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旅立ち

「そっちの荷物は馬車に運べよ」

「これは誰の荷物だぁ?」

飛び交う声を聞きながら、私は荷物をチェックしてから馬車に預けた。

「これでよし」

神殿の入り口に戻ると、期待したように目を輝かせているカリナに、心配そうな顔をしている補佐聖女2人。それとどこか晴れやかな顔をしているライム様がいた。

「いよいよですね」

見送りは笑顔でというのがライム様の信念らしい。

「今生の別れというわけでもないのにしんみりしても仕方ないでしょう。これからの大聖女セシリアの活躍を期待して笑顔で送り出すのが一番です」

私の活躍はどうなのかわからないけれど、今生の別れではないというのはもっともである。

「セシリア様なら大丈夫だと思いますが、くれぐれもお気をつけて」

「貴族が横柄な態度を取ってきたら、容赦なく蹴り飛ばしてくださいね」

シーナの言葉に頷くことはできるけれど、エイレンの言葉には苦笑いを浮かべるしかない。ソフィア様は平民出身ということで貴族たちから見下されることがあって、無理な要求もしてきていた。そのせいで体調を崩してしまった。私は貴族出身ではあるけれど男爵家だ。身分で言えば低い。高位貴族が横柄な態度を取らないとも限らない。そのことを心配してくれていた。

ソフィア様のことで皇帝陛下が激怒して大聖女に対する態度を改めるように言われているけれど、帝都以外の都市がどこまで浸透しているのかわからない。

「その時は我々が対処しますのでご心配なく」

2人の心配に返事が出来ないでいると、後ろにいつの間にか待機していたカイル様が口を挟んだ。

「そのための護衛でもあります」

大聖女の護衛としてカイル様は皇太子殿下から任命されているので当然巡礼も一緒だ。他にも第3都市に行った時の聖騎士と他にも数名がついてきてくれることになっている。

カイル様は伯爵家の出身だ。そのことも牽制になるだろう。

「きっと大丈夫よ」

どんな旅になるのかわからないけれど、困難な旅になるとは考えていない。巡礼によって大聖女セシリアの実力を示すのも心配していない。私はやれることをやるだけだ。

離れてしまうけれどカムイ様もずっと見守ってくれている。

「そろそろ時間ですよ」

馬車の方から声が聞こえた。振り返れば聖人ザックさんが手を振っている。彼も今回の巡礼に同行してもらえるようにお願いしていた1人だ。カリナも一緒だけれど、他にも数人を連れて行くことになっている。長旅になるだろうから体力面も考えて聖人の割合は多くしていた。ライム様にそのことを伝えたら快く承諾してくれたのでよかった。

「それじゃ、行ってきます」

挨拶をして馬車へと向かう。

先を歩くカイル様は馬車の前で振り返ると手を差し出してくれた。その手を取って彼と視線を合わせれば穏やかで優しい眼差しが返ってくる。

彼は護衛なので馬車には乗らない。触れ合えるのはここでだけ。

カイル様の手を借りて馬車に乗るとカリナとザックさんも乗り込んでくる。

「まずは第5都市を目指すのよね」

「その途中でいくつか町や村に立ち寄ることになるから、そこで神聖石の保護もしていくよ」

2人が打ち合わせを始める。私は窓の外を見ていると、神殿の前に立っているライム様が手を振っているのが見えた。

それに応えるように振り返すと、馬車がゆっくりと動き出す。

すると馬車のすぐ横に馬に乗ったカイル様が現れた。

視線をこちらに向けて小さく頷いてくる。

私は口元に自然と笑みが零れていた。

巡礼は大陸を巡る旅だ。かなりの時間がかかるだろう。それでも大切な人が側にいてくれて、心強い仲間も一緒だ。次に帝都に戻って来た時はもっと成長した自分であることを願って、私は気持ちを前に向けていくのだった。

空を見上げると、私にしか見えない黄金の鳥が飛び去って行くのが見える。

カムイ様の派手な見送りに笑みを浮かべながら、私大聖女セシリア=ローズネルの旅が始まった。


大聖女の巡礼は2年という歳月をかけて大陸のすべての都市を回ることになった。

都市に置かれている神聖石はセシリアに応えるように反応し、結界をさらに強固なものにしていたことを知ることができたのは、神聖力を持ち合わせていた者たちだけ。

しかし、彼らの証言で大聖女セシリアのすごさは広められ、歴代一の大聖女と呼ばれるようになるまでそう時間はかからなかった。

そして、2年後帝都に戻った大聖女セシリアは、みなの祝福を受けてずっと側にいてくれた護衛騎士と晴れて結ばれることになるのだった。


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