53 目覚めと旅支度
十数日後。
「ほら、ご所望の旅道具だ」
「ありがとう、ドル」
テツバイの町、モルドモールドにてアルバスとハクアは旅支度をしていた。
*
角落市での戦いの後、アルバスは気付いたらテツバイの町の宿屋のベッドで寝ていた。
ハクアが言うにはルビィがここまで運んできてくれたと言う。
礼を言わなければ、と思うのに、当のルビィはもう帰ってしまっていた。
礼は運んでくれた事だけには留まらない。
起きたアルバスが何よりも驚いたのが、ルビィの置き土産だった。
そこにあったのは角落市の会場に落ちていた数々の品々。
売れば相当な値打ちに成るそれらをルビィがわざわざ持って来て、ハクアに渡して去ってしまったのだ。
「売って生活の足しにしろ、だって、アルバス」
「困ったね」
妹が何を考えているのかアルバスには良く分からない。
嫌われていると思っていたのに、どういう事なのかと首を傾げるのが正直な所だ。
この場で考えようにも答えは出そうになく、アルバスは一度他の事を考えた。
近々の課題は目先の目的だった。
住んできた家は燃え落ちてしまった。アルバスにはもう帰る場所が無い。
当面はルビィの置き土産を売って生活するとして、その先が無かった。
どうしようか、と悩むアルバスはハクアの顔を見てふと思いつき、こう問うた。
「ハクア、一緒に旅に出ない?」
「……良いの?」
「うん。何だか旅に出たくなったんだ」
理由は分からない。けれども、おずおずとこちらを見るハクアの顔にこの言葉がスッと出て来た。
「目的地は決まって無いんだけどさ。何処か穏やかに暮らせる場所とかをさ、探そうよ」
「うん。うん。喜んで」
ハクアは何度も頷き、アルバスは笑った。
それからアルバスとハクアは直ぐに旅支度を始めた。
準備は大量にあった。
アルバスは旅をした事が無い。実際必要な物が何かという理解が浅かった。
だから、旅慣れているというハクアに連れられながらテツバイの町で必要な装備を探す毎日を過ごした。
そして、今日、ドルに仕立てを頼んでいた最後の旅道具が揃ったという報せが届いた。
すなわち、本日がアルバスとハクアの旅立ちの日なのである。




