を掛けた?こう言ってはなんだが自称してるくらいには可愛い女の子だと自覚してるよな?ここに立ってればすぐに声をかけて貰えるだろ?俺みたいにソロで潜る変人よりはちゃんとパーティー組んでる奴等の方が安心だろ?」
「あー、確かに何度も声はかけて貰ったっすけど、下心丸出しの人ばっかなんっすよ。いやまぁ、完全な素人をダンジョンでキャリーして貰おうって虫の良いお願いしてる身っすから、多少はそういうお礼も吝かでは無いっすけど、集団で寄って集ってやられた末にダンジョンの奥でポイとかされたら終わりっす。だから連れて行って貰う相手は吟味してるっす。」
「そんなリスクがあると理解していながらダンジョンに丸腰で来てるのかよ・・・」
「ぶっちゃけ金が無くてヤバいんっすよ。このままだと路頭に迷って体を売りながら日銭を稼ぐ可愛そうな美少女の出来上がりっすね。そんな薄幸の美少女に手を差し伸べるベテランのお兄さん!!めちゃくちゃ格好良くないっすか?いやぁ、そんな格好いいお兄さんが現れたら美少女もころっと惚れちゃうかもしれないっすよ?」
なんというかダンジョン発生前のラノベあたりで使い込まれたような設定だな。というかこいつ分かっててそういうシチュエーションを演出してやがる。確かに創作物としてはありきたりな設定だが、個人的には別に嫌いでは無いし多少の憧れはある。しかし現実にそういう事をするかと問われると・・・面倒くさい。だってこいつ確実に未成年だろ?別にダンジョンが入ってはいけないというルールは無いし、歳が離れた男女がパーティーを組んではいけないなんてルールも無い。ルールは無いのだが、それと周りの人間がどう見るのかは別なのだ。普段はあまり人と関わりを持とうとしていないので人間関係なんて適当で構わないが、こんな未成年の美少女と歩いてたら、正義感に溢れる奴も下心に溢れる奴もどんどん絡んで来るのだ。トラブルホイホイには関わりたくない。
「あれだな、ラノベみたいで夢があって面白そうな展開ではあるな。」
「っすよね!!いやぁ、やっぱりお兄さん話が分かるっすねぇ!!」
「という事で貴女の今後のさらなるご活躍をお祈り申し上げます。」
「ん?なんで急に丁寧な口調っすか?・・・ってああ!!それ聞いた事あるっす!!会社の試験でのお断りの奴っすよね!!せ、せめて不採用の理由くらい教えて欲しいっす!!胸っすか!?胸が真っ平らなのが悪いんっすか!?」
「そういうのは関係ねぇよ、ただ単に面倒くさい。」
「ちょ、お兄さんお兄さん、ロマンを追い求めるならそれ相応の労力が必要っす!!面倒くさいからってロマンを諦めるのは良くないっすよ!!」
「成人男性が明らかに未成年の女の子を連れ回してたらどんな事が起きるか分かるだろ?」
「ぐ・・・でもそれはかなり古い考え方じゃないっすか?最近の流行りは実力至上主義っす!!ダンジョンの中でも外でも実力が物を言う世界になったんっす。そんな過酷な世界で素人の女の子をキャリーしてくれるなんて素晴らしい人格者なんっすから、誰かから文句言われる筋合いは無いっす!!それに新人のキャリーは協会からの評価も高いっす!!なんだったら最近は新人育成配信なんてのも人気っす!!」
はぁ・・・かなり必死に食い下がってくるな・・・
うーん、どうしたものかねぇ・・・
「分かった分かった。じゃあ最後の質問だ。どうしてそこまでダンジョンにこだわるんだ?金稼ぐだけなら他にも手はあるだろ?」
「さっきも言ったっすけど、今の世の中は実力至上主義の世界っす。きっとこれからもっと過酷な世界になってしまうっす。だったら命を掛けてでもダンジョンに挑んで実力をつけるしか無いっす!!でも命を掛けるからこそリスクを減らす努力はしなきゃいけないっす。それで一番リスクの低くて私が出来る方法は強くてまともな人にキャリーして貰うことっす。その為だったらなんだってするっす!!」
「なるほどな、そういう事なら連れて行っても良いが甘やかさんぞ。楽々レベルアップなんてものじゃ本当に強くはなれないからな。」
「ありがとうございます!!レベルとステータスの話はなんか聞いた事ある気がするっす。銃で戦う人と剣とかで戦う人じゃ同じレベルでもステータスが全然違うとかなんとか?」
「その通りだ。レベルとステータスの概念知ってるなら話は早い。モンスター倒して経験値稼いでレベルを上げればステータスは上がる。これは間違いではないんだが、レベルアップで上がるステータスはダンジョンで何をしていたかで上がり方が変わる。例えば同じ近距離武器でもハンマーみたいな重量武器を使えば筋力が上がりやすいし、レイピアやナイフみたいな軽量武器なら敏捷性とかが上がり易い。」
「へー、そうなんすねぇ。だから銃で戦う人は中層以降に潜るのは難しいとか言われるんっすか?」
銃で戦う人は楽してるって思われがちだが、銃さえあれば楽勝って訳ではないんだよなぁ。序盤に関しては確かに楽だろうけど。
「あー、それはまた別の話だな。銃で戦ってる奴もそれ相応にステータスは伸びるぞ。主に銃の反動に耐える為の筋力やら命中精度に関わる器用さやらな。あと走り回る奴なら敏捷性とかも普通に上がる。」
「えっ?じゃあなんで潜れなくなるんすか?」
「地上の動物で例えるが、兎とかなら拳銃程度でも当たれば狩れるよな?」
「まぁ、当たりさえすれば問題ないと思うっす。」
「これがイノシシとかクマならどうだ?」
「あー、拳銃なんかじゃ無理っすね。もっと大きな猟銃で狩ってるイメージっす。」
「そうだな。このように敵が大きくて硬くなればそれに合わせて銃の威力も上げないといけない。そして銃の威力を上げるには銃と弾薬の大型化が必要になってしまう。その分取り回しは悪くなるし運用コストも跳ね上がる。」
「それは大変そうっすね。」
「さらにダンジョンにはデカくて硬いモンスターだけじゃなくて小柄で素早いモンスターもいる。そっちにはマシンガンとかアサルトライフルなんかを使いたいが、デカいのと小柄なのを同時に相手にする事もあるわけだ。」
「うっ、それならパーティーでマシンガン担当と大型の銃担当で別れれば・・・」
「そうだな、対応出来ない事はない。が対処がかなり面倒になる。そして極めつけが・・・霊体型のモンスターだな。あいつらには銃も含めて物理攻撃が効かないからな。」
「それは最悪っす・・・」
「霊体型モンスターを倒すには魔法を使う、武器に魔力を込めて戦う、銀製の武器を使うくらいしか対処法が無い。もちろん銃使いでも銀の弾丸さえあれば戦えるが、運用コストは普通の弾丸の比じゃない。」
「そう考えると銃使いって活躍出来るのは序盤だけなんっすねぇ。」
ちなみにかなりのレアケースだが銃弾に魔力を込めて放てるスキルを獲得した人間もいて、その人は威力と運用コスト問題を解決して仲間と共に下層に潜ってたりするが、レアケースを前提に語ってもしょうがないからな。
「そんなとこだ。話が逸れたがもっと悲惨なのはキャリーしてトドメだけ刺させてパワーレベリングするやり方だな。あれでも一応ステータスは上がるが伸び率はかなり悪い。しかもレベルは上がってしまうから、低いステータスでレベルが上がりにくく戦闘のやり方を知らない雑魚の完成だ。」
「っ!?それマジっすか!?じゃあ私がして貰おうとしてた事って・・・」
「ああ、一部の配信者が善意でやってる雑魚養成プログラムを履修しようとしてたってわけだ。逆に言えばスパルタ教育で鍛えればその分強くなれるだろうな。それで死んだら元も子もないから死なない程度には加減が必要だが、そこら辺はこっちで調整してやれば良いだろう。上層でくらいならならやってやれるさ。」
「宜しくお願いします!!強くなる為にいっぱい頑張るっす!!お兄さんに会えて頑張って粘って交渉して本当に良かったっす!!・・・はっ!?」
「ん?どうした?」
女の子は何かに気付いたのか急に慌ててコソコソし始めた。なんか苦手な奴でも見つけたか?
「あ、あの、今さらなんっすけど、この話こんなに人の集まってる場所で言って良かったんっすか?」
「あー、まぁ気にすんな。あくまでもこの話は俺の調べた情報と主観で推測してる話だから、正式な研究の結果とかじゃねぇんだ。だから信じるも信じないも自己責任だし、ネットで調べればこれくらい載ってるんじゃないか?有象無象の育成論に埋もれてるかも知れんがな。どっちにしろベテランには今さら関係無い話だろうし、これで新人がやる気出すなら悪くは無いだろ。張り切り過ぎて死んだら自己責任だしな。」
「それでお兄さんが良いなら構わないっすけど、たぶんこれで一儲け出来る内容っすよ?」
「そうかも知れんがこの情報が正しいって確信はねぇからなぁ。もし間違ってたらデマ流す事になるからネットで大公開なんてのはしたくねぇな。そんな事よりそろそろダンジョン入る・・・ああ、いや、先に強化繊維の服くらいは買ってやるか。先に買い物行くぞ。」
「はい!!ありがとうございます!!」
深々と頭を下げてきちんとお礼を言えるあたり、口調に反して礼儀はきちんとしてるんだよなぁ。このへんはスポーツとかできっちり仕込まれた感じかな?
「あっ、申し遅れたっすけど、私の名前は長月紅葉っす。長短の長にお月様で紅葉は普通に紅葉狩りとかの紅葉っすね。宜しくお願いします。」
「そういやまだ名前知らなかったな。大熊健人だ。あー、大きい熊に健康な人で大熊健人だな。宜しくな。」
「はい!!大熊さん宜しくお願いします!!」
うん、こうなったら仕方ない。面倒くさいなんて言って無いで頑張って後輩指導するか。まっ、相手はなんだかんだ言って礼儀正しい美少女なんだ。やる気なら出てくるさ。
読んで頂きありがとうございました。感想など頂けると幸いです。