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混乱の神殿

「こっちだ」

手を引かれながら歩いていくと、薄暗い空間から一気に開けた場所に出た。

「ここは?」

「神殿の近くだ。北側に出たから南に下っていけばすぐたどり着ける」

カイル様の手を取ってお茶をしていた城の庭園から街に出ると思っていたけれど、何故か城の中に入ってしまった。不思議に思っていたら、そのまま何もない荷物が置かれている倉庫のような部屋に入った。

神殿に行くのではと思っていると、カイル様は何も言わずに壁を探り始めた。

すぐに壁の一部がへこんだかと思うと、目の前に人が1人通れそうな空間が現れて私は戸惑うしかなかった。

どうやら地下を通り抜ける隠し通路のようで、これは皇族が緊急時に外へ出るために使用されるもののようだ。

教えてもらってから、そんな大事なことを私が知ってよかったのか疑問に思ったけれど、きっと皇太子殿下の許可があったのだろう。

地上は混乱した人々で道が塞がっている可能性が高く、神殿に到着するのに時間がかかる。今は緊急のため時間をかけずに神殿へと行ける道筋を用意してくれたようだ。

地下通路は薄暗くて神聖石の欠片を使って足元を照らしながら歩いていく。その間カイル様はずっと私の手を離さなかった。薄暗くて危ないからだと思ったけれど、なんだかドキドキしてしまったことは内緒にしておこうと思う。

どれくらい歩いたのか、どこの下を歩いているのかさっぱりわからないまま、導かれるように歩いていくと、知らない建物に出た。

広い部屋には何が入っているのかわからないけれど、いくつかの大きな箱が置かれているだけで、それ以外には何もなかった。

「貴族が所有している屋敷ということになっているが、皇家所有の屋敷だ」

そんな説明をしながら部屋から出ると廊下を歩いていく。

それほど大きな屋敷ではないようで、下級貴族が所有していそうな感じだ。調度品もほとんどなくて、かろうじて人が住んでいそうなくらいの雰囲気しかない。

玄関から出て初めて神殿が近いことを認識できた。

神殿の裏側が見えることから、神殿より北側に出たこともわかる。

「思っていたよりも落ち着いているな」

カイル様が周りを見渡して呟いた。

私も屋敷を囲う塀から外に出ると、いつもと変わらない雰囲気がそこにあった。

神殿の北側は貴族と平民が混在して住んでいる区画だ。貴族の中でも下級貴族や平民でも裕福な者たちが住んでいるため、平民だけが住んでいる区画のような雑然とした雰囲気もない。

落ち着いているのを見ると、結界に問題が起きたことを誰も知らないのではないか。そして、避難が始まろうとしていることを誰も予想していないのだろう。

避難が始まればきっとこんなに静かでいられるはずはない。

「道が空いている今神殿に行くべきだな」

混乱すれば近くに見える神殿でも行くまでに時間がかかってしまうだろう。今のうちに神殿に到着しておきたかった。

「行きましょう」

私が先を歩こうとすると、カイル様に手を引かれた。ここに来てもまだ手を離していなかったことに気が付く。さすがに人がいる場所でこのままは恥ずかしいと思い手を離そうとすると、カイル様が歩き出してそのまま引かれるように私も歩き出した。

どうやら手を離してくれる気はないようだ。

「護衛より先に行くなよ」

先を歩きながらカイル様が言う。

神殿に急がなくてはと思って先を歩こうとしたけれど、それを止めたかったようだ。

未来の大聖女として護衛騎士を任されたカイル様にも責任はある。

ここはカイル様に任せる方がいいと判断して後ろをついて行くと、不意にカイル様が立ち止まった。

何かあったのだろうかと道の先を窺おうとしたところでカイル様が振り返る。

「セシリア=ローズネル」

「はい」

急に名前を呼ばれて反射的に返事をしてしまった。急にどうしたのだろうと首を傾げたら、カイル様の優しい眼差しとぶつかった。

ドキッとしたことは内緒にして平静を装っていると、カイル様がフッと笑みを見せた。

端正な顔立ちの不意打ちの笑みは破壊力があることをこの人は理解しているのだろうか。

「この状況が解消されたら、話したいことがある」

「お話ですか。それは今ではなくて?」

今話してしまえばいいように思うのだけど、カイル様は首を横に振ってしまった。

「今はやめておく。それに、話があるという約束があった方が頑張れることもあるだろう」

聞かなければいけない話があると思えば、この危機的状況を乗り切ろうとする原動力になる。カイル様はそう考えているらしい。

ご褒美ではなくて約束というのが彼らしいのかもしれない。

「わかりました。神聖石の保護ができたら聞きます」

なによりも神聖石の保護が結界を戻せる方法だ。平和な生活が戻ってきたら、その時はカイル様とゆっくり話をするのもいいかもしれない。でも、その時には私は大聖女になっているのかもしれないけれど。

「あぁ、約束だ」

カイル様は穏やかに頷くと私の手を取って、そっと手の甲に口づけた。優しいキスではあったけれど、貴族令嬢とはいえ初めての経験に私はどう対応したらいいのかわからなくて黙って受け入れてしまった。

「カイル様」

「俺も約束のために生き延びることにする」

その言葉に、この約束は私だけでなくカイル様にとっても重要なことなのだとわかった。

結界が壊れたことで魔獣が侵入してくる可能性が高まった。そうなれば聖騎士であるカイル様は魔獣と戦うことになる。生き残らなければ私に話したいことを話せなくなる。だから約束を守るために生き延びるという強い意志を持つことができると考えた。

聖騎士であるカイル様が魔獣に負ける姿は想像できないけれど、約束が戦うための糧になるのならそれもいいかもしれない。

とはいえ、今のところ魔獣が侵入したという騒ぎにはなっていないので、戦いが始まるかどうかも定かではない。

「そうですね。お互いのために約束しましょう」

どうなるのかはわからないけれど、約束を糧に私が笑顔で言うと、カイル様も笑みを零した。

ここで話は終わって再びカイル様を先頭に神殿へと歩き出す。

歩きながら周囲をそれとなく確認してみた。

今のところ魔物の侵入はなさそうだ。とはいえ、結界が壊れたことを魔物が察知したら、一気になだれ込んでくる可能性もある。警戒を解くことはできないだろう。

「少し騒がしくなってきたな」

神殿に向かって歩いていくと、外に出た時よりも人が多くなってきたことがわかる。しかも誰もが神殿に向かって歩いている。

「神殿に近い場所から避難が始まっているようですね」

随分と迅速に避難している。先ほど結界が壊れたのに、神殿側がすぐに対応してくれたのだろう。

込み合う程ではないので、流れに乗るように私たちも歩みを進めていく。

「神殿に入ったら、大聖人様の執務室に行きましょう。そこに居なければ神聖石の部屋にすでに入っている可能性もあります」

許可がなければ入れない部屋だ。大聖人ジーン様は体を壊しているから無理はできない。神聖石の保護をするならリリス様が先に入っている可能性がある。そうなるとジーン様は執務室で待機している可能性があった。それならすぐにでも会えるけれど、もしも神聖石の部屋に入っていたら出てくるまで待つか、補佐聖人なら連絡ができるかもしれない。

とにかく私はリリス様ではなくジーン様を頼るつもりでいる。補佐聖女を辞めると言ったこともあるし、リリス様を頼るといろいろと対価を求められそうなので頼りたくない。

それよりも私の事情を知っているジーン様に話した方がすんなり神聖石の保護をさせてくれるはずだ。

「何としても神聖石の部屋に行かないと」

「力づくが必要なら協力するぞ」

そんな物騒なことを言われたけれど、本当に最悪の場合は頼んでしまいそうだ。でも、許可を得ていない者が無理に神聖石の部屋に入ろうとしても入れない何かがあると聞いたことがある。

きっと第3都市の神聖石の時と同じかもしれない。あそこも部屋に辿り着けないと聞いていた。それがなぜかまっすぐの道だったので、たどり着けないという話に違和感はあるけれど、きっと何かがあるのだろう。

「そんなことは起きないと思いますよ」

苦笑すると、カイル様が前を向きながら肩を竦めた。前を歩いているためその表情はわからない。

カイル様と話をしていると少しだけ緊張がほぐれた気がする。神殿に近づくと自然と体に力が入っていた気がして、それをほぐしてくれたような気もするけれど、違うような気もした。

そんな会話をしていると神殿の入り口が見えてきた。

「避難してきた人を振り分けているようですね」

神殿は壁ではなく背の高い鉄格子の塀に囲われている。神殿に入るためには正門を潜らなければいけないけれど、そこに人が群がっていた。正門で入ってきた人たちをどこに行かせるのか指示をしているようで、神殿内に入れるのではなくまずは庭に人を集めているのがわかった。

神殿には怪我人や病人を優先的に入れるようにしているようだ。そうしないと一気に人が押し寄せて神殿内は混乱するだろう。

そう思って正門に近づくと、怒号のような叫びが聞こえてきた。

「早く中に入れろ!」

男性の声が聞こえてきて、正門の前で聖人に向かって50代くらいに見える男性が殴り掛かりそうな勢いで怒鳴っていた。

「こっちは急いで避難してきたんだぞ。すぐに保護してくれるのが神殿の役目だろ」

魔物がまだ侵入してきているわけではない。騒がず神殿の指示に従ってくれた方がスムーズに作業ができるのに、ここで騒がれたら、余計に場を混乱させる可能性がある。

「順番に誘導していますので、もう少しお待ち下さい」

対応している聖人は、少し顔色を悪くしながらも毅然と話している。怒鳴られたことに驚いても冷静に対応できていることが素晴らしい。

などと感心している場合ではない。周囲の人も不安そうに顔を見合わせているので、このまま不安が広がると暴動になるかもしれない。とにかく落ち着かせなければと思って声を掛けようとした時、隣にいたはずのカイル様がいつの間にか男性の背後に立っていた。

次には男性を押さえつけるように腕を捻り上げていた。

痛みに声を上げるよりも先に男性が地面に膝をついてしまう。何が起こったのかわかっていないようで何とか首を回して後ろを確認しようとしていた。

「こんなところで騒ぐな。他の避難してきた人たちへの迷惑になる。まだ魔物が侵入してきたわけでもない。神殿の者たちの指示に大人しく従って行動するように」

力ずくの注意になってしまったけれど、聖騎士の恰好をしているカイル様に気が付いて、声を出すことも忘れたように男性が何度も頷いていた。

大人しくなったことを確認すると、カイル様はすぐに男性を解放した。

腕を押さえた男性に聖人はすぐに庭へと行くように指示を出していく。

周囲の人たちは明らかにほっとしたような雰囲気を醸し出していた。これで順調に神殿に入れるという安心感があるようだ。

私はそのままカイル様に追いついて一緒に神殿の中へと入った。

途中、数人の聖女や聖人とすれ違ったけれど、みんな忙しそうで声を掛けられなかった。

出来れば神殿の中がどうなっているのか確認したかったけれど、大聖人様を探す方が先になりそうだ。

「まずは大聖人様の執務室に向かいましょう」

そこに居なければ神聖石の部屋に行くしかない。

神殿に入ると大広間に大勢の人がいた。

怪我人、病人はふだん部屋に案内されるようになっているけれど、ここに全員集められて、それの付添人がいるため結構な人数になっている。その人たちを縫うように聖人や聖女が動いて治療をしているようだ。

その光景を横目に奥へと進む。

廊下を進んでいくと聖女の集団が歩いてくるのが見えた。

その中に見知った聖女がいて、向こうも私に気が付いたようで集団が通り過ぎようとした時に、彼女だけ立ち止まった。

「セシリア、どこにいたのよ。もう神殿内は大騒ぎよ」

「お城にいたの。皇太子殿下と面会していて」

あまり言いたくなかったけれど、長々と言い訳している時間もないはずだ。素直に皇太子殿下の名前を出しておいた方が話が進むだろう。

「皇太子殿下・・・」

驚いてカリナは追及することもしなかった。私がいなかったことを責めることもできずに、皇太子殿下という存在を想像して固まってしまった。

さすが皇族の力は名前だけでも威力がある。

「それよりも、今どういう状況かしら。結界が壊れたことは全員把握しているのよね?」

結界に異変が起きたことは神聖力を持っている者なら誰もが気付ける。詳しい状況まではわからなくても危険な状況だということは全員が理解しているはずだ。

「結界が一部壊れたのはわかるけど、詳しい場所や被害状況はわからない状態。ただ、大聖人様が詳しく把握できていたみたいで、すぐに神殿を避難所にすることを宣言したわ」

神殿に近い場所も結界が壊れている。近くの住民はすぐに神殿に避難するように説明があったらしい。結界に異変があると聞かされたら避難を促された人たちは恐怖でパニックになりかねない。そこは神殿が保護するという言葉が効果を発揮したらしく、誰もが冷静に神殿に来てくれていた。さっき見た人はたまたまだったのだろう。

「避難者の案内と、普通に怪我人や病人が来るからそちらの担当にみんな振り分けられているわ。ただ、力の強い聖女や聖人は別の場所に集められて、神殿を護れる結界を張る準備をしているの」

私の姿が見えないことから結界を張るために呼ばれていると思っていたカリナは、私を見つけて驚いたらしい。

「リリス様と補佐聖女達は?」

「知らないわ。どうしているかも聞かないし、神聖石の保護に向かっていると思うけど」

大聖女であるリリス様は神聖石の保護をしているのだろう。そうなると大聖人様は執務室にいる可能性がある。

交代で保護をし続けるか、一緒に保護をしているのかまだわからないけれど、とにかく大聖人様に会うのが重要だろう。

「セシリアも結界を張るメンバーに呼ばれていると思うから、そっちに行った方がいいわよ」

カリナが廊下の奥を指さす。私の力を知っているから、治療よりも結界を張る実力があることをわかっている。

頷いてカリナと別れたけれど、結界を張るための場所に行くつもりはない。違う用事があると話してしまうと追及されそうだったので、とりあえず頷いておいたのだ。

「執務室に行きましょう」

後ろを付いてくるカイル様に言う。

「結界の方はいいのか?」

「そっちは他の人たちに任せます。私がするべきは神聖石の保護だと思うから」

帝都を護る神聖石さえ保護できれば他の結界は必要なくなる。とにかく神聖石に何が起きているのか確認して保護することが最重要だ。

さらに奥へと進んでいくと、女性の叫び声が聞こえてきた。落ち着きのない声に聞き覚えがある。

それは1人ではなく2人いるようだ。

早足に進んでいくと、見覚えのある癖のある赤髪と茶髪の女性が眼鏡をかけた男性にむかって何かを訴えていた。男性は面倒そうに眼鏡の淵に触れている。どちらも見知った顔だった。

補佐聖女ヒーリスとユリアが補佐聖人のロンデル様に噛みつきそうな勢いで迫っていた。

「私たちだって立派な補佐聖女よ。なんで神聖石の部屋に行けないのよ」

「あそこは大聖女と大聖人が入ることができて、補佐は許可がないと入れないことを知らないのか?」

「その許可を出してほしいと言っているのよ」

「それなら大聖女に頼めばいいだろう」

「リリス様は先に部屋に行ってしまって、私たちは許可が取れないからジーン様の許可が欲しいのよ」

話が聞こえてきて、どうやら補佐聖女達は神聖石の部屋に入りたいけれど、リリス様の許可がなくて入れないようだ。そこで、大聖人のジーン様の許可をもらおうとしていた。でも、ロンデル様が邪魔をしていて許可がもらえないという現場のようだ。

なぜ神聖石の部屋に入ろうとしているのか謎ではある。補佐聖女達の力はなんとなく把握している。彼女たちでは神聖石の保護の手伝いをするには弱い。それよりも大広間で治療をした方が良いと思った。

こんなところで揉めていると邪魔になってしまうからどけてほしいなと思っていると、ロンデル様と目が合った。眼鏡の奥の瞳がはっとしたように私を捕らえたように思えた。

「セシリア=ローズネル」

名前を呼ばれたことでヒーリスとユリアも私に気が付いて振り返る。その顔が明らかに怒りを含んでいた。

「あんた、なんでこんなところにいるのよ」

「今さらリリス様に謝りにきたなら無駄よ」

2人から責められるような言葉を向けられたけれど、どうでもよかった。

「何を揉めているんですか?」

責めてくることは完全無視で、とりあえず今ちょうど通りかかって話を聞いてしまった風を装ってみた。すると、ヒーリスが叫ぶように私に怒りをぶつけてきた。

「あんたには関係ないでしょう。私たちは補佐聖女としてリリス様の力になろうと神聖石の部屋に入る許可を取りたいだけよ」

私に怒鳴っても仕方がないはずなのに、ロンデル様が相手にしないことで私に怒りをぶつけてきたようだ。完全なとばっちりである。

ため息をつきたくなっていると、後ろにいたカイル様が私の前に立った。

「文句を言う相手を間違っているぞ。それに、君たち程度の力で神聖石の保護の手助けになるとは思えないのだが」

護ってくれるのはありがたいけれど、完全に喧嘩を売っている。ヒーリスたちが余計に怒り出すのではないかと心配すると、ロンデル様がまったくだと言わんばかりに大きく頷いたのが見えた。

「ろくに仕事もしていない補佐が、緊急時に力を発揮できるとは思えない。それに力のある者たちなら、君たちがどの程度の神聖力を持っているのかわかっている。はっきり言って部屋に入ったとことで足手まといにしかならない」

はっきり言われて補佐聖女2人は言葉を失ってしまったようだ。反論したくても、ロンデル様が2人の神聖力がどの程度か知っていると言われて自覚があるのだろう。手助けができると言い張れなくて視線を彷徨わせていた。

「どうせ、神聖石の近くにいられれば魔物も来ないし、一番安全な場所だと思って入りたいと訴えて来たんだろう」

神聖石はどれだけ小さくても神聖力を持っていれば魔物は嫌う。

帝都を護れるほどの神聖石なら魔物が神殿を襲撃することはなく、それでもより安全を確保するために神聖石の部屋に行きたいと考えたようだ。

ロンデル様の推測は当たっていたのか、2人が苦しそうに表情を歪めた。

この緊急時に自分の身だけを護ろうとするなんて、なんて身勝手なのだろう。

私の中に怒りが芽生え始めると、カイル様が前に進んだ。

補佐聖女2人の前に立って腕を掴むと私たちが歩いてきた廊下の先へと押し出す。

「な、なにを」

ユリアが驚いたように口を開くと、カイル様が冷たい声で言い放った。

「自分達の身を護る前に、神殿に避難してきた大勢の人を保護するほうが先だろう。聖女としての役目も果たせない者たちが、補佐聖女だからと好き勝手出来ると思うな」

そこに怒りは感じられない。それよりも役目を果たさない聖女達を軽蔑している感情が含まれているように感じられた。

2人も同じものを感じたのか青い顔をしている。

「わかったなら今すぐ大広間に行け。治療を待っている患者がそこにいる」

聖騎士のカイル様に指図する権利はないけれど、2人は迫力に負けたように顔を見合わせると急いで大広間に向かって走り出した。

魔物だけじゃなく聖女まで退けてしまうなんて、頼りになる人だなと私は心の中で感心していた。

「セシリア、君はどこに行っていた?」

静かになった廊下にロンデル様の声が響いた。

「すぐに結界を張るためのメンバーと合流しなさい。君がいればすぐにでも神殿に結界が張れる」

私の力に関して話を聞いているロンデル様は結界を形成するためのメンバーに私を入れるつもりでいたらしい。でも、私はそれよりも神聖石の保護をしたい。

「神聖石の保護をするためにここに来ました。大聖人様に会って、部屋に入る許可をもらいたいのですが」

「神聖石の保護?」

意外に思ったらしく、ロンデル様は驚いたように言葉を繰り返した。

「それは大聖女とジーン様がすることになる。とはいっても、大聖女はたいして力にならないと思っているが」

「それがわかっているのなら、私を部屋に入れさせてください」

リリス様では役不足だ。それは私もロンデル様も理解している。だからこそ、大聖女の後継者としてソフィア様に期待された私が代わりに入った方がいい。

「ジーン様は先ほど神聖石の部屋に向かった。私も追いかけるつもりでいたが、途中で補佐聖女につかまって今の状況になっていた」

「神聖石の部屋に向かわれたんですか?」

今から追いかければ間に合うかもしれない。

すぐにでも神聖石の部屋に向かおうとしたけれど、それをロンデル様に止められた。

「私も一緒に行こう」

追いかけるつもりでいたと言っていたので、一緒に神聖石の部屋に向かうことにした。

部屋に入ってしまうと許可をもらうことができない。リリス様はすでに部屋に入っているようだし、許可をもらおうと思っても私が大聖女の後継者だということを最初から説明しなくてはいけないくなる。面倒だし、時間もない。できればジーン様に会いたい。

自然と廊下を走ることになり、ロンデル様を先頭に神聖石の部屋へと急いだ。


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