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護衛騎士

「いったい何人治療したわけ?」

カリナの文句に近い言い方に、私は少し考えてから肩を竦めた。

「数えてないからわからないわ」

「午前も患者の治療をした上に、急患をそれも重傷者ばかりを治療して、まだ余力があるだなんて、化け物・・・失礼しました。相当な神聖力をお持ちのようですね」

今完全に私を化け物扱いしましたよシーナ。隣のエイレンも頷いているから同じ気持ちのようである。

もともと神聖力は強いとは思っていたけれど、私自身ここまでとは思っていなかった。神聖石の中に入ったことが原因かもしれない。カムイ様は変わりないと言っていたけれど、神聖力自体も増えているのではないだろうか。

『力の流れがスムーズだ。余計な力を使っていないことで効率的に治療ができているのだ。神聖石の保護でも同じことができるだろう。お前の力はそれほど変わっていない』

自分の力に疑問を感じていると、心を読んだかのようにカムイ様が言ってくる。力が強くなったわけでは決してない。私の力の使い方が上手くなっただけ。ただ、私はその感覚がよくわからなかった。すでに自然に出来ているので気が付いていないだけのようだ。

治療を終えて後のことは誘導している神官や、軽い怪我の治療をしていた聖女や聖人たちに任せて、私は執務室に戻ることにした。

ライム様も一度部屋に戻ったようで、私たちはまず休憩をすることになった。

もう夕方で空は茜色に染まっている。それほど時間が経たずに暗闇の時間にもなりそうだ。本来ならみんな帰らせるべきだけど、大きな事故があった時は帰れないことがある。まだ神殿にいることになるのなら、みんなを休ませた方がいい。私とは別でシーナたちも治療をしてくれていた。

部屋に戻ると、お茶はカリナが用意してくれて、ソファに座ってまずは一息となった。私は扉の前で静かに待機しているカイル様を見た。護衛騎士になったと聞かされたけれど詳しいことを何も聞けていない。執務室に戻ることになった時に、彼も一緒についてきていた。

向かいのソファにはシーナとエイレン。カリナは私の隣にいる。座る場所もないし、カイル様は治療をして疲れているわけでもないから、私たちがゆっくり休んでいるのを邪魔しないようにしてくれているようだけれど、そこにいるだけで存在感がばっちりある。気にしない方が疲れてしまうような気がした。

「カイル様の話を聞かせてもらいましょうか」

一息ついたことだし、私は黙って立っているカイル様に話しかけた。皇太子殿下の命令で護衛に来たと言っていた詳しい話を聞きたかった。

補佐聖女達がいても構わない話なら、話してくれるはずだ。

「大聖女セシリアが巡礼のため帝都を離れるという話を皇太子殿下が耳にしました。そこで、大聖女の護衛騎士として皇太子の勅命が下りました」

巡礼の話はライム様と勧めていたけれど、必ず護衛が必要になる。しかも大聖女の巡礼となれば聖騎士を派遣しなくてはいけないため皇族を護衛している聖騎士団に要請することになっていた。

その話をすぐに耳にした皇太子が、独自に私の護衛にカイル様を指名したらしい。

「他にも聖騎士から護衛騎士が選ばれますが、私は本日から大聖女の護衛を任されました」

「今日から・・・」

巡礼が始まるまでまだ時間がある。打ち合わせは必要だけれど、帝都を出る時から護衛が必要なはずなのに、カイル様はすでに私の護衛をすることを皇太子殿下から言われたのだ。

リリスの時も護衛騎士をしていたけれど、あれはリリスの我が儘だった。本来聖騎士の護衛は帝都にいる間必要ない。

皇太子殿下はいったい何を考えているのだろう?

そんな疑問が頭に浮かんでいると、カイル様は穏やかな表情でさらに続けた。

「大聖女セシリアが目を覚ましたことで神殿内は大きく事が動くことになります。ただ、今まで存在は知らされていたけれど、実力を見たこともない聖女が大聖女として動くことになり、殿下は大聖女セシリアの身を案じていたようです」

本当は目を覚ました時点で護衛が必要だと感じていたらしいが、いろいろと手配に時間がかかってしまい数日が過ぎてしまった。

「私は一度大聖女の護衛をしていたこともあり、大聖女セシリアとは顔見知りだということで護衛として適任だと判断されたようです」

カイル様は皇太子殿下の護衛騎士だ。わざわざカイル様を選ぶ必要はない気がしていたけれど、私の考えを見透かしたようにカイル様が話していく。

「私の護衛騎士となれば、一緒に巡礼に行くことになります。そのことも承知しているのですか?」

「もちろんです」

巡礼の際には他の聖騎士も派遣されることになるけれど、日常生活でも護衛を付けると判断して、皇太子殿下はカイル様を派遣してくれたらしい。

「そうですか。皇太子殿下のご厚意なら受け入れるべきですね」

突き返す理由もないし、私の力が周囲に認められるまでの間は日常での護衛も受け入れておくべきだろう。

「今日は挨拶だけのつもりでしたが、随分と時間がかかってしまいました」

神殿に顔を出すだけのつもりで来たようだけれど、怪我人が運び込まれる状況に出くわして手伝うことになってしまった。挨拶をしたらすぐに城に戻る予定でいたのをこんな時間まで留めさせてしまって申し訳なく思ってしまう。

「そうですよ。もうこんな時間」

突然カリナがそう言いながら立ち上がった。なぜか両手を握りしめている。

力の入った言い方に驚いていると、カリナは私を立たせて背中を押してきた。

「朝からずっと仕事をして休んでないわ。大聖女様はもう休まないと」

「え、えぇ?」

急なことに対応できなくて、私は背中を押されるままに部屋の扉の前まで歩いていく。

扉の前にはカイル様がいるから彼と至近距離で向かい合わせになってしまった。

「ちょっとカリナ」

「カイル様。お帰りになる前にセシリア様を部屋まで送ってくれませんか?1人で行かせるときっと戻ってきてしまうから」

怪我人の治療はすべて終わったけれど、今回のことを報告書にまとめるという作業がまだ残っていた。それを書いてから休むつもりでいたのに、カリナはそれよりも私を先に休ませようとしている。しかも、カイル様という監視付きで部屋に戻らせようとしていた。

カイル様も少し驚いたような表情をしていたけれど、カリナの説明に何かを察知したのかフッと笑って頷いた。

「大聖女様はお疲れのようですね。私が責任をもって部屋までお送りいたします」

何故か畏まった言い方をしてくる。それなのに表情が少し面白がっているように見えるのは気のせいだろうか。

助けを求めるように補佐聖女2人に視線を向けたけれど、ソファに座っていた2人はいつの間にか立ち上がって自分の仕事机で作業を始めようとしていた。

「報告書はこちらで仕上げておきますので問題ありません」

「私たちは大聖女様の補佐です。これくらいの仕事は任せてください」

シーナが穏やかに言うと、エイレンが胸を張るように言ってきた。

私のことを警戒しているような雰囲気があったはずなのに、今はその気配がどこにもない。

この感覚は前にもどこかであった気がした。

どこだろうと考えていると、カイル様の手が私の背中に優しく触れてきた。

「みんなからの好意は受け取っておくべきだろう」

そっと小さな声で言われて見上げると、カイル様の優しい眼差しとかち合った。

ドキッとしてしまって今考えていたことが頭から吹き飛んでしまう。

「・・・はい」

そう言うのがやっとだった気がする。気が付けば部屋から出てカイル様にエスコートされるように私は廊下を歩いていた。その後もふわふわとした気持ちは部屋に戻ってからも続いていくことになった。


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