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第20話 二人三脚は誰の手に

「はいはーい、おしゃべりしてないで、こっち向いてねー」


 神崎さんの元気な声が響き渡るが、私語が止む気配は無い。


 教室には弛緩した空気。

 それも仕方ないかもしれない。

 何しろ昨日、中間テストが終わったばかり。


 結果がわかるのは来週だが、みんなの表情には「終わったー」という空気がありありと浮かんでいた。


 きょう午前中は採点と関係ない科目の授業があり、午後はロングホームルーム。

 来週末に迫った体育祭の参加競技を決める話し合いなのである。


 体育祭では各学年8組を4つに分ける。

 1組2組が赤チーム、3組4組が白チーム、5組6組が青チーム、7組8組が緑チームという具合である。


 そう言う訳で、今日のホームルームには俺達のクラスだけでは無く、1組の生徒も参加している。

 教室は広めの視聴覚教室が割り当てられ、そこで合同で実施しているのだ。


 競技参加にはルールがある。


 まず、二組合同チームだが、どちらか一方のクラスからしか選手が出ないと言うのは許されない。例えば4人競技があったとして、1組3人で2組1人は許されるが、1組4人で2組0人という組み合わせは不可となる。


 他にも、各人2競技以上に参加することが義務だが、特定の個人に集中するのを防止する観点から、参加できるのは一人4競技まで。もちろん、全員参加の競技はカウントから除かれる。


 そう言うことで、俺は事前予告通りの男女混合800メートルリレーにプラスして400メートル走への参加が決まった。と言うより、殆ど神崎さんの進行の下、有無を言わせず決まっていた。


 ちなみに拓海はリレーと100メートル走。陸上部と当たらなければ、1位はほぼ決まったようなもんだな。





 さて、ガチ目の競技はあらかた参加者が決まったところで、今はどちらかと言うとお遊び系競技。


 障害物競走とか、二人三脚とか、借り物競争みたいな奴である。

 なお、昔は騎馬戦とか、男子が女子を背負って走る競技とかもあったらしいが、今は危ないとか、セクハラだとかの理由で廃止になっている。一部男子が血涙を流していた。


 まあ、俺はノルマである2競技参加が決まってるし、後は適当に眺めてようと、さっさと傍観を決め込む。


 ボーッと眺める視線の先では神崎さんが1組の体育祭委員の男子と共に司会をしている。それを夏月ともう一人がクラス委員長として補佐している格好。


 今の議題は借り物競争だった。


「ねーねー、借り物競争のお題に『好きな人』とかあるんですかー?」


 参加者を募る司会の声とは裏腹に、周りからは興味本位の質問が飛ぶ。だが、夏月に容赦なく叩き落とされていた。


「ある訳無いでしょ、そんなお題。公衆の面前で告白しろって言ってるのと同じじゃ無い」


 いや、確かにそうだよな。公認カップルみたいな人がいるならともかく、告白できずに心の内に秘めてる人に「好きな人を連れて来い」とかなったら、そりゃ思い切りセクハラだ。


 でも、ラブコメ漫画とかだと定番なんだよな。クラス一の美少女に「借り物はあなたです」とか言われてついて行ったら、ゴールでお題が「好きな人」とか明かされる奴。


 ──ベタベタだけど好きな展開。

 まあ、「お話と現実をごっちゃにしちゃいけませんなあ」案件なんだろうけど。


 続いている夏月の説明を聞くとは無しに聞いていると、お題は体育祭のテーマに関連したものになるだろうと言うことだ。


 今年の体育祭のテーマは「全員が主人公(ヒーロー/ヒロイン)!」。応援合戦も、戦隊ものだか仮面ヒーローものだかのコスプレをして行うらしい。


 なんか暑苦しいテーマだな、と、恐らくはそのテーマに決めたであろう暑苦しい生徒会長の顔を思い浮かべる。いや、そんな全員が全員、主人公ムーブできるわけも無いし。そんなのは生徒会長か拓海にでも任せよう。





 さて、借り物競争の参加者が決まり、次は二人三脚。

 女子と密着できる競技だから、男子がいっぱい希望するかと思いきや、意外と参加希望が出て来ない。


「誰か参加希望いない?」


 神崎さんが見回すが、誰も手を挙げずに、顔を見合わせている。


「だって、なあ……」


 その視線の先にあるのは、女子の警戒する視線。うん、立候補した途端に「スケベ」のレッテルを張られそうだと思えば、誰も手を挙げられないよな。良くわかるよ、その気持ち。


「ホントにいないの?」


 神崎さんが再度確認するが、誰も手を挙げない。

 すると、業を煮やしたのか、神崎さんが俺の方を見た。かと思うと、とんでもないことを言い出す。


「高科君、二人三脚出なさい!」

「え?」


 どういうこと?


「ちょ、ちょっと待って」


「異論は認めないから。はい、男子一人目は高科君ね。じゃあ、女子、希望者いる?」

「「「「「はい!」」」」」


 バババッと10人近いの女子の手が挙がった。何だよ、これ?

 と言うか、夏月まで手を挙げてるじゃねえか。いいのか? お前、司会だろ。


 その後、女子が複数手を挙げたことによって心理的ハードルが下がったのか、男子も数人手を挙げた。参加チームは2チーム。つまり男女二人ずつを選ばないといけない。参加者決定は抽選と言うことになった。だが──


「高科君は抽選に参加しないでいいから」

「え?」


「高科君の参加はもう決まってるから」


 神崎さんに宣告され、戸惑ってしまう。


「いや、だって平等に決めないとダメだろ。て言うか、男子も参加希望が複数いるんだから、俺、降りてもいいんじゃない?」

「「「「「ダメ!」」」」」


 抽選に参加する女子全員に却下されてしまった。

 いや、夏月、お前まで同調するなよ。


 仕方が無いので、当たりの番号札1番だけもらって結果を待つ。もう一つある1番の番号札を引いた女子とペアを組むと言うことだ。


 もう悟りの境地で目の前で繰り広げられてる抽選を眺める。


「ああー」とか「外れたー」とか落胆している女子。いや、2番の番号札を引いた女子まで「外れた」とか言ってるのはどうなんですかね。


 そんな中、「やったぁっ!」という聞きなれた声が響く。目の前では夏月が1番の番号札を高々とかざしてガッツポーズをしていた。


「よろしくね、高科君!」


「ああ、こちらこそよろしく」


 まあいいか。夏月となら気心が知れてるし、大丈夫だろう。

 こうして来週に迫った体育祭の準備が始まったのだった。


次回は1月17日(金)20:00頃更新。

第21話「パ〇ツじゃ無いから恥ずかしくないもん」。お楽しみに。

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