過去
ずっと眠っていた。暗くて静かで、暖かい時や寒い時もあったけれど、ただただ眠っていた。
それがいつか光のある場所に出た。自分が放っている力が魔物を寄せ付けない力があるのだと知った人間が自分の力を利用して結界を作るようになった。
その代わり同じ力を持っている人間が力を注いでくれるので、自分は結界を作ることに応えていた。
力を注がれると気持ちよかった。静かに眠っているのも良かったけれど、暖かい物が自分の中に流れ込んできて嬉しいという気持ちが芽生えていた。
繋がりを持てたことが嬉しかったのかもしれない。
ずっとそうして力を外に放ってきた。その間にいろいろなことを学習した。
自分を必要としている人間たちは、自分を大切に扱ってくれる。他の仲間も遠くで同じように力を放っていることにも気が付いた。その中でも自分は一番力を保有しているのがわかっていた。
いつから自分に意志があったのかはわからない。長い時間をかけて自分は形成されて意志を芽生えさせたのだろう。周囲の情報を得ることで自我が成長していったようだ。
仲間と意思を通わせることはできないけれど、お互いにその存在だけは知ることができていた。
おそらく力で繋がっているのだろう。存在だけはわかる。
ずっとこのまま生きていくのだろうと思っていたのだが、いつしか力を注がれることがなくなった。
力を注いでいるのはわかるのだが、自分の中に入り込んでくるような力ではない。表面を撫でていくだけのちっぽけなものだとわかる。自分の中がどんどん空っぽになる感覚がその頃から出てきた。
それを寂しいと思うと同時に力を注いでくれないことで、代わりに力を放って結界を作っていた意味を失った気がした。自分は何のために力を放っているのかわからない。
不安定な気持ちが力に反映されたのか、結界に歪みが出始めた。亀裂が出たりして壊れていく。
ただ、その時になると不思議と力を注がれる感覚もあった。
お前は誰だ?
力を注いでくれる温かい力に気持ちが安定するのを感じていく。
だが、それも一時だ。
再び不安定になると、それが大きくなっていって結界が完全に壊れ始めた。
神聖力を注ごうとしている者がいたが、それは届かない。無意味な存在にもうどうでもよくなった。
そんな時、再び神聖力が自分の中に入ってきたのを感じる。
同じ力だ。お前は誰だ?
「私は、セシリア」
相手の声が聞こえた。
「セシリア=ローズネルです」
目を開くと目の前に小さな女が立っていた。自分は彼女を見降ろしている。
「あなたは、神聖石の核の姿ですね」
確信を持った彼女の声に自分ははっきりと存在を確認できた。
今まで意志として漂っていたはずなのに、確実な形が存在していることを気づかされたのだ。
彼女と違う姿をしているのもわかる。長い首に羽に覆われた体。大きな翼を広げると飛び当てそうだ。
この姿を知っている。自分は鳥の姿をしている。ただ黄金に輝いている鳥は知らない。おそらく自分だけだろう。
「とても綺麗ですね」
羽を広げた姿にセシリアと名乗った彼女は優しく微笑んだ。
巨体に怖がることはない。自分を信用しているのがわかる。
「どうか、神聖力を、結界を壊さないでください」
ずっと力を注いでくれていたな
「気が付いていたんですね」
会話が進む。声というものはないけれど彼女には伝わっている。
ずっと感じていた
誰かが結界を治している。そのおかげで今まで力を放つことを止めなかった。
でも限界はある。
結界を保ってほしいと訴えてくるセシリアは、ずっと自分に力を注いでくれている。それは温かくて穏やかで、気持ちがいい。
お前が力を注ぎ続けてくれるのなら、再び結界を作ってやろう
ずっと届かなかった力がやっと手に入った。その喜びもあって提案すると、セシリアは苦笑した。
「力が続く限りなら」
力が尽きてしまえば神聖力が届かなくなる。それは困るなと思うと、セシリアが手を伸ばしてきた。
「力の循環をすれば注ぎ続けることはできると思います。ただ、やったことがないので成功するかどうかわかりませんけど」
セシリアには何か方法があるらしい。やったことがないので不安があるらしいが、それでも自分に応えようとしてくれている。
それが嬉しかった。
ゆっくりと首を動かしてくちばしを彼女の手が届くところまで近づいた。
やってみるといい
失敗してもセシリアなら許そう。それに、他の方法を探して神聖力を注いでくれるかもしれない。それが無理でも、今まで届いていた神聖力のように時々力を注いでくれるはずだ。そうなれば寂しくない。暖かい気持ちが続く。
「はい」
その瞳が一瞬悲しそうに揺れたのは気のせいだっただろう。
自分へと注がれる力に意識が集中していくと、他のことは気にすることがなくなった。




