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3年間

私の部屋はもうすでに宿舎にはなくて、大聖女の部屋がセシリア=ローズネルの専用の部屋となっていた。執務室は別に用意されているから、寝泊りするだけの質素な部屋なので、今はまだ物がない。夢の中で休むときに使っていた部屋なので、見知った部屋は心を落ち着かせるのに十分な場所だった。

とはいえ、その部屋で休んでいてもすることがなくて手持ち無沙汰になってしまった。夢と同じ場所に本棚があって、そこに限られた人だけが読むことのできる本がある。内容を確認すると、これも夢と同じ内容。夢の中は時間の感覚がなかったから、読める時にいつでも本を読んでいた。

内容はすでに頭の中に入っている。本を読み返す必要もなくて、私は体調に問題がないことを確認してから、次の日には大聖女に執務室で仕事をすることになった。

まずは3年分の帝都の状況や神殿の状況を知るための資料を読み漁ることが仕事になる。

「3年分は結構あるわね」

「これでも重要な案件をできるだけ絞って持ってきているのよ。それに、セシリアに会いたい人が毎日のように来るから、そっちの対応をしていると全然進まないでしょう」

目の前に資料を降ろしながらカリナがため息をついている。

大聖女となった私だけれど、まだ補佐聖女を決めていない。3年経てば神殿内の人も変わってしまう。誰がいるのかを把握するところから始めているため、今は世話係をしていたカリナが仮の補佐聖女として動いてくれている。

そして部屋に引きこもって資料とにらめっこしている私に、目を覚ましたという話を聞きつけた貴族が面会を申し込んできていた。

この数日で数人の貴族をこの部屋に招く形で面会はしたけれど、誰もが大聖女となった私を称賛しては贈り物があると言って高価な物を押し付けるように置いて行こうとしていた。

それをカリナが受け取れないと言って持ち帰らせている。大聖女個人に寄贈することはその貴族への忖度になる可能性がある。そのため神殿への寄付や寄贈は許されているけれど、大聖女個人は断っていた。

ただ、大聖女リリスの時代はこっそり高価な物を贈っている貴族がいたようで、リリス様はそれをあっさりと受け取っていたらしい。

いつも仕事をしていた私はそのことに気が付かなかった。

でも、仕事を選ぶこと自体忖度があったと言える。さすがリリス様と思うべきか、やはり大聖女の器ではなかったのだと納得するべきか迷ってしまった。

そういえば、目覚めてからまだリリス様のその後を聞いていなかったことに気が付いた。

私が大聖女になっているのだから、当然リリス様は大聖女ではない。帝都の危機に何もしなかった偽物大聖女ということになったのは聞いていたけれど、その後の処遇は知らない。

「そういえば、リリス様は大聖女をはく奪されてからどうしたのかしら?」

「リリス様だなんて、リリスでいいのよ。今はセシリアが大聖女なんだから」

思い出すのも嫌なのか、カリナは眉根を寄せている。

カリナには悪いけれど、処遇が気になって聞いてみたかった。その後を聞こうとすると、扉をノックする音が聞こえて、私は言葉を飲み込むことになった。

カリナが返事をすると、部屋に入ってきたのはロンデル様だった。

補佐聖人が来たことで、私は自然と椅子から立ち上がってしまった。

何か重要な知らせを持って来たのではないかと思うと、ゆっくり出迎える体勢になれなかったのだ。これも補佐聖女時代の名残なのだろうなと心の中で苦笑してしまう。

「ロンデル様」

「様はいりませんよ。セシリア様」

私の方が立場が上になっている。それはわかっているけれど、やっぱり慣れない。

少し時間が欲しいなと思いつつ椅子に座ると、ロンデル様が手に持っていた書類を私の前に置いた。

「ライム様とも相談したのですが、セシリア様にはいくつか仕事を分担したいということです。目覚めたことは神殿内には広まっていますが、帝都ではまだ噂程度です。まずは大聖女として目覚めたことと、セシリア様の力が本物であるということを証明するために、多くの人の目に入るような仕事をしてもらいたいと考えています」

目の前の資料を確認していると、ロンデル様が一気に説明してくれた。

「まずは帝都での仕事をこなしてもらうことになりますが、可能であれば他の都市への巡礼も行うべきだと思います」

「帝都だけじゃなくて、各都市にも私が目覚めたことを伝えるためですね」

帝都の結界が崩壊しかけたことや、大聖女リリスが役立たずであったことは他の都市にも伝わっている。そして、セシリアという聖女が神聖石の保護に成功して帝都守ってくれたことも伝えられていたらしい。

どんな風に守ったのかまでは伝えていなかったようで、保護のため私が姿を見せられないということだけは噂として広がっていた。

「各都市に行く機会がある聖女や聖人がセシリア様の目覚めを伝えることになるでしょうが、実際に見なければ信じてもらえない可能性もあります。できることならすべての都市を回ってほしいのですが、そうなると大陸全土を移動することになって、年単位でやらなければいけなくなるでしょう」

そうなると、私は1年以上帝都から離れることになる。

『他の神聖石のところへ行くのなら、挨拶をしてくるといい』

ロンデル様の話を聞いていると、いつの間にか机の上にカムイ様が現れていた。

小さな黄金の鳥は悠然とした雰囲気で私に話しかけてくるけれど、カリナとロンデス様は無反応だ。

私以外にカムイ様が見えていない。そして言葉も聞こえていない。

カムイ様もそれをわかっているから、2人を無視して私に話しかけてくる。

『我は他の神聖石の存在は感知できるが、会話をすることはできない。お前が直接言って他の神聖石の声を聞いてくるのだ』

そう言われて、私は瞬きをした。

他の神聖石の声が私に聞こえるというのだろうか?

カムイ様の神聖石の中に入ったことでカムイ様と意思疎通ができるようになったのだから、他の神聖石の声を聞くためには中に入らなければいけないような気がする。

そうなると私はまた眠ることになるのではないだろうか。

『心配するな。我と繋がったことで他の神聖石とも上手く繋がれるようになっているはずだ。我がこの大陸で一番強い神聖石だ。他の神聖石の意志とは触れるだけで繋がれるはずだ』

胸を反らして自慢げに言っているけれど、神聖石は謎だらけだ。本当にそれだけで他の神聖石と通じ合えるのか疑問しか浮かばない。

ただ、カムイ様が言うのだからそれを信じて動くしかないこともわかっている。

「わかりました。後ほどライム様と相談して今度の日程を決めないといけませんね」

カムイ様の言葉もあって前向きに考えることにした。

とりあえず今は目の前の資料に目を通して私が眠っていた間の3年間を頭に叩き込むことにする。

ロンデル様にはライム様の都合を確認してもらって、私との面会を取り付けてもらう。

私はカリナにも協力してもらって、目の前の資料を読み始めた。

それがどれほど大変で気が遠くなるのかを知ることになるのは、数時間後の事ではあった。


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