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準備

「こちらは今日の患者の資料です。すぐにでも治療が必要な順番にしてありますので、セシリア様ができる範囲を教えてください」

「そうね」

ざっと目を通した感じではすべて治療が可能ではあるけれど、私の体は1つしかない。それに他の仕事をしていたら回りきることもできない。ここは治療がすぐに必要な人を数人だけ治療して後は補佐に任せるしかない。

「帝都周辺の神聖石の調査が届いてきています。今すぐに保護が必要な場所はないようですが、もうすぐ1年が過ぎようとしている場所がありますので、聖女を派遣する必要があります」

「神殿の聖女を全員はまだ把握していないから、適任者を選んでくれるとありがたいわ」

「名簿はここにありますよ」

私の声にカリナが聖女の名前が記された書類をエイレンに渡す。

それを確認してからシーナに言われた治療する人を伝えると、私はすぐに立ち上がった。

「残りの人たちは補佐聖女に任せます。ただ、2人でも治療が難しいと判断した場合はすぐに私に知らせてください」

「わかりました」

2人の補佐聖女の仕事ぶりは優秀だった。優秀すぎて、次々と仕事が舞い込んでくる勢いに始めは押されてしまうそうだったけど、補佐聖女をしていた時のことを思い出すと、忙しさがどういうものだったのかすぐに思い出せて体も頭もついていけていた。

廊下に出て治療を待っている患者の元へと歩く。

眠っている間は時間が止まっていたので、治療は数日ぶりになるけれど、なんだか懐かしさを感じる。

「神聖力は神聖石の中でも使っていたから問題ないしね」

『我と混ざった力がどんな効果を示すのか実に興味がある』

いつの間にかカムイ様が私の肩に乗って胸を反らしていた。

小さな黄金の鳥は私にしか見えていないけれど、カムイ様は側にいる時といない時がある。特に人がいる時は姿をあまり見せない。私の視線が何もないところに向くことで周囲が怪しむのを防いでくれているような気がするけれど、それを確かめたことがない。

それに話しかけてくるのも私が1人の時だ。

「何か変わっているのでしょうか?」

カムイ様の神聖力と混ざったことで変化があったとは思えなかった。体に異常はないし、神聖力が強くなった気もしない。

『それをこれから確かめてみるのだ』

カムイ様も今まで前例がない状況に興味があるらしい。

神聖石に意志があることは目の前の黄金の鳥が示してくれているけれど、ここまで感情をはっきりと示してくる存在だとは思いもしなかった。

神聖石の中にいた時もカムイ様には何度も会っていた。でも、その時は大きな姿をしていて雄大で優雅な雰囲気に感情の起伏は感じ取れなかった。

もしかすると小さくなることで感情が表に出やすくなるのかもしれない。

それこそ神聖石の意志の塊という存在に私が興味がある。

「セシリア」

患者の部屋に向かって歩いていると、後ろから慌てたように声が聞こえてきた。

振り返るとカリナが小走りにやってくる。

「どうしたの?忘れものでもしたかしら?」

首を傾げると、カリナがものすごく呆れた顔をしてきた。

「大聖女様が治療のために1人で先に行かないの」

補佐聖女もしくは聖女を連れて歩けということらしい。

「えっと、治療なら私1人でできるから、他の人は別の仕事をしていて大丈夫よ」

人数が少ないから1人で動いた方がいいと思って来たけれど、駄目だったらしい。

「さすがに大聖女1人に仕事を押し付けるような形に見えるからやめて。せめて誰かと一緒に仕事をしてちょうだい」

神殿の中で危険があるとは思えないけれど、大聖女は補佐や普通の聖女でも誰かが側にいるものだった。

そう言えばリリスもいつも補佐聖女を従えていた。

「それに、セシリアは目を覚ましたばかりで周囲が本当に大聖女として大丈夫なのか目を光らせているのよ。1人で行動すると後で何を言われるかわからないわ」

大聖人様によって私は大聖女になっているけれど、その実力を示したことがない。そのため目を覚まして動けるようになった私に、誰もが大聖女として相応しいのか見極めようとしている。

その話は聞いていたけれど、今は仕事だ。

「仕事をこなしていれば問題ないと思うけど」

「それをちゃんと誰の目にも見えるようにしておかないと信じてもらえないわよ。1人で全部こなそうとどんどん先に行っていたら評価もしてもらえないわ」

仕事をこなせばいいと思っていたけれど、周囲が私をしっかりと見てくれる環境も必要だとカリナは言っているようだった。

補佐聖女の時はとにかく仕事をしなければ終わらない日々だったから、その感覚がまだ残っている。

「ごめんなさい。これからは気を付けるわ」

「そうしてちょうだい。補佐聖女の2人も先に出て行ったセシリアに驚いていたわよ」

いつも通りの感覚で動いてしまったけれど、これが普通だと思ってはいけなかった。

「セシリア様」

噂をすればというのか、シーナとエイレンが明らかに戸惑った様子で追いかけてきた。

「ごめんなさい。補佐聖女だった時の感覚で動いてしまったわ」

すべての仕事をこなすためにはゆっくりしている暇がなかった。とにかく神殿の中を動き回っていた感覚が今も体に染みついている。神聖石の中に入る前に補佐聖女は辞めたけれど、習慣は残ってしまっていたのだ。

大聖女として仕事をすることになって気合を入れると、補佐聖女だった時の感覚が蘇ってしまった。

「できるだけ誰かと一緒に行動してください。ソフィア様の時のこともありまして、できれば補佐を伴うようにしてくださると助かります」

ソフィア様は積極的に動いていたけれど単独も多くて、貴族からの無理難題を押し付けられていても補佐聖女達の負担を増やさないために1人でやることが多かったらしい。もともと体が弱かったためその負担が体に影響して倒れてしまった。

私は体が丈夫だから倒れる心配は必要ないと思うけれど、ソフィア様の補佐聖女をしていた2人なら心配してしまう気持ちもわからなくはない。

ただ補佐はまだ2人しかいない。ライム様も私のことを考えて仕事を配分してくれているようだけど、あまり負担を掛けたくないというのも本音だった。

「それに、私たちはまだセシリア様の力量を知りません。しばらくは一緒に行動してセシリア様のことを知りたいと思います」

エイレンの言葉に私は素直に納得してしまった。カリナは知っているから気にしていなかったけれど、目の前の補佐聖女は私の仕事を見たことがない。そして神聖力がどれほどなのかも知らない。

まずは私の力量を知りたいと思うのは当たり前だろう。ただ、エイレンの言い方には少しだけ違和感があった。力量を知りたいというのは本当だろうけど、なんとなく私のことを試しているような雰囲気もあった。

「そうね。まずは私の仕事を見てもらった方がいいわね。とは言っても、人手不足だから午前と午後で1人ずつ私についてもらうわ」

実力を見せるには怪我人の治療が一番だ。まずはシーナを伴って患者の部屋に向かうことにした。

「資料の患者は午前中にすべて回ることにしましょう」

「え、全部ですか?」

数人を選んで治療するつもりだったけれど、実力を見せるためには集中的に治療する方法を選ぶことにした。

シーナは午前中ですべての患者を治療することはできないと思ったらしく、私と手に持っている資料を交互に見ている。

「私の実力を知りたいのでしょう。それならとりあえず見ていてちょうだい」

カムイ様と力を混ぜて初めての治療。どんな雰囲気なのか私自身よくわからない。

肩に乗っているカムイ様も心なしか楽しそうな気もするし、私は気合を入れ直して患者が待つ部屋へと向かうのだった。


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