表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/65

33 灰燼と調律

「どけっ」


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 炎を周囲に放ち、魔鳥を焼いてルビィは再び上方へと飛ぶ。

 ヒヒッ。その様にヴェルトルが引き攣り笑いながらこちらを見上げた。次は何をする気だ? とでも聞くような眼でルビィの行動を待っている。


「ちっ」


 舐められている。ルビィは舌打ちする。

 余裕な態度を貫く眼下の魔法使い。事実として彼我の差は明白。

 得意領域に敵を引きずり込む事。魔法戦の鉄則だ。ヴェルトル相手にそれができる程の技量が無い。

 史上最年少の大魔法使いと呼ばれても経験の浅さは事実としてのしかかる。


「だから何だ?」


 ルビィは三角帽子を被り直す。

 相性も最悪。彼我の差は明白。それが負けてやる理由には成らない。


「アタシの二つ名を教えてやる」


 二つ名。その者を代表する特別な魔法を行使する魔法使いへ与えられる俗称。

 空へルビィは杖を掲げ、自身の魔力を周囲へ放出した。

 ルビィの血に宿る魔力量は規格外。それらを全開で空へと放つ。

 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 ルビィの魔力が空を覆う。それらは空気中の魔素と溶け合い、激しい熱を持った。


「命じるは熱、至るのは炎、行き着く先は灰と燃えさし」


 通常であれば大気に放たれた魔力は魔素と溶け合いながら散っていく。

 しかし、ルビィの魔力はただの熱では終わらない。


「魔力集約、魔石顕現」


 無尽蔵とも言える勢いで注がれる魔力が魔素として散る前に魔石へと形を変える。

 これは一時的な世界改変に近い。魔力が魔素に溶けるという絶対の法則を無視している。


「へぇ」


 ヴェルトルが感嘆の声を出す。ちぐはぐな左右の顔の眼が小さく見開かれた。

 技術とは言えない。技能とさえ認められない力技。されど、魔力放出の一点で魔石を作り出す。

 それはまさに魔法だった。


「灰燼魔法シンデレラ」


 パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ。

 パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ。

 パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ。

 パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ。

 パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ。

 具現化したのは燃やし焦がれた魔石の灰。それが為した灼熱の雨。

 灰燼が空気を焼きながら大地へ墜ちていく。


「呑まれろ」


 熱という概念の顕現。


「キイィイイイイイイアアア!」

「キアアカアアアアアアアア!」

「キイイイイィィィィイイイ!」


 魔鳥達が大量の灰に呑まれ、刹那の間に焼け落ちて灰の雨と同化する。

 灰燼の大魔法使い。二つ名の由縁と成った魔法にして、ルビィを最年少大魔法使いへと押し上げた魔法だ。

 灰の動きに魔力は絡んでいない。純粋な重力による落下だ。

 迫る灰の雨にヴェルトルが強く笑った。


「ヒヒッ! これは操れねえなぁ!」


 ヴェルトルが杖を掲げ、その先が周囲を呑む程に光り輝いた。


「本当は取っておきたかったんだけどなぁ!」


 ルビィは調べた事がある。ヴェルトルの魔法。これが調律の魔法使いと呼ばれるように成った理由を。


「来るか」


 ホウキの上、ルビィもまた杖を構えた。


「この世界は為すがまま、この世界に在るがまま、この世界を意のままに!」


 ヴェルトルの杖が輝く。

 その光が魔鳥はおろか周囲の魔素へと注がれ、それらの魔力の在り方を無理矢理作り替える。

 あり得ない筈の事だった。魔力の波長は万物で違う。一つとして同じ物は無い。

 けれど、ヴェルトルの光を浴びた物は同じ魔力波長へと在り方が調律される。


「魔素集約、魔力変性!」


 周囲の全てを使ってヴェルトルが作り出す形態は魔力炉だ。

 調律された魔力の形は糸を模し、ヴェルトルの杖へと伸びていく。それらが束となってヴェルトルを包み込んだ。

 巨大な繭の様にルビィには見えた。見れば魔力の糸は大地に伸び、周囲の木々や空気から魔力を吸い上げていた。

 この魔法を知っている。魔法使いの可能性を進めたと言わしめた天才的な技術の証。


「調律魔法カンダタ!」


 自身の体内では無く、周囲の魔素をそのままに魔力へと変換する技術。

 ルビィの魔法とは違う、もう一つ極地。


「さぁてぇ、力比べだぁ」


 ヴェルトルの杖先に糸の魔力が一気に集まり、巨大な魔力球を形成された。

 ヴェルトルの意図は明白だ。魔弾を放ち、灰の雨ごとルビィを消し飛ばすつもりだ。


「良いよ。やってやるわ」


 ルビィもそれに習った。魔力量だけならば、すなわち力比べならばこちらの領分だ。

 灰の雨が空より迫り、光の糸が地上を覆う。

 二人の大魔法使い。魔弾が放たれたのは同時だった。


「「放て」」


 基本にして絶対。純粋な魔力勝負。

 互いの身の丈を数十は飲み込めるかと言った巨大な二つの魔力球が衝突し、数秒の拮抗の後、大爆発を引き越した。

 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!

 巨大な爆風。結果を分けたのは大魔法使い達が居た位置だった。

 大地側に居たヴェルトルは爆風に飛ばされ、地面へと叩き付けられる。

 対して、ルビィは大空に居た。爆風に吹き飛ばされた体を止める物は無い。

 ホウキの踏ん張りが効かない。魔力はまだある。だが、シンデレラの発動に集中力を使い過ぎたのだ。


「くそっ!」


 灼髪の魔法使いが空に落ちていく。その体は雲を抜け、狂鳴の森の遙か彼方へと吹き飛ばされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ