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【短編】恋愛短編シリーズ

明るいところで眠ると目にクマができるという

作者: 烏川 ハル

   

 夜中にふと目が覚める。

 時計に視線を向ければ、午前0時50分。その針がはっきり見えるほど、室内は明るかった。


――――――――――――


 小さい頃、電気を消し忘れて寝ると親に怒られた。

 明るいところで眠ると目にクマができるというのだ。


 目を閉じた状態で瞼に光を当て続けると皮膚の色素が凝集してクマになる……みたいなメカニズムで理解していたが、大人になってから調べたら、そのような理屈は見当たらなかった。

 明るいところで眠る悪影響は、体内時計が狂ったり、過度のストレスになったりという話だ。それらが睡眠不足に繋がって、結果としてクマができやすくなるのは考えられるけれど、直接的ではない。「風が吹けば桶屋が儲かる」ほどではないにしても、かなり迂遠な話だろう。


 暗いところで寝るように子供を躾けるためならば、もっと他に言いようがあったかもしれない。

 でも私の場合は「クマができるから」という理由も効果的だった。

 パンダやキョンシーみたいに、目の周りだけ黒っぽくなった私の姿。それを想像するだけで怖くなり、絶対に嫌という強い気持ちで、言いつけを守るようになったのだ。

 そうして育った結果、大学生になって一人暮らしを始めてからも、毎晩きちんと消灯した上でベッドに入る習慣が身に付いていた。


――――――――――――


 だから今、昼間みたいに明るいこの部屋は、私の部屋ではない。

 最近頻繁に泊まっている、彼氏の部屋だった。

 正式に一緒に住んでいるわけでもないのに、毎日のように寝起きを共にする。学生にありがちな、半同棲というやつだ。


 ひとつベッドで好きな人と抱き合ったまま眠ろうとしても、最初の頃はドキドキしてなかなか寝付けなかった。でも、いつのまにか緊張感は安心感に変わっていた。

 心よりも体が先に慣れて、理解したのだろう。好きな人の腕の中は安らげる場所なのだ、と。

 そして、慣れと言えばもう一つ。

 彼は「真っ暗では眠れない」というタイプなので、夜の電気はつけっぱなし。それも私が寝付けない理由の一つだったはずだが……。

 少しずつ私も、明るいところで眠ることに抵抗がなくなってきたようだ。

 そもそも彼の目の下に目立つクマはないのだから、やはり「明るいところで眠ると目にクマができる」は嘘だったのだろう。消灯せずに寝ても大丈夫なのだ。

 それに、もしも将来パンダやキョンシーになるとしても、彼も一緒ならば怖くないと思う。


 それでも「電気代がもったいない」という気持ちも少しあるので……。

 こうして目が覚めたついでに、ベッドから出て電気を消す。それから私の定位置である彼の腕の中へ戻り、再び眠りにつくのだった。




(「明るいところで眠ると目にクマができるという」完)

   

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