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第8話 りっちゃんとなっちゃん

「その女の人、誰?」


 咎めるような視線に驚いてしまう。

 梨沙姉はいつも明るくて、優しくて、綺麗で……。


 今だってTシャツにショートパンツというラフな格好だけど、スタイルがいいから、もう、それだけでかっこよくて。


 コンビニに買い物にでも行ってたのだろうか。買い物袋を手に下げた、そんな生活感丸出しの姿でさえ、立ち姿が美しい。


 それなのに……視線が怖い。


「え、ええと、彼女はクラスメートで……」


 しどろもどろになって説明しようとしたら、すっと夏月が前に出た。


「お久しぶり、りっちゃん」


「?」


 突然の呼びかけに、俺の方が戸惑ってしまう。

 梨沙姉もいぶかしそうにしていたが、何かを思いついたかのように目が丸くなった。


「なっちゃん?」


 その呼びかけに夏月が頷くと、表情をぱぁっと明るくして、彼女のもとに駆け寄っていた。

 そのまま手を取ると、嬉しそうに呼びかける。


「うわあ、久しぶり! こっちの方に来てたんだ!」


「うん、もうだいぶ前からだけどね。りっちゃんは?」


「私は1年前から。パパと一緒にアメリカから帰ってきて」


「……ええと、二人は知り合いだったっけ?」


 もうすっかり昔なじみのように話している二人に、戸惑いながら尋ねると、ジトッとした目を向けられた。


「何言ってるの、高科君の家でよく遊んでたじゃない」


「そうだぞ。了君、覚えてないの?」


 ……いや、梨沙姉も最初忘れてたよね。


 しかし、一緒に遊んでた? そう言えば確かに夏月が家に遊びに来るようになったのが小4始めのころで、梨沙姉が引っ越していったのが、小4終わりのころで……。


 言われてみれば、確かに3人で遊んだことがあるような……。


「それにしてもおんなじ高校に通うようになるなんて偶然だね!」


「別に偶然でも何でもないよ、りっちゃん」


 久しぶりの再会を偶然と喜ぶ梨沙姉に、夏月は冷静に指摘する。


「りっちゃんのお父さんと、私のお父さんは同じ会社なんだもん。こういうことがあってもおかしくないよね」


 そうか。剛叔父さんは大手の自動車会社に勤めてる。夏月のお父さんもそうなのか。その会社は東京とここの2か所に本社があるって体制だから、二人とも本社勤務で近くになるのはおかしくもなんともないのか。


「そうかあー。……それで、二人は何してたの?」


「同じクラスになったから一緒に帰ってきただけ。私、電車通学で駅までの通り道だし」


「へえ、おんなじクラス……」


 ──さっきまで和やかに話してたのに、なんかまた、二人の間に火花が飛び散り始めたような。


 駅に向かうという夏月と、その場で別れたけど、別れの瞬間まで二人とも笑顔だったのに、目が笑っていなかったように思えるのは気のせいだよね……。



 ❖ ❖ ❖



 ポチャン、と水滴が天井から湯面に落ちた。

 湯船に長々と横たわりながら、ため息を漏らす。


「高科君、かっこよくなってたなあ……」


 小学生のころからかっこいい子だったけど、成長して男らしさが加わって。

 少し自信なさげに俯いていたのは気になったけど、これまでの経緯を知っていれば、それも仕方ないかなと思う。

 これからは、私が彼の笑顔を取り戻してあげるんだ。


 ……でも。

 彼はりっちゃんと一緒に住んでいるらしい。

 もの凄い美人になって、スタイル良くて、何より……


「あのおっぱいは反則でしょーっ!」


 叫んでしまった。


 体にぴっちりしたTシャツの布地をギュウギュウに押し上げていた胸を思い出す。最低でもEカップ。もしかしたらFカップかも知れない。それにショートパンツで惜しげも無く、すらりとした長い生脚をさらけ出して……あんなの、歩く猥褻物じゃない!


 それに、4月とは言え、外出するには薄着過ぎたから、あれはたぶん部屋着だ。住んでるタワーマンションの1階にあるコンビニに行くために部屋着のまま出てきたのだろう。


 つまり、部屋ではあんな薄着で過ごしていると言うことだ。


 ……ダメでしょ。思春期の高科君の理性が耐えられないじゃない。


 湯船に沈む自分の身体を眺める。


 小さくは……無い。日本人の平均サイズだ。

 同級生の女の子たちには、スタイルいいって言われてた。

 私だって捨てたものじゃ無い……はず。


 でも、比較対象が規格外すぎて、まるで勝ち筋が見えない。


「ううう、どうしたらいいんだろう……」


 湯船にブクブクと沈みながら、考え込んでしまうのだった。



 ❖ ❖ ❖



 ポチャン、と水滴が天井から湯面に落ちた。

 湯船に長々と横たわりながら、ため息を漏らす。


「了君は、あんな清楚な知的美人が好きなのかなあ……」


 最初は忘れてたけど、なっちゃんだというのはすぐ気づいた。


 了君が4年生だった時に、よく遊びに来るようになった子。

 了君と並んでノートをのぞき込んで、自作の詩とかを一緒に読んでいたっけ。


 何より了君がきらきらと彼女を見つめていた瞳が忘れられない。

 その度に、チクリと胸に刺す痛みがあった。


 了君には私だけを見ていてほしかったのに……。


 彼女がこちらに引っ越してきていたというのは想定外だった。

 しかも了君と同じ高校で、同じクラスになるなんて。

 入学初日から一緒に下校するなんて距離の詰め方しているし、絶対、彼女も了君を狙っているに違いない。


 ……勝てるだろうか。

 長い黒髪は濡れたように艶やかで、瞳には知性の煌めきがあった。

 スラリとしたスタイルも、好きだという男の子も多いだろう。


「ううう、どうしたらいいんだろう……」


 湯船に沈み込みながら考える。


 そもそもライバルはなっちゃんだけじゃ無い。

 かっこよくなった了君には、女の子がいっぱい寄ってくるに違いない。

 その中から選んでもらえるよう、もっと積極的にアピールしないと。


「よし、決めた!」


 明日からもっと頑張ろう。了君は絶対に渡さないんだから!


次回は11月1日(金)20:00頃更新。

第9話「この変態どもめ!」。お楽しみに。

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