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30 狂乱と静寂



 ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 足を踏み入れた瞬間、世界が変わった。

 眼に映るのは大屋敷。耳に届くのは大歓声。


「結界魔法の要領で作ったのか?」


 外からでは一切気付けなかった。高度な認識阻害の魔法だ。


「ったくよぉ。ヴェルトルさんも人が悪いよな。会場の料理を食べちゃダメなんだってよ」

「!」


 声が聞こえた。アルバスは咄嗟に屋敷の壁に隠れる。壁の角から声が聞こえた方向を見ると、そこには黒服の魔法使いと鬼がドアの前で立っていた。


「しょうがねえよ。今回の角落市も世界中からVIPが来てるからな。あの料理はVIP様の物だ。俺達みたいな下っ端のもんじゃねえ」


「でもよぉ、結局あいつら少ししか食べねえじゃねえか。さっさとオークション会場に行っちまうしよ。なら、俺達下々にも分けてくれて良くないか?」

「諦めろ。この仕事が終わったらたんまりと報酬が貰えるんだ。それで良いじゃねえか」

「そうだけどよ、考えてみろよ? 上も勝手だぜ? 狂鳴の森で角落市をやるから、一月で会場を準備しろだなんて言いやがるしよ」

「ヴェルトルさんの希望だとアカガネさんは言ってたぜ。何でもこの森なら絶対に足が付かねえからだと」

「はぁ? あの人の考える事は分からねぇなぁ。いくら未折の魔隷角が目玉だからってこんな森のこんな奥でわざわざ普通オークションをやるのかよ」


 語りながら、黒服達が指差したのは大屋敷の向こう側。大歓声が響く一角だった。


「というかよ、一々、こんな見回りが必要か? ここには何十人も魔法使いが居るんだ。探索の魔法でも偶にかけりゃ一発じゃねぇか」

「それヴェルトルさんに言えるか?」

「でもよ、もう一回試してみるがよ」


 言いながら魔法使いが杖を出し、空へ掲げ「サーチ」と魔法を放った。

 瞬間、魔力の波が一帯に広がり、アルバスの体に触れる。


「ッ」


 突然で避ける事も出来ず、アルバスは息を呑む。


「……ほら、何にも引っ掛からない。わざわざ狂鳴の森なんて狂った場所を会場に選んだんだ。この場所まで来る魔法使いも鬼も居ないだろうよ」


 アルバスが今持っている魔法具はハクアの魔力が宿ったツノアカリだけ。そのツノアカリも魔素遮断紙で包んでいる。

 幸い探索魔法では見つからなかったらしい。

 どうやら一般的な魔力検知型の感知魔法を使った様だ。


「お前の気持ちも分かるぜ。でも、角落市もそろそろ終わりだ。予定通りなら後少しであの魔隷角が出品される。それまでの辛抱だ」

「!」


 魔隷角、ハクアの事だ。やはり彼女はこの会場の何処かに居るのだ。

 物陰に隠れながら、アルバスは魔素遮断紙からツノアカリを出す。光はますます強くなっていて、ある方向を指した時により強くなった。


「あっちか」


 角落市が今行われている場所は分かった。ハクアはまだ競り落とされていない事も。

 急がなければ。アルバスは出来るだけ足音を殺し、その場を離れ、ツノアカリの光が差す方向へ走り出す。

 余裕は無い。少しでも早く、ハクアの元に辿り着きたかった。




 ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 ツノアカリの光が指したのは大屋敷に隣接した大会館だった。一際大きな歓声で建物は揺れている。ここが角落市の場なのだろう。

 入口には黒服達が複数立っていて、その脇を身なりの良い者達が行き交っていた。

 ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 大歓声は一際大きくなった。中ではどうやら競りの真っ最中らしい。

 外からでは中の様子が分からなかった。入口を正面から突破するのは無理だ。

 会館は外から見たら三階建て。その上階には大窓がいくつもあった。

 アルバスは周囲を見渡し、ローブを開く。

 大量のポケットが着けられたドル特製のローブ。その中の一つから鉤縄を取り出した。


「あそこか」


 屋敷の屋根には出っ張りがあった。突貫工事だったのだろう。荒い仕事だ。

 ヒュンヒュンヒュンヒュン。

 狙った屋根の出っ張りへ鍵縄を投げ付ける。

 果たして望み通り、鉤縄は出っ張りに引っ掛かった。

 鉤縄を伝って屋根に上り、アルバスは体を伏せながら角落市の会場を見た。


「……見えた」


 幸い、上階の窓の一つが開いていて、中の様子が見えた。

 すり鉢を半分に割ったような構造をした会場の様だ。最も深い地点、すなわち、壇上に商品が置かれ、階段状の席に座った客達が我先にと競りをしている。

 手を挙げ、怒号を出し、客達は壇上の商品に熱狂していた。

 熱狂の渦の中、見た事も無い大きさの魔石だったり、複数の魔物をかけ合わせた様なキメラであったり、様々な商品が並べられていた。

 ビリビリとした狂乱がこちらにも伝わってくる。。今この瞬間にどれ程の金が動き、どれだけの欲望が買われているのだろう。

 まだそこにハクアの姿は無かった。

 アルバスは息を潜め、弓矢を持つ。

 ハクアは必ずあそこに現れる。

 チャンスは一度。勝ち目は薄い。だが、確率は零では無い。

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