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2人の約束

「私が帝都から出るとなったら、カムイ様はどうなりますか?」

ダイヤモンド型の神聖石を目の前に、私は疑問をぶつける。

『詳しいことはわからないが、我はこの地を守る神聖石。結界の外に出てしまえば一緒にいることはできないだろう。ただし、混ざってしまった力はそのままだから、我の力の名残はお前の中にあり続ける』

「私が離れることにカムイ様への影響はないと考えていいのですね」

『離れることは可能だ』

ずっと気になっていた。私はカムイ様と神聖力を混ぜてしまったことで、帝都から出ることができるだろうかと。離れることでカムイ様と私に何か異変が起きるのなら、私は一生帝都から出られなくなる。

巡礼をする準備が進められているけれど、そこを確かめておかなければいけないと思い神聖石の部屋にやってきていた。

帝都の中ならどこでもカムイ様と話はできるけれど、他の人たちにカムイ様は見えていない。何もない場所を見つめて私が1人でぶつぶつ喋っていたら、周囲から白い目で見られること間違いなしなので、誰もいないカムイ様と会話をしても問題ない場所としてここに来た。

補佐聖女達には神聖石の様子を見てくると伝えているので、疑うことなく送り出してくれた。今頃私の負担を減らそうと仕事をがんばってくれているはずだ。

怪我人が大量に運ばれてきたあの日以来、補佐聖女達は積極的に私の仕事を手伝ってくれるようになった。それは私を大聖女として認めてくれた証拠のようで、補佐としてしっかり働かなければという意気込みが伝わってきていた。

リリスの補佐をしていた時、一生懸命仕事をしていたのは私だけだった。そのため他の補佐聖女が積極的に仕事をこなしてくれる姿は新鮮に見えていた。ただ、これが本来の姿なのだということも理解しておかないといけない。

「他の神聖石に力を使うことで何か影響はありますか?」

『それはやってみないとわからない。我は他の神聖石の存在は感知できるが、接触はしたことがない。我の力が混ざったお前が触れることで何が起こるかはわからない』

私の力は私1人の力ではなくなってしまった。ただ、人の治療は問題なかった。怪我が治った人たちのその後の様子も確認してみたけれど、何か変わったと感じた人はいなかった。

それなら神聖石の保護もきっと問題ないと思いたい。

『もしも神聖石が暴走するようなことが起こったとしても、お前の力なら落ち着かせることはできるはずだ』

帝都の神聖石は大陸で一番大きくて力があると言われている。その神聖石であるカムイ様の暴走を止めたのだから、他の神聖石と接触して暴走することがあったとしても、私なら大丈夫だと思われているようだ。

「帝都を出てしまったらいつ戻ってこられるかわかりません。その間に何か異常が起きた場合はどうしましょう?」

『我はずっとお前の力を追っていることができる。大陸中どこにいても感知できるはずだ。何かあればすぐに戻ってくることを勧めるが、それができない場合、他の神聖石の力を借りるのが一番だろう』

まだ不安はあったから聞いてみると、カムイ様はあっさりと他の神聖石を頼れと言ってきた。カムイ様と力が混ざってしまったことで何かが起きている可能性もあるけれど、他の都市の神聖石も都市を形成できるほどの力を持っている。きっと助けになってくれるはずだと考えているようだった。

『他の神聖石の力も我は感知できている。何かあればすぐに我も察知できるだろう』

カムイ様の力が及ばなくてもカムイ様はいつも私を見守ってくれている。それがわかると少し安心できた。他の神聖石の力も借りられるのなら、巡礼もきっと大丈夫だろう。

「わかりました。巡礼の準備が出来たらすぐにでも出発となるでしょう。私は私にできることをしてきます」

大聖女となったのだから、やるべきことをしなくてはいけない。

憧れだったソフィア様のように多くの人たちに手を差し伸べられる努力をするつもりだ。

『外の世界は未知の世界でもあるだろう。お前の目で見て確かめてくるといい。他の神聖石にも触れることで何か得られるものもあるだろう』

まるで神様にでもなったかのような言い方に笑みが零れた。カムイ様は神様ではない神聖石の塊だ。長い年月をずっと見守ってきた存在だからいろいろなことを知っているのかもしれないけれど。

「いってきます」

神聖石の後押しに巡礼への決意が溢れてくる。

カムイ様との話も終わったので戻ろうとした時、カムイ様が神聖石から飛び立った。小さな体で動いていると可愛らしくてほっとしてしまう。そんなことを考えていると、部屋の扉が開かれる気配がした。

静かに開かれた扉にハッとして振り返ると、護衛騎士に任命されたカイル様が入ってくるところだった。

「カイル様」

「・・・邪魔をしてしまったか?」

彼がここに来たことに驚いて名前を呼んだら、少し気まずそうにカイル様が辺りを見渡した。

他に誰もいないことを確認してから、もう一度申し訳なさそうにする。

「大聖人様から許可はもらっていたから、いつものように入って来てしまった。神聖石の保護をしていたのなら邪魔をしてすまない」

大聖人ライム様から部屋に入る許可はもらっていたらしい。ただ、いつものようにと言ったので、何度も入ってきたことがあるようだ。

「終わったところなので大丈夫です」

保護をしていたわけではないけれど、カムイ様との話は終わっていた。

「いつもと言いましたけど、ここへは何度か入っていたんですか?」

そんな話は聞いたことがなかった。ただ、よく思い出すと私が目を覚ました時、最初に姿を見たのはカイル様だった。

「セシリアが眠っている間に何度か来たことがあったから・・・いつ目を覚ますのか気になっていたし」

大聖人がジーン様だった時から許可を得て様子を見に来ていたらしい。それはライム様に代わっても変わることがなく、ずっと私が目を覚ますのを待ってくれていた。

いつ目覚めるかなんて誰にもわからなかったのに、カイル様は通い続けていたのだ。

「セシリアがここに行ったと聞いて、様子を見に来たんだ。まだ入室の許可は続いているようだったから」

神聖石の部屋に行ったと聞いてカイル様は胸騒ぎのようなものを感じたようだった。部屋に入ったきり戻ってこないのではないかという不安が彼の中にあったようで、自分の目で確かめるために来ていた。

そんな心配をする必要はないし、カムイ様と話がしたかったから誰もいない場所を選んだだけだった。

「心配をかけたみたいですね。でも大丈夫ですよ。少し確認したいことがあっただけで、それも終わったので戻るところでした」

笑顔で言えばカイル様はほっとした表情をする。私の姿を見ただけではまだ不安が消えてはいなかったのだろう。

「戻るなら部屋まで送る」

そう言って、カイル様は手を差し出してきた。

私はその手を取ろうとして、カイル様の顔を見てふと思い出したことがあった。

「髪を切ったのですね」

昨日怪我人を運んで来た時に気が付いていた。カイル様の髪が短くなっていた。うなじで一つに束ねていたけれど、今は肩にもつかないほど短い。そして何よりも一段とかっこよくなった気がする。

昨日は尋ねている暇がなかった。すぐに休むようにと言われてカイル様に部屋まで送ってもらった時も、追い出されるように部屋から出てしまって、あっという間に部屋まで案内されて別れてしまったので、カイル様の髪に気を取られている暇がなかった。

やっとゆっくりとした会話ができることに今さら気が付いた。

ここには私とカイル様だけ。カムイ様はいるけれど、今は黄金の鳥の姿が視界になかった。

「これは願掛けだったから」

頭に手を置いてカイル様が落ち着いた声で言う。

「叶ったからには切らないといけないだろう」

「何を願っていたのか聞いても?」

どんな願いが叶ったのか気になった。バッサリと切られて事で、カイル様の心は前を向いたのだと、その潔さが気になったのだ。

「・・・セシリア=ローズネルが目を覚ましますように」

「え?」

一瞬何を言われたのかわからなかった。私が目を覚ますとはどういう意味だろう。

そう思ってから、神聖石から出てくることを願っていたのだと気が付いた。

「私のため・・・」

「他に願うことなんてない」

そのまなざしにドキリとした。

真っすぐに射抜く瞳に吸い込まれそうな気がする。呼吸をすることを忘れてしまいそうで、私はゆっくりと意識的に呼吸を繰り返した。

「・・・約束があっただろう」

カイル様が一歩近づいてきた。私の手をそっと取って手の甲に口づけを落とした。

約束があった。帝都の結界が元に戻ったら話をするという約束。私もその約束を覚えていたし、神聖石から出た時に最初にカイル様の顔を見て約束のことを思い出していた。

その後はバタバタしていて結局話が出来ていなかったけれど、その時が来たようだ。

顔を上げたカイル様と視線が合うとドキドキが止まらない。

何を話してくれるのか予想は出来ている。でも、しっかりと彼の口から聞きたい言葉を聞かなければいけない。

「約束を果たしてくれますか」

胸の高鳴りを押さえるように私が言葉を零すと、カイル様の眼差しがいつも以上に優しくなった気がした。

カムイ様はどこに行ったのか黄金の鳥は姿を消してしまった。

2人だけの空間。

約束の言葉をカイル様から聞いた私はしばらく胸の奥に暖かいものを感じ続けることになった。


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