大聖女となるため
城からの帰りの馬車に揺られながら、私は向かいに座っているカイル様に視線を向けた。
窓の外を眺めている横顔は太陽の光を浴びて、その精悍さが引き立たされているように思う。
なんだかこっちがドキドキしてしまう色気を放っているような気もして、見られているわけでもないけれど視線を逸らしてしまった。
「何か言いたいことがあるなら聞きますが?」
外を見ていたはずなのに、カイル様が急に声を掛けてきた。
私が見ていたことに気がついていたようで、途端に恥ずかしくなった。
「いえ、その・・・特には」
何か話しかけたかったわけではない。なんとなく城の入り口で馬車まで送ってくれるのだと思っていたら、神殿まで付き添ってくれたことに驚いて、馬車に乗ったからといって、カイル様は無闇に話しかけてもこなかった。なんとなく気になって視線を向けただけだったので、話題がなくて私が困ってしまう。
どちらかと言うとカイル様と一緒にいるこの静かな時間が楽しかったりしていた。
こんな風に穏やかな時間を一緒に過ごした記憶がなかったように思う。
第3都市に行った時は一緒に馬に乗ったけれど、急いでいたし仕事だった。帰りは私も知らなかった真実を知って悩んでいたため、こんな風にゆっくり彼と過ごす時間がなかった。
そんなことを考えると、怒涛の数日を過ごして、私は神聖石の中に入ってしまったなと思う。
カイル様とゆっくり話す機会なんてなかった。
「カイル様は、私が神聖石の中のいた3年間、どう過ごしていましたか?」
せっかくのチャンスなので、話を聞いてみることにした。
「3年・・・は、長かったように思う」
何かを思い出すようにカイル様が窓の外を見つめたまま口を開いた。
今彼の中でこの3年が走馬灯のように流れているのかもしれない。
「君が神聖石の中に入ってしまったことを知った時は、頭が真っ白になった」
私は誰にも何も言わずに神聖石の中に入ってしまった。もちろん私もあんなことになるなんて知っていたわけではない。そうしなければいけないことを知って、誰にも相談することなく自ら決断した。
急に神聖石の中に入っている私を見つけた時は、きっと誰でも驚いたことだろう。眠っていたのでその時のことは何もわからないから想像するしかない。
「何とかして中から出さないといけないと思ったけれど、大聖人ジーン様に止められた」
ジーン様は神聖石に触れることで私の状況を把握したらしい。そして、私が神聖石の中で保護を行っていることや、いつ石の中から出てくるのかわからないとも説明されたそうだ。
「ジーン様が言うのだから正しいのだとわかっている。でも、目の前にいるセシリアを見ていると、混乱していたよ」
私は何と声を掛けたらいいのかわからなかった。謝るのも変な気がするし、励ましを求められている雰囲気でもない。
「そうでしたか」
曖昧な返事をするしかなくて、それが申し訳ない気持ちになる。
「セシリアを責めているわけではないよ。あの時はあれが最善だったのだろう。それが聖女であり、大聖女の後継者の役目でもあったのなら、俺が横やりを入れる資格はない」
それでも、何か報せが欲しかったとカイル様の雰囲気がそう言っているように聞こえた。
「今度はちゃんと言ってから行動することにします」
「いや、今度があったら困るだろう。不吉なことを言わないでくれ」
帝都の結界が再び壊れる事になったら、また神聖石の中に入るかもしれない。カムイ様はもう大丈夫だと言っていたから、もうないと思うけれど念のため言ってみたら、カイル様が慌てたように顔を上げてから、嫌そうに片手を振った。私としてもまた3年眠ることになったら、知り合いがどんどん年を取っていって、自分だけ置いて行かれた気分になるだろう。
「3年経ったら、カイル様はいくつになりますか?10歳以上年が離れますね」
「・・・年寄りだと言われているように聞こえるが」
呆れたように言われて、私はカイル様と視線を合わせると笑った。
冗談で言っていることは伝わっている。こんな風に雑談ができるのがなんだか幸せな気がした。
「そういえばカイル様」
「どうした?」
笑ったところで私は大事なことを思い出した。
「約束の話をまだ聞いていません」
3年経ってしまったので、カイル様が覚えているかわからない。確かめるように尋ねてみると、カイル様はぴたりと動きを止めた。
「あぁ、あの約束か」
私にとっては昨日の話なのでよく覚えているけれど、カイル様も私との約束を覚えてくれていた。
「そうだな。ゆっくり時間が取れる日はあるだろうか?」
少し考えてからカイル様が質問してきた。私は神聖石から出て来たばかりで、今は3年後の帝都の状況把握をしなければいけない。
いつの間にか大聖女にまでなっていたから、今後の仕事も変わってくるはずだ。
私にゆっくりできる時間があるのだろうか?
「今は状況の確認と今後の相談を神殿側としなくてはいけないはずです。それに帝都も3年で変わったことがあるでしょう。とにかく今のことを知ることが優先されると思います」
起きたばかりでライム様ともしっかり話が出来ていない。
イリアナ先輩の呼び出しですぐに城に来てしまったし、これから他にも私に会いたいと思っている人がやってくる可能性もある。
やることはきっとたくさんあるはずだ。
「一息付けるまで待つよ。俺との約束を覚えてくれていただけでもありがたい」
「私にとっては昨日の約束ですから。忘れたりしませんよ」
「そうか。それなら俺と話がゆっくりできる時間ができた時に話すことにする」
どんな話なのか、あの時のことを思い出すとドキドキしてしまう。手の甲に触れたカイル様のキスも私は鮮明に覚えている。
「でしたら、それも約束にしましょう」
ゆっくり話ができる時間を作ること。これも約束にしてしまおう。
私が悪戯を思いついたように笑うと、カイル様はふっと笑ってくれた。




