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16 魔法具と忠告


 カランカラン。薄暗い店内の棚には多くの魔力装飾品があった。

 勘定場の魔法使いの女がアルバスを見るが、何も言わない。

 杖無しが魔法具を見て良い顔をする店主は少ない。追い出される前に一通りの品物をアルバスは見ていく事にした。

 どうにか魔法が使える様になりそうな魔法具は無いか。もしくは、魔力を貯められるようになりそうな魔法具は。

 店には試して意味の無かった物と試した事の無い物がいくつも置いてある。

 曰く、体内での魔力循環を活性化させる腕輪であったり、鬼の魔力集約を活発化させるイヤリングであったり、と様々だ。目についた物を一つ一つアルバスは触っていく。

 けれど、そのどれも無反応だった。血に魔力が宿る魔法使いならば、大なり小なり触っただけで魔法具は反応する筈である。

 この店にもアルバスが魔法を使えるように成りそうな道具は置いていない様だ。


「ま、そうだよね」


 落胆するだけだ。そう簡単に使えそうな魔法具が見つかるならば苦労は無い。

 見ていく棚が七つか八つを超えた頃、アルバスは一つの魔法具の前で立ち止まった。


「珍しい。ツノアカリだ」


 白と黒の魔石で作られた三角錐の様な形の装飾具だった。

 ツノアカリ。鬼の角へ被せるように装着する魔法具である。鬼の、それも、一般的には女性が身に着ける品だ。

 角に流れる魔力を浴びて発光するだけの装飾具。王都に居た頃、遠目に一度だけ鬼の少女が着けていたのを見た事がある。ほのかに光るツノアカリが綺麗で、それを着けた鬼の少女がとても嬉しそうに笑っていた。

 これは鬼のための装飾具で、アルバス達魔法使いには無用の品で、この様な田舎町の鬼が着けるような品物でも無い。

 数は一つ、銀貨は三枚。決して安物ではない。

 これを着けたハクアの姿がアルバスの脳裏に過った。


「……」


 アルバスはツノアカリを手に取る。

 魔法使いでも触れば発光する筈だが、ピクリとも光らない。だが、もしもハクアが着けたらどの様にこれは光るのだろう。

 何故だか恥ずかしい。もう恥など忘れた気がしたのに、頬が熱くて堪らなかった。

 熱くなりそうな頬を無視して、アルバスは勘定場へ歩く。その姿を店主である魔法使いの女がジッと見ていた。


「これを一つ」


 ツノアカリと共に銀貨を出す。勘定場の魔法使いが杖を振るって硬貨の真贋を調べた後、銀貨をしまった。


「ありがとう」


 アルバスはツノアカリを懐に入れ、足早に店を出ようとする。

 その背に向かって勘定場の魔法使いが声を掛けた。


「……あんた、杖無しアルバスかい?」


 見た目に反してしゃがれた声へアルバスは振り返る。勘定場の魔法使いはジッとこちらを見たままだった。


「……お姉さんと会うのは初めてな筈だけど」

「あんたの顔は知らないさ。でも、この町に居て、持ってもツノアカリが光らない魔法使いなんて杖無しアルバス以外に居ないだろ」


 杖無しアルバス。不名誉なアルバスの二つ名。テツバイの町に広く伝わっている。勘定場の魔法使いも例外では無かったようだ。


「なるほど、噂は本当だったみたいだね」

「何の話?」


 嫌な予感がした。例えば、狂鳴の森での帰り道に魔物の群れに遭遇した時の様な。

 往々にして嫌な予感ほど良く当たるのだ。


「あんた、鬼の女の子を匿ってるだろ?」


 確信を持った言葉の響きで、アルバスが目を見開く。

 噂とは何か? その噂とはハクアの事を刺しているのか? では、何故、それが噂に成っている?

 疑問が浮かび、アルバスの肌が粟立った。


「外には出ない方が良い。荒くれ者があんたを捕まえようとしてるからね」


 ピクリ。アルバスは足音を消し、ドアの隙間から外を見る。夜の路地の奥、何人かの魔法使いと鬼達が居て、それらは杖や武器を持ち、こちらを見ていた。


「……どういう事?」


 背筋が冷たくなっていく。いくら馬鹿にされているとはいえ、荒くれ者達に狙われる様な生き方はしてこなかった筈だ。


「あんたは賞金首さ。狂鳴の森から逃げた白角の鬼を見つけるために大魔法使いヴェルトルがあんたを探しているからね」


 勘定場の魔法使いが語る。

 曰く、数日前に大魔法使いヴェルトルが黒服を連れてテツバイの町に来た。

 曰く、ヴェルトルは狂鳴の森から逃げた白い角を持つ鬼の少女を探している。

 曰く、ある魔法使いが狂鳴の森にアルバスが一人住んでいる事をヴェルトルに伝えた。

 曰く、ヴェルトルがアルバスを連れて来た者には賞金を出すと町の荒くれ者へ伝えた。


「その日の内にあんたがこの町に来るとは思わなかったけれどね」


 面白そうに勘定場の魔法使いが笑う姿に、アルバスの眼が震えた。

 ヴェルトル、調律の魔法使い。その名前をアルバスは良く知っている。魔法の可能性を一段階押し進めた偉大なる大魔法使い、そして、ある時を境に角落一座へ身を落とした堕落の魔法使いである。


「……ヴェルトルが今この町に?」

「いんや、すぐに狂鳴の森に戻ったよ。人が居る、そこに住める場所があるのなら探し出せると言っていたらしいさ」


 アルバスの全身が強張った。何をするのかは分からない。だが、ヴェルトルはアルバスの家を探し出すと言ったのだ。

 そこには今ハクアが居て、彼女にアルバスは家から出ないように言ってしまった。


「裏口がある。そこから逃げな。できるだけ息を殺してね」


 勘定場の魔法使いが杖を向け、奥の扉を開ける。そこは確かに裏路地に繋がっていて、今は誰も居なかった。


「ありがとうっ」


 言うや否やアルバスは飛び出し、矢の様に走り出す。向かうのは町の外、狂鳴の森、アルバスの家、ハクアの元だ。

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