仕える者
「噂の大聖女様はどうだった?」
隣を歩くシーナに話しかけると、彼女は嬉しそうに抱えている資料を持ち直した。
「ソフィア様と仕事していた時代を思い出すわ。セシリア様もきっと立派な大聖女になるでしょうね」
「そんな簡単に評価していいのかしら?」
「エイレンはセシリア様を疑っているのね」
シーナが責めているわけじゃないことはわかっている。これはただの確認。
「3年前の帝都の災厄を食い止めた聖女として名前が出ていたけれど、実際に彼女の力を見たわけではないし、神聖石の中で眠っているだけで結界を維持できていると言われても、私たちには確かめる方法がなかったわ」
別の都市で聖女として働いていた私たちは帝都の災厄を直接目にしたわけではない。
私もシーナも噂程度にその災厄を沈めたのが1人の聖女であるという話は聞いた程度だった。そして、大聖女リリスが貴族の地位と金で大聖女の座についていただけの役立たずだったということも同時に聞かされていた。
「リリス=トールスのこともあったし、今度は大丈夫だと信じたいけど、トラウマがあるからね」
ソフィア様が亡くなってからしばらくは私達が大聖女の仕事を分担して引き受けていた。
そして大聖女リリスが誕生したとき、私たちは当然のようにリリスの補佐として残るものと思っていた。
それが、彼女は初日から私達全員を新しい補佐聖女と入れ替えたのだ。
引継ぎをさせてお払い箱のように別の都市への移動も命じてきた。そのことに反発して意見を言った仲間の補佐聖女がいたけれど、数日後、彼女は何者かに突然襲われて大怪我した挙句、治療をしたけれど後遺症が残ってしまって、そのまま逃げるように別の都市に行ってしまった。
あの時リリスが何かしたのではないかと誰もが思った。でも、仲間と同じ目に遭うかもしれないという恐怖があったため、私たちは何も言えず指定された都市に行くことになってしまった。
今回大聖人ライムに呼び寄せられたけれど、あの時怪我をした補佐聖女は拒否して来ることはなかった。
シーナもあの時のトラウマは残っているはずだけど、大聖人の要請ということで来ることを決めたらしい。私も同じ気持ちだった。それに、帝都を守った大聖女をこの目で見てみたいとも思っていた。
大聖人ライムの要請は大聖女セシリアが目を覚まし、補佐聖女を必要としているため大聖女ソフィアの補佐をしていた聖女に手伝ってもらいたいというものだった。
リリスの補佐をしていた聖女達もたいした力はなくて、好き勝手振舞っていたらしい。そのためリリスの断罪で一緒に地方に飛ばされている。しかも、聖女ではあるけれど一番下っ端として扱われることになり、今までの生活が一変するほど厳しい待遇の中に放り込まれたと聞いている。
使えない補佐聖女ではセシリアの支えにはなれないため、ソフィア様の補佐をしていた私たちが声を掛けられた。
「大聖女として巡礼に出ることになるらしいけど、その準備に時間もかかるし、しばらく私たちと一緒に仕事をすることになるわ。その間にセシリア様を見極めるしかないでしょうね」
シーナの意見に同意する。私達が本当に仕えてもいいと思える大聖女かどうか、この目でしっかりと確かめるのが一番だ。
「これから忙しくなるわね。エイレンもしっかり準備しないと」
「それはシーナも同じでしょう。まだ補佐聖女は2人だけだもの。やることはきっとたくさんあるわよ」
気合を入れ直して、大聖女セシリアのことを思い出す。
本来なら23歳になっているはずだけど、3年間時が止まっていたため、まだ20歳だ。神聖力は多くても経験は浅い。
色々と見極める必要があるかもしれない。
そんなことを考えながら明日からの忙しさを実は楽しみしていることはシーナには内緒にしておいた。




