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28 ホウキと記憶


***


 ヒュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 アルバスの顔に風が強く当たる。ホウキの上で感じる世界は想像よりも荒々しい。


「アルバス、ツノアカリは何処を指してる?」

「まだ、もう少し先。少しぐるりと周囲を飛んでみて」

「ちっ。面倒くさいな」


 眼下を見る。黒緑の葉が全てを隠していた。

 空から見た狂鳴の森は視界いっぱいに広がっている。ここの何処かにハクアは居るのだ。

 アルバスは焦っていた。ツノアカリの僅かな光だけが頼りだ。

 ルビィに頼み、ホウキを飛ばし続け、少しずつツノアカリの光も強くなっている。

 きっと、ハクアには近づいている。しかし、角落市の会場は未だ空から見つからない。


「……アルバス、何も見えないわ。角落市でしょ? なら、でかい会場の筈よ。そんなの何処にも無い。本当にあるの?」

「ツノアカリは光ってる。この先にハクアが居る筈なんだ」

「ちっ」


 眼下の黒緑の森には目に見えた変化が無い。

 けれど、ツノアカリの光はルビィのホウキが飛ぶ程、確かに強くなっているのだ。

 ツノアカリの光だけが頼りで、これを信じるしか無かった。

 既に日は傾き始めている。ヴェルトルの言葉を鵜呑みにするのであれば、今日が角落市だ。


「その魔隷角は目玉なんだろ。なら出品は最後でしょうよ」


 焦るアルバスに苛立ったのだろう。ホウキを操るルビィが吐き捨てる様に言った。

 もう日は落ち始めているが、まだ日は落ちていない。ルビィの言う通り、ハクアがまだ無事だと信じるしか無かった。

 ヒュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ。ツノアカリの光を頼りにアルバスは狂鳴の森を見下ろした。

 続いて確信する。やはり、狂鳴の森はおかしくなっていた。


「……静かだ」

「あ? 何が?」

「やっぱりおかしい。森が気味悪いくらいに静かだ」


 空から見ているから地上にいる時とは感じ方が違うのかとも思った。

 しかし、やはりおかしかった。狂鳴の森の黒緑の葉がほとんど動いていないのだ。

 いつもならば何処かで必ず魔物同士の殺し合いが起きている筈だ。その狂った鳴き声が響くから狂鳴の森なのだ。

 大なり小なり殺し合いは激しい。木々は揺れ、木の葉が舞う。

 その狂気が眼下の森から感じられなかった。


「……面倒ね。アルバス、ホウキにちゃんと掴まれ。一気に森の奥へ飛んでやるから」

「分かった」


 ルビィの言葉通り、アルバスが左手でホウキの柄を強く掴む。

 瞬間、世界は更に加速した。

 ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 風が明確な圧力と成って襲ってくる。先程までの飛行は手加減していたのだ。眼の水分が風に攫われ、何度もアルバスは瞬きをした。


「光が強くなっている。そのまま進んでっ」

「うるさい。アタシに指図しないで」


 ルビィの二房の灼髪も風を浴びて激しく揺れていた。

 そう言えば、とアルバスは思い出した。

 サングイスの家を出る前、ルビィの髪を結わえていたのはアルバスだった。

 遠い記憶にしか居ない幼い妹の姿が脳裏を過ぎる。

 髪を結ってと良くねだってきた。

 絵本を読んでとせがんできた。

 魔法が使えなくて、一族を失望させたアルバス。そんな自分の代わりに今度こそと生まれ、一族の期待を叶えたルビィ。

 一族を歓喜させ、母を絶望させた幼き妹は何故だか良く自分に絡んできたのだ。

 懐かしいとは思わない。そう思えない程に遠い記憶を、二房の赤い髪に思い出す。

 その直後だった。


「掴まれアルバス!」


 ルビィの声と共にホウキが急激に旋回した。

 発生する強烈な遠心力。振り落とされるかもしれないという本能的恐怖。アルバスはルビィの背に強く掴まった。

 何が起こったのかという疑問の答えはすぐに現れた。


「「「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」」」

「何よ急に!」


 現れたのは魔鳥の一団。

 それらが矢の様に狂鳴の森から飛び上がってきたのだ。

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