目覚めの時
帝都の中を歩いて周囲を確認すると、誰もいない街の中に神聖力が満ちているのを感じる。
上を見てもしっかりとした結界が帝都を護っているのがわかった。
「よし」
今日も平和だ。そして静かだ。
どこを見ても人の姿はどこにもない。生き物がいないのはわかっているんだけど、それに関して一切の疑問が浮かばない。それが当たり前なのだとわかっているから。
誰もいないけれど建物はあるし、人が生活していそうな雰囲気はある。
それを不思議に思うこともなく、私は神殿に戻ることにした。
寝泊りは宿舎ではなくて神殿でしている。
大聖女様が使う部屋を使わせてもらっていた。
最初は申し訳ない気もしたけれど、誰もいないしどこで寝ても問題ないと思って使わせてもらっている。
あの部屋には大聖女か大聖人、そしてその後継者だけが読むことのできる本があるので、それを読む目的もあって使っていた。私が読んだことのある本はソフィア様から渡されていた1冊だけ。それ以外にも10冊近くの本が棚に置かれていて、誰に咎められるわけでもないし、私は読むことを許されているから読める時に読ませてもらっていた。
神殿に戻っても人々が生活している雰囲気だけはそこにある。
そのせいなのか、一度も寂しいと思ったことがなかった。誰かと会話をすることだってない。これが当たり前で不思議に思うこともなかった。
神殿の中に入ると部屋に向かうのではなく、最初に行くべき場所がある。
本来なら大聖女か大聖人の許可が必要なのに、ここには私1人だから許可は必要なくて、簡単に出入りができていた。
変わることなく神聖石は部屋の中央で床から少し浮くようにして淡い光を放っている。
「異常なし」
見た目で判断して何も問題がないことはわかった。
見た目というより部屋に入った瞬間に神聖石が放っていた力でわかってしまう。
問題ないことを確認してこの後何をしようか考えながら部屋から出ようとした時、神聖石がわずかに明滅した気がした。
「なにかしら?」
じっと見つめていると、再び神聖石が淡い光を明滅させる。さっきまで何ともなかったのにどうしたのだろう。部屋に満ちている神聖力にも異常があるようには思えなかった。
ただ神聖石だけが明滅を繰り返している。
近づいていくとさらに明滅が大きくなる。とはいえ、神聖力が乱れているわけではない。神聖石自体に危機が迫っている状況ではないようで、どうして明滅しているのかわからなくて首を傾げた。
ゆっくりと神聖石に手を伸ばしてみる。こんな時は直接触れて確認するのが一番だ。
私の神聖力を流して深部を確認すればいい。
そう思って何気なく触れると、途端に神聖石の力が私の中に流れ込んできた。
それと同時に神聖石の意志が私の頭の中で声となって伝わってくる。
『もうよいぞ』
「え?」
目を見開いて神聖石を見上げると、ダイヤ型の石が黄金の鳥に変わっていた。
長い首をもたげてくちばしが私の頭をそっと撫でる。
子供を褒めるかのように優しい触れ方に胸の奥が熱くなるのを感じた。
『ありがとう』
その言葉で私はもうここに居る必要がないんだと理解できた。
「もう、大丈夫なのね」
神聖力の乱れを感じることはない。きっと保護が終わったのだ。
そう思った瞬間、私は自分の状況を一気に理解した。
ずっと忘れていたことが頭の中に流れ込んでくる。
どうしていままで忘れていたのだろう。
神聖石に異常が起きて、私は大聖人ジーン様の許可を得て神聖石の保護をしていたのだ。
その時に黄金の鳥に触れて私は神聖石の中に取り込まれていた。
ずっと1人で帝都の中を走り回っていたけれど、それに疑問はなかった。それが当たり前で不思議には思わなかった。
今黄金の鳥が触れたことですべてを思い出した。
黄金の鳥がさらに輝くと部屋の中に光が満ちていく。
もう時間なのだと思うと、頭の中に声が聞こえた。
『お前の時間に戻りなさい』
その声を最後に私は意識が遠のいていくのを感じた。
次に意識が戻ったときには、目の前に知っている顔があった。
懐かしいはずだけど、少し雰囲気が違うような気がする。そこで思い出したことがあった。
「・・・・・約束」
彼とは約束をしていた。神聖石の保護が無事に終ったら、彼の話を聞くことにしていた。
その約束を果たせる時が来たようだ。そう思いながらも急激な眠気に襲われて私はすぐに意識を手放してしまった。




