15 魔石と鑑定
カランカラン!
「らっしゃーい。店仕舞い直前のモルドモールドに一体誰が……って杖無し、お前か。しばらく来ないから死んだのかと思ったぜ」
「やあ、ドル、久しぶり。生憎としぶとくてね。ドルは今日もここに籠ってるの? 少しは外に出ないと体に悪いよ」
「町の奴とは話が合わん。ここで道具でも作ってた方がマシだ」
目的の雑貨商店、モルドモールドの店主、ドルは髭ダルマの鬼だった。昔は名のある戦士だったらしく、傷が付いた肌が物々しい。
人混みが嫌いで、だけれど、人が作った道具の事を愛している鬼はこの町で数少ないアルバスとまともに会話をしてくれる相手だった。
パンパンに膨らんだリュックをアルバスは買い取り机に置いた。
「買取りをお願い。中身は魔石に薬草とか、いつもの奴だよ」
「閉店直前にこんな大量に持ってきやがって。鑑定は明日で良いか?」
「今日中に頼むよ。できれば明日は朝一で帰りたいんだ。魔石を普段から持って来てるんだからそれくらいは融通して欲しいな」
「杖無しが言うじゃねえか」
顎髭を触りながらドルがリュックから採取物を買い取り机に並べていく。
言葉だけは面倒くさそうだったが、その手つきには淀みない。
ドルの鑑定はいつも早い。アルバスが肩を伸ばしている間には終わってしまった。
「……金貨一枚に銀貨三十枚でどうだ」
「え? そんなに? 確かに魔石はいっぱい持って来たけど。いつもの三倍以上じゃないか」
「質が良い。どれもこれも一級品だ。特にこの魔石が良いな」
ドルが持った魔石はアルバスがハクアを拾った日に魔狼の死体からはぎ取った物だ。
「これは良い杖の装飾に成るぞ。どうだ? この値段で売るか売らないのか?」
「……オーケー、その値段で合意しよう。よろしく頼むよ。あと、銀貨二十枚で買えるだけの矢を貰えるかな」
「了解だ」
売買の契約を合意し、慣例に習ってアルバスは杖を掲げ、ドルは自身の角を叩いた。
「ほら、確認しろ」
「ありがとう。いつも通りだけど確認させてもらうよ」
麻袋に詰められた金貨と銀貨、布で包まれた矢を受け取り、アルバスはドルの前で一枚一枚硬貨を確認する。
「お前が鑑定魔法を使えたら楽なんだがな」
「ごめんね。いつかは覚えたいんだけどね」
魔法書によると贋金かどうかを判定魔法があるらしい。商売を生業とする魔法使いならば必須の魔法だとも書かれていた。
けれど、アルバスにはそれが無い。本質的には金を払ったドルを信用し、自分の感覚を信頼するしかなかった。
一枚一枚、重さ、色、音に至るまで試し、結果一枚として疑わしき物は無い。ドルを疑っていた訳では無い。それどころか目の前で硬貨が贋金ではないかを鑑定しろと言ったのも、鑑定法を教えたのもドルだった。
「ありがとね、ドル。また来るよ」
「あいよ。じゃあな杖無し。今回みたいなブツだったらいつでも歓迎してやる」
モルドモールドを出て、アルバスの顔に笑みが浮かぶ。予想よりも大分儲かった。上手くやり繰りすれば二つか三つの季節を超えられる。
ともすれば、新しい杖が買えるかもしれない。
夕陽は落ち、夜が訪れた。だが、眠りまではまだ時間がある。
アルバスはモルドモールドの向かいに魔法具専門店を見た。
「あんな店、前に来た時には無かった筈」
新しくテツバイの町に居着いた魔法使いが開いた店かもしれない。
魔法具店とは珍しい。しかも、まだ営業しているらしい。
「少しだけ、見てみようかな」
もしかしたらアルバスが見た事の無い様な魔法具があるかもしれない。
僅かに期待して、アルバスはその魔法具店の扉を開いた。




