補佐聖女
「順番にまわると言ったり来たりすることになるし、やっぱり場所から進んで行く方が効率がいいわね」
「帝都は大陸の中心地にあるから、他の都市は東西南北に点在しているわ。どこから行くかを決めないとその後のルートも定められないわよ」
地図を見下ろしながら私が唸っていると、カリナが各都市を指さしながら言ってくる。
執務室に戻って来た私は早速巡礼をどこから始めるか考えていた。
「第3都市には一度行っているけれど、もう一度行った方がいいわよね」
「そりゃそうよ。3年経っているわけだし」
私かすると数日なので、また行くことになるのかという気持ちがないわけではない。でも、周りは3年が経過しているから、第3都市に行けば3年ぶりということになる。
「第3都市に行って、そのまま南下して第5都市に向かうのはどう?あっちにはセシリアの故郷もあるでしょう」
「ローズネル男爵領は第5都市に近いのよ」
聖女になることは両親には幼い頃に伝えていた。領地に来てくれていた聖人が私の神聖力の強さに気が付いて聖女になることを勧めてくれたのがきっかけだったけれど、その時は第5都市の神殿に行くつもりでいた。だけど、その後ソフィア様に出会って帝都の神殿に行くことを決めた。
家族にはそのことを伝えた時、聖女になることに反対はしなかったけれど、帝都に行くと言った時は少しだけ渋い顔をしたことを覚えている。第5都市なら会えることもあるかもしれないけれど、帝都となると距離もそうだし危険も増えるため会えないと思うしかなかった。
そこに寂しさはあったけれど、私はソフィア様の近くで聖女をしたかったから、家族もそれを理解してくれて送り出してくれたことを思い出す。
「どこかで必ず第5都市には行くことになるわ。それなら先に顔を見せておいた方がいいんじゃない?」
私が目覚めたことは各都市に伝えられている。家族は男爵領で生活しているから、情報が届くのに時間がかかるはずだけれど、いつかは耳にするはずだ。その時に会いたいを思ってくれるだろう。私も帝都に来てから手紙のやり取りはしていたけれど直接会っていなかった。
よく考えると、私が眠りについたことを両親は知っているだろうが、いつ知ったのかわからない。私が大聖女になったことも知っていると思うが、誰かが直接連絡してくれたのか確認していなかった。噂程度の話だけを耳にして3年間気を揉んでいる可能性もある。
できるだけ早く顔を見せてちゃんと話をした方がいいかもしれない。それに、忙しくて何もしていなかったけれど、手紙を送っておくことも必要だと思った。
「そうね。先に顔を見せておいた方がみんなも安心するわね」
「先に第5都市に向かって、そこから東に向かったほうが各都市を回りやすいと思うわ」
カリナの指の動きを見ていて、効率よく動けそうなのがそのルートだった。
「細かい調整は必要だけど、行く順番は決まりね。それじゃ、一緒に行く人が決まり次第ルートを教えて、必要な物も揃えましょう」
まだライム様にしか言っていないけれど、目の前のカリナも一緒に行ってもらう予定にしている。同行することを伝えたらどんな顔をするだろう。
自分は帝都に残るものと考えて話を進めていこうとするカリナに私は同行することを伝えようと口を開こうとして、扉をノックする音に言葉を飲み込んだ。
カリナが先に返事をして扉が開かれる。
入ってきた2人の聖女に私は首を傾げることしかできなかった。
40代に見える。1人は茶色の髪をひっ詰めたようにして、緑色の瞳が相手を射抜いてしまいそうな鋭い目つきをしている。そこにいるだけなのになんとなく敵意を向けられているような気がして、自然と肩に力が入った。
もう1人は同じ茶色の髪を首の後ろで一つにまとめている。腰よりもさらに長い髪はよく手入れされているのが一目でわかるほど綺麗だ。焦げ茶色の瞳は優しくて、私に友好的な雰囲気を持っていた。
真逆の雰囲気を持っている2人の顔を見たけれど、記憶にない聖女だった。
新人にしては年齢が上だし、別の神殿から移動してきたのだろう。
「どちら様ですか?」
カリナも知らない2人だったようで、部屋に入ってきた2人に首を傾げている。
「初めまして。シーナ=エルベスといいます。大聖人ライム様の呼びかけで、大聖女セシリア様の補佐聖女として参りました」
優しい雰囲気のシーナ様が挨拶をする。さっきライム様が行っていた先代のソフィア様の補佐をしていた聖女達だったらしい。
ソフィア様に関連する人物だと気が付くと、私は無意識に立ち上がっていた。
「同じく補佐聖女として呼ばれたエイレン=スフォードです」
刺々しい雰囲気のエイレン様は素っ気ない挨拶だ。
「初めまして。大聖女を務めていますセシリア=ローズネルです」
自分から大聖女と名乗ったのはこれが初めてで、まだちょっと違和感がある。背中がむず痒いという表現の方がしっくりくるかもしれない。
「世話役をしていますカリナ=エステリアです」
カリナがすぐに頭を下げた。カリナは私の世話役であって補佐聖女ではないから、立場的にシーナ様とエイレン様の方が上になる。
2人の補佐聖女は私とカリナを順番に見てから各々の反応を見せた。
エイレン様は軽く息を吐くと何も言わずに部屋を見渡して、シーナ様がにこやかな笑顔で私に話しかけてきた。
「事情はライム様から聞いています。今は3年分の出来事を教えてもらっているそうですね。それと、今後巡礼も行うということで、その準備もされていると」
「はい。眠っている間の記憶はありませんから、大きな災害などはなかったとしても、必要な情報がいくつかあるようですので、今はその資料を読んでいるところです。それと、私が目を覚ましたことを各都市に知らせたうえで、私自ら姿を見せて力を示すことが必要だとライム様と話し合った結果、巡礼をすることになっています」
「そんなに、畏まらないでください。セシリア様は大聖女であって、私たちはその補佐ですから」
まだ大聖女という自覚があまりないうえに年上の聖女が2人。しかも、ソフィア様の補佐をしていた人達だということで、自然と敬語での報告になってしまっていた。
「まだ慣れていなくて」
「大聖人ライム様も補佐聖人より若いですが大聖人としての品格を持って仕事をしています。大聖女になったからにはセシリア様も相応の態度で接してください」
少し突き放すような言い方でエイレン様が言ってきた。いや、様付けをしてはいけない。私の方が立場が上だという自覚を持たなければ。
補佐聖女というよりも大聖女の教育係で来てもらっているのではないかと思ってしまう。
「少しずつ大聖女としての本来の仕事も始めていくと聞きました。私達をどうぞ補佐としてしっかり働かせてください」
シーナ様の優しい雰囲気に少し心がほっとする。
「他にも補佐聖女を選ぶ予定でいるけれど、当分は2人に補佐としての仕事をお願いしま・・・お願いするわ」
慣れない言い方にシーナ様が微笑んで頷いた。エイレン様も少し納得していないような雰囲気はあるけれど頷いてくれた。
「大聖人様が請け負っていた仕事を少しばかり分けてもらいましたので、セシリア様ができる範囲を選んでください。それ以外は私達の方で処理します」
さっそく仕事を持ってきていた。
「しばらくはほとんどを任せることになると思うけど、頼りにさせてもらうわ」
補佐聖女が現れたことで私の仕事はますます忙しくなっていった。
やるべきことが増えていくと、リリス様に仕事を押し付けられていたことをふと思い出した。あの時も忙しかったけれど、あれは仕事を押し付けられて忙しかった。でも今は私がしなければいけない仕事が多くて忙しい。どちらも忙しいけれど、今の方が充実しているような気がして、私は気合を入れ直して仕事をすることになった。




