短編小説「売れない路上ミュージシャン」
「いつまでも追ってたいよー、メジャーデビュ~♪ どんなに追い求めても手が届かない~♪
悲しいよ~♪ 世の中は、マジで不公平~♪ 反吐が出そうだよ~♪ やってらんねーよ~♪」
アコースティックギターとピンマイクを装備した1人の青年ショーマ。彼は駅前の広場にてオリジナルソングを披露していた。家路につく制服姿の学生やサラリーマンの人らに向かって、今日も懲りずに彼はある意味ストレートな歌詞をぶつけ続けている。
「クソお。なんでなんだよ! 俺、誰よりもパッション全開で歌を披露してんのに。今日も誰も聞き入ってくれねえ。畜生、ド畜生!」
しかしそんな彼は絶望的に歌のセンスがないのか、誰も彼に見向きもしなかった。こんな誰の目から見ても才能なしと言える彼。しかしそんな状況にも関わらず、彼は今日まで全く懲りずに、大衆の前で歌を披露し続けていた。それもかれこれ3年ぐらいずっとこのような調子だ。例えどんなに逆風でもメジャーデビューを諦めない精神だけは、称賛に値すると言える。
話は変わり、ここ最近のこと。ショーマと同じく売れない路上ミュージシャン仲間である拓郎君から彼はあるアドバイスを受けていた。
「ショーマよ。お前リアルで演奏しても誰も聞いてくれねえじゃん。ぶっちゃけ下手クソじゃん?」
「失礼な。俺の歌が聞くに値しないだと!」
「別にそこまでは言ってない」
拓郎君から至極真っ当なアドバイスを受けて、怒りを露わにするショーマ。
続けざまショーマは自身の思いの丈をぶつけ始めた。
「世の中、本当に狂ってる! 俺の魂のこもった歌が誰の心にも響かないなんて。時代が追いついてねーな、俺様に!」
「そんな御託はどうでもいい。とにかくお前、この際、思い切って動画配信始めてみろや」
ショーマの熱意とは裏腹に、淡々と話を続ける拓郎君。
「動画配信?」
「俺も最近初めてみたんだが、とにかく動画のコメント欄が中々辛辣でな。でもその分、寄せられるコメントのおかげで俺の演奏レベルが客観的に判断できるようになってきたんだ」
「ほほう、そうなんだ」
「だからお前も、反吐が出るとか、世の中やってらんねえとかばっか歌ってないで、一遍、配信で弾き語りライブをやってみたらどうだ?
きっとお前の動画のコメント欄は地獄絵図になるはずだ。その大量に寄せられるアンチコメントを参考に、演奏スキルの向上を図っていけばいいと思うぞ」
「わかった! やってみる! 俺の魂のこもった歌で、動画界隈を震撼させてやる! そうして一躍有名になってメジャーデビューを勝ち取ってみせるぜ! ヒーハー」
そのアドバイスを馬鹿正直に受けたショーマは早速、動画配信を始めてみることになった。しかし結論から言うと、結果は非情に残酷なものであった。
ショーマの平均視聴者数は2~3人を行ったり来たりするレベルで、肝心のコメント欄も出会い系サイトや脱毛サロンのURLばっかり連投される始末であった。まともな歌唱アドバイスを貰える状況ですらなかった。そもそもの話、ショーマにわざわざ粘着するようなアンチすらいなかったのだ。
つまるところ、才能なしの烙印を押さざるを得ない状況であった。
◇◇◇
「ぐおーん。バーニングマイソウルは最後まで誰の心にも響かず。これで引退か。短いアーティスト人生だった。ぴえん」
そんなこんなで完全に心をへし折られてしまったショーマ。自身の才能のなさに絶望した彼は、今日この日をもって、またいつもの駅前広場にて引退ライブを敢行することになった。
「夢破れて三千里〜♫ ヘイヘイミッドナイト~♫」
事前に自身の動画チャンネルでも引退ライブの告知をしたものの、結局誰1人として駆け付ける者は現れなかった。
最後まで誰の目に留まることなく、ショーマの音楽活動がいよいよグランドフィナーレを迎えようとしていたその矢先のこと。
「ぎゃははは。君、面白いね。歌はいまいちだけど、ギターからはパッションをとてつもなく感じるよ!」
偶然、彼の前に黒のドレスを基調とした、まさに地雷系ファッションの申し子を思わせる小柄な女の子が現れた。ギターケースを背中に背負ったその子はスカート丈が短く、ヘソが出ている。かなり見た目が派手な子である。
「もしよかったら私とデュオ組まない? 君、歌はからっきしだけど、ギターはいい感じだし。たぶんこのカリスマ性溢れる私と組んだら、武道館なんて余裕で行けちゃうよ〜ん」
「ぶ、武道館? 俺が君と?」
突然の提案にドギマギするショーマ。
歌唱センスは絶望的だが、ギターはパッション溢れる感じとのこと。是が非でもメジャーデビューしたいとずっと願い続けていたショーマ。
それらのことを鑑みて、少しばかり考えあぐねた後、彼は次のような結論を出した。
「わ、わかったよ。君のために俺、人肌脱ぐよ。一緒に武道館、行こう! 俺のギターで君をスターダムにのし上げてみせるよ」
「やったー! 大好き! これからよろしくね、相棒!」
そうと決まればの感覚で、早速そんな彼女から肩を組まれるショーマ。
「は、は〜い……。こちらこそ、よろしく」
唐突なボディータッチに、激しく赤面するショーマ。
病み可愛い系美少女"リオ"からの誘いを断れるはずもなく、ショーマはそんな彼女とデュオを組むことになったのであった。
◇◇◇
「みんなー、武道館ありがとう。大好き!」
時を経て5年後、ショーマと病み可愛い系美少女のリオは武道館を満員にしていたのであった。