帝都へ出発
「いろいろとお世話になりました」
「その後の経過を見ていても、神聖石と結界には今までの異常は見受けられませんでした。セシリアさんの保護は成功していると結論付けて大丈夫です。私たち第3都市の神殿として帝都の神殿に報告の手紙を書きましたので持って帰ってください」
私が挨拶をすると、ラニア様が手紙を差し出してきた。神聖石の保護が無事に終わり、結界の異変もなくなったという報告が書かれている。
すぐにでも帝都に戻るかと思ったけれど、神聖石と結界の経過を見守るため私たちの滞在も2日伸びた。
特に問題が起きないと私が動くこともないため、神殿にいる間は暇になってしまった。その間にラニア様から前大聖女のソフィア様の話を聞けたことは嬉しかったけれど、それ以外は少しだけ神殿の聖人や聖女達と一緒に怪我人の治療をさせてもらうことになった。
もちろんザックさんも手が空いてしまったので、一緒に仕事をしていた。
ラニア様とベリル様がもう大丈夫だと判断したことで、私たちは第3都市を離れることになった。
「ありがとうございます」
手紙を受け取るとラニア様は満足したような表情をして頷いた。隣に立っているベリル様は何か言いたそうにしながらも口を閉ざしてじっと私を見ている。何を言いたいのかなんとなく予想はついていた。
結局私は大聖女になるか、ならないかの判断を口にすることはなかった。はっきりと宣言できればみんな安心できるのかもしれない。でも、まだ心の奥に迷いがあることも確かなので下手に言うことを避けていた。まだ考える時間が欲しい。
ベリル様もそのことは理解しているのだろう。だから口にしたいけれど何も言えないで複雑な表情をしている。それが申し訳ないと思うべきなのかもしれないけれど、私は内心面白いなと思ってしまっていた。
最初に私たちのことを敵視するような態度を取っていたのだから、少しだけ意趣返しの気分を楽しんでいる。
「帝都に戻ったら、きっといろいろと大変なことがあるでしょう。遠い場所からですが、私たちにもできることがあれば協力します。そのことを忘れないで」
「何かあればすぐに連絡するといい。できる限りのことはするつもりだ」
ラニア様は私が答えを出していないことを問い質すことはしない。宣言していたように私がどんな答えを出したとしても味方でいてくれるという言葉を実行しているのだろう。その態度に私は安心していた。味方がいるということを忘れてはいけない。
ベリル様も答えを聞きたそうにしながらも、私の味方であることだけは言ってくれた。
「ありがとうございます」
もう一度お礼を言うと、出発の準備が出来たようでカイル様が呼びに来た。
「出発するぞ」
帰りも馬移動になっている。帰りはゆっくりと帰ることになっているので馬車ではないけれど少しだけ気が楽だった。
もう一度ラニア様とベリル様に挨拶をしてから私はカイル様の馬に乗せてもらった。
ザックさんはベン様と一緒だ。
ベン様とイスカ様は私が大聖女の後継者であることを知らされていない。普通の聖女として考えているので変わらない対応をしてくれていた。そして、カイル様は全部知っていて私を聖女として扱ってくれていた。
ラニア様とザックさんは私の味方になってくれると言っていたけれど、カイル様とは何も話していない。皇太子殿下の命で護衛をしているカイル様は、帝都に戻ったら殿下にすべてを報告することになる。その話を聞いて殿下がどう判断するのかわからないけれど、カイル様の意見はそこに入ることはできないのだろう。自分の意見を言えないから、私にも何も言わないと思っている。だから大聖女の話は私からしないつもりでいた。
「帰りは行きとは違う道になる」
背後からの声に私はお願いしていたことが叶ったことを知った。
「行っていない町や村に寄ってくれるということですか?」
「ザックも同意見だったからな」
第3都市から帝都までの道のりは、来た道を戻るのではなく別の道をたどって帰りたいと言っていた。
そうすることで行きとは違う村や町に寄ることができて、そこの神聖石を確認することができる。
第3都市に近い場所は第3都市の神殿が定期的に確認をしていると思うはずなので心配していないけれど、帝都に近くなれば帝都の神殿が管轄する村や町がある。大聖女リリス様は巡礼をしていないし、大聖人様は帝都から出られない状況だ。定期的な巡礼が行われていないことを考えると、最初に立ち寄った村のように神聖石の保護をしばらく受けていない場所もあるかもしれない。
急いで帰る必要もないので、帰り道にある村や町だけでも確認をしておきたいと思った。
私の提案にザックさんも同意してくれたので、行きとは違う道で帰ることになったようだ。
「ありがとうございます」
お礼を言うとカイル様は黙ってしまった。どうしたのだろうと後ろを振り返ることもできないので首を傾げると、カイル様が小さな声で言ってきた。
「大聖女の巡礼を代わりにやるのなら、君が大聖女であればいいのに」
その言葉に体が固まったのを感じた。ずっと何も言わないでいたカイル様が自分の意見を口にした。
みんなが思っていることを代弁したような気がして、私は言葉を詰まらせた。まだ答えを完全に出しているわけではないから、変なことを言えない。
「すまない。君を困らせたいわけじゃない。俺が感じたことを口にしただけだ。気にしないでくれ」
そう言われても、やっぱりみんな考えていることは一緒なのだとわかって、複雑な気持ちになる。
私が黙ってしまうと、カイル様がとても優しく腕をポンポンと叩いてきた。労わるような触れ方に、申し訳ないという気持ちが混ざっていることがわかった。
「帝都に戻るまでまだ時間はある。しっかり考えて自分の先の未来を見据えたらいい」
「・・・カイル様は私がどちらの答えを出してもいいと思っていますか?」
ラニア様とザックさんは私の意見を優先してくれると言ってくれた。神殿の関係者ではないカイル様はどう思っているのか聞いてみたくなった。
「俺は皇太子殿下に仕えているから、殿下はきっと君に大聖女になってほしいと考えて行動するだろう。そうなれば俺はそれに従って動くことになる」
つまり大聖女になれということだろうか。
「ただ、俺自身の意見を言っていいのなら、セシリアの選びたい道を選べばいい」
個人の意見を言われて、私は振り返りたくなった。今カイル様はどんな顔で自分の意見を言っているのだろう。
「そう簡単になれる存在ではないけれど、強制的にやらされるべきではないだろう。神殿内のことは詳しくないが、聖女や聖人は、自らの意思で神殿に赴いて力があることを判断してもらってなれる存在だろう。みんな自分で考えて聖女や聖人になったはずだ」
だから大聖女も自分の意思でなってほしいと言いたいようだ。
つまりラニア様やザックさんと同じ意見だと思っていいのだろう。ただ、カイル様は皇太子殿下の指示があれば動くしかない。私がどんな答えを出したとしても、殿下の考えが優先される。そういう立場なのだから仕方がない。
それでも、カイル様本人の意見を聞けたことは貴重だったと思った。
「まだ帝都まで時間はありますから、ゆっくり考えます」
それが今の私が言える精いっぱいだ。
それでもカイル様は納得したようにフッと笑ったのを感じた。
「ゆっくり考えればいい。帰りは行きより時間をかけて帰ることになるから」
行きが強行的な日程だっただけで、帝都までの帰りが普通のはずなのに、何故かたっぷり時間があるような錯覚になった。
順調に進めば5日で帝都に着くだろう。それまで考える時間がある。
行ったことのない村や町に行くことになるから、そこで人々と触れ合ったら考えがまとまるかもしれない。そんな期待も持ちながら私は第3都市を離れることになった。




