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第42話 硬いのは笑顔だけじゃ無い

「うおーっ、ヤバい」


 頭を抱える。まさかこんな落とし穴があるとは……


「燕尾服が手に入らねえ」






 先日のホームルームで、クラスの出し物は「執事&メイド喫茶」に決まった。そこまでは良かった。


 その後、準備のために役割分担を行うことになり、言い出しっぺの俺は当然、執事として接客担当である。


 ただ、当日まで仕事が免除されるなどと言うことは無く、衣装係と連携して、当日の衣装の用意をすることになったのだ。


 執事&メイド喫茶なのだから、当然用意するのはメイド服と執事用の燕尾服。このうち、メイド服は何とかなった。


 何しろ、メイド喫茶は人気の出し物なので、これまでも数多やられており、その際使ったメイド服のストックがかなりあったのだ。


 俺達のクラスの他にもメイド喫茶をすることになったクラスが複数あったが、いろいろ交渉の結果、必要数は確保できた。


 余談ではあるが、梨沙姉のクラスもメイド喫茶をやるらしい。メイド服姿の梨沙姉を目当てに、男どもが殺到するんじゃ無いかと今から心配だが、とりあえず今はそれは置いておこう。


 問題は燕尾服だ。


 執事喫茶はメイド喫茶ほど人気がある出し物では無いらしく、予備のストックは全く無かった。


 そこで、演劇部に掛け合って見たのだが、当日上演する劇に使うから貸し出しは出来ないと、けんもほろろに断られてしまう。


 それならと、手芸部に制作をお願いできないかと頼みに行ったが、既に演劇部をはじめとした他の衣装作成で手一杯と、こちらもけんもほろろである。


 手芸部の先輩曰く、「特殊な衣装が必要な出し物をやるんだったら、夏休み前から準備しなきゃ駄目じゃない」とのこと。


 うむ、一つノウハウを積んだぞ。来年には活かせるだろう。でも、今年はどうにもならない。


 では、と、クラスの衣装係に「燕尾服の製作できる?」と聞いてみたが、全員ブンブンと首を横に振っていた。


 最後の手段と、レンタル衣装のサイトを見てみたが、燕尾服1着、二泊三日で3万くらいする。必要数を揃えるとなると、20万近くなって完全に予算オーバーだ。


「うおーっ、どうすりゃいいんだあ!」


 衣装係のメンバーを前に頭を抱える。


「親の持ってるのを借りるってのはどうですかね?」


「いや、燕尾服なんて持ってる人そうそういないだろ」


「だよなあ。タキシードだって持ってる人少なそうだし」


 そうなのだ。冠婚葬祭用の礼服ならともかく、流石に燕尾服となると持っている人の方が少ないだろう。


 それに、家族から借りる場合、俺には別の問題が。


 俺の父親は遠く海外だから、借りるとしたら梨沙姉のお父さんの剛さんからということになるが、剛さんとは体格差がかなりある。


 俺も身長179㎝あって、決して背が低い方では無い。でも、剛さんは日米ハーフで、190㎝近くある。


 大会社の役員だから、燕尾服と言わないまでもタキシードくらいは持ってそうだが、そもそもサイズが合わないのだ。


「となると、後は制服を改造ですかね?」


「制服を?」


「そう、一応、群雲高校の制服はブレザーでしょ。だから襟にビロードを貼り付けてタキシード風にするとか」


 なるほど、それはありかも知れない。

 ただ、どうしても安っぽさは拭えないし、元に戻すのも手間だ。


 結局、制服改造は最後の手段にすることにして、その日は各自アイディアを考えてくることだけ決め、解散となった。





 そう言うことで、家に帰って来てリビングで頭を抱えて唸っている。


「うーん」

「うーん」


 目の前には、俺同様、頭を抱えている人が一人。


「何悩んでるの、梨沙姉?」


「うう、メイド服が無い」


「へ?」


 何かと思えばメイド服が無いと言う。しかし、メイド服はそれなりにストックがあったはず。


「私のサイズに合う服が無いの」


「サイズ?」


 そう言われて、思わず一点を凝視してしまう。いや、二点か。


 その視線に気づいたのか、梨沙姉がバッと手で胸を覆って真っ赤になった。頬を小さく膨らませて「むうう」と睨んで来る。でも全然怖くない。いや、むしろ可愛い。


 そう言や、この胸を揉んじゃったんだよなあ。梨沙姉のおっぱい柔らかかったなあ……って、違う違う!


 気恥ずかしさを誤魔化すかのように、梨沙姉はゴホンと咳払いすると話し始めた。


「そうじゃ無くてね。身長」


「あー」


 梨沙姉は剛さん譲りで身長が高い。170㎝ある。そうするとサイズが合う服はそうそうあるまい。


「サイズが合うのは男の人用だけだったの」


「は?」


 メイド服なのに男用?


「何年か前に『女装メイド喫茶』とかやったクラスがあったみたいなのよね。女装した男子がメイドに扮する奴」


 ううむ、どんな地獄絵図が展開されたのか。想像したくもない。


「ただ、男の人用でしょ。着丈は良くても胴回りとかぶかぶかで全然可愛くないのよね」


 まあ確かにそうだろう。詰めるにしても限度があるよな。


「で、了君の方は何悩んでるの?」


「俺も同じようなもんだよ。燕尾服が無いの。6着はいるんだけど」


 お互い、はぁ~とため息を漏らしてテーブルに突っ伏してしまった。


「あら、そんなことならなんとかなるかもしれないよ」


 そこに響く声。見ると、キッチンから沙耶香さんがこちらを覗いている。こちらの話が聞こえていたらしい。


「なんとかってどうするんですか?」


 藁にも縋る気持ちで問うた俺に、沙耶香さんはニッコリと微笑んだ。


「じゃあ、まず二人写真撮らないとね」


「は?」


 意味が分からない。写真? 何故?

 戸惑う俺を尻目に、沙耶香さんはスマホを向けると、次々と指示を出し始めた。


「はい、それじゃ梨沙、了君の隣に座って……そうそう、もっと近寄って、もっと。はい、ニッコリ笑って。うーん、硬いな。もっと近寄って、ギュっと」


 ええと、沙耶香さん。何やらせるんですか?


 俺と梨沙姉の距離はもうゼロ。梨沙姉が俺の腕をギュっと抱きしめてる。腕に柔らかいものが当たってるんだけど。


 思わず、あの夜のことを思い出してしまう。


「了君、笑顔が硬いよ。もっと自然に笑えない?」


 そんなこと言われても……ダメだ、気づかれちゃいけない。硬くなってるのは笑顔だけじゃ無いことに。


 四苦八苦しながら写真を撮り終え、沙耶香さんはそれをどこかに送っているようだ。


 いったい何だったんだろう?


 不思議に思っていたが、10分後くらいに、沙耶香さんのスマホがポンッと鳴った。


 画面を見た沙耶香さんはニヤリと笑う。


「梨沙、了君、OKだって」


 いきなりOKとか言われても何が何だかよくわからない。だけど、沙耶香さんはそんな俺達に微笑むと告げた。


「と言うことで、あなた達、今度の週末、東京に行ってきなさい!」


次回、東京に行った二人は──

4月15日(火)20:00頃更新。

第43話「俺だけの君でいて」。お楽しみに。

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