後の事は任せたよ
とある研究室では、様々な迷宮品が机に並べられており、多くの白衣を着た研究員が古文書と歴史書を照らし合わせて解読作業に追われている。
「人間は存外勝手な生き物さ。知ったふりをして近付き、実際には人に一切の興味を示さない。どんなに助けを呼んでも自分の都合良く解釈するだけなのだよ。そんな種族同士の対立が天魔大戦を引き起こしたのだろうね」
奥の席に座る一人の白衣を着た青年が頬杖を付いて語ると、足を組んで向かい合うように立つ青年を見て微笑む。
「ようするに……小さな諍いから大戦を招いたと仰るのですね?」
向かい合うように立つ白衣を着た色白の青年が目を丸くして頷く。
「そう考えて間違いないだろうね。天と魔の闘いが他種族を巻き込み世界は乱れた。やがて……たった一つの神の雷によって全て等しく滅ぼされだし……恐らく、この最古の神書に書かれている事実は真実だと思って間違いないさ」
長い金髪の髪を一つに紐で結わえると、青年は引き出しから古びた神書を取り出してページを開くと見せる。
「それが真実だとすると……今の世界が神の創り直した第二の世界……争い無き太平の世ユートピアになるのですね」
ページに描かれた数多の種族が手を取り合う絵を見て、銀髪の青年は紫色の瞳を輝かせて納得する。
「ふむ……神書の通りならばね……。だが、現時点で全てが証明された訳じゃない。世界各地にある迷宮が果たして天魔大戦の遺物なら……必ず迷宮に答えがあると言う訳だ」
金髪の青年は立ち上がると、神書をショルダーバッグに入れた。
「ならばこそ、我々研究者は真実を追い求める為に迷宮へ行くべきだと思うのだよ。……そう言う訳で、後の事は任せたよ……シュラウト」
爽やかな笑みを浮かべた金髪の青年は、無詠唱で転移魔法を発動させる。
金髪の青年の足元に、白い魔法陣が出現すると光輝く。
「えっ!?ちょっと!!アレクシス様ぁっ!?」
シュラウトと呼ばれた銀髪の青年が慌て叫ぶが……
金髪の青年はその場から一瞬で姿を消すのだった。