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味方がいる

ノックの音で私は目を覚ました。

控えめな音だったけれど、すぐに起き上がった。

「はい」

「ラニアです。少しお話をいいでしょうか?」

どれくらい眠っていたのか窓の外を見てみると、太陽が真上にある。ちょうどの昼のようだった。

少しの睡眠だったけれど、頭がすっきりしているのがわかる。懐かしい夢を見たことで心が落ち着いていることも気が付いた。もう少し余韻に浸っていたい気もしたけれど、ラニア様を待たせるわけにもいかないので、すぐにベッドから降りて扉の前に立った。

扉を開けるとラニア様が神妙な顔つきで立っていたことに少し驚いた。

「入ってもいいかしら?」

「どうぞ」

廊下で話せる気軽なことではないのは、ラニア様の様子からもすぐにわかる。他に誰もいないことを確認してから部屋に入ってもらった。ベリル様も一緒なのではと思ったけれど、どうやら1人で来たらしい。

部屋には椅子が1つしかないので、ラニア様に椅子を勧めて私はベッドに腰掛けようとした。

「このままで」

椅子を示して私がベッドに腰掛けようとすると、ラニア様は部屋に数歩踏み込んだだけでその場に立ったまま話を始めた。ラニア様が立っているのに私だけ座ることもできなくて、向かい合って立つことになった。

「どうしました?」

一応尋ねてみたけれど、私が大聖女の後継者だということに関わりのある話であることは予想がついている。

「いろいろと1人で悩まれているだろうと思いまして、少しだけ私の意見も話しておくべきだと考えました」

現在の大聖女はリリス様になっているけれど、ラニア様はリリス様を大聖女として認めている様子ではなかった。だからこそ私が大聖女の後継者だと知ってすぐにでも大聖女の交代をさせたいと思っているはずだ。帝都に戻り次第名乗り出るようにと意見しに来たのだろう。そんな予想をしながら、ラニア様の言葉を待った。

「まずは、私はセシリアさんの出した答えに従うつもりです。あなたの味方であることを約束します」

そう宣言されて、どう返したらいいのかわからずに私は曖昧に頷いてしまった。

味方だと言われても、ラニア様が私を大聖女にしたいと考えているのは変わらないはずだ。

「もちろん、セシリアさんが大聖女になると宣言してくれれば、嬉しいことではありますが、もし、このままでいたいと考えているのなら、無理にあなたが大聖女の後継者だと言いふらすようなことはしません。このまま隠し続けることに協力します」

すべては私の考え次第で、ラニア様は強要することはないと言ってきた。

「私が大聖女にならなくてもいいということですか?」

「できればなってほしいですよ。でも、無理に大聖女にさせてしまえば、セシリアさんの気持ちを捻じ曲げることになります。そんなことをしては本来の神聖力を発揮することができなくなって、大聖女として相応しい対応ができなくなると思います。私はそちらの方が危険だと思っています」

神聖力は使う人間の気持ちで変化することがある。やる気がない人間がどれだけ治療をしても回復が遅くなる。逆に怪我人をしっかり治したいという強い気持ちがあると早く治療ができることもある。ただ、もともとの神聖力の量でも違いが出るので、気持ちだけがすべてではない。

「セシリアさん自身から大聖女としての役目を果たす意志を持ってもらわなければ、きっと周りもついてこないと思います」

事情を知っているラニア様とベリル様は第3都市にいるのでいつでもすぐに協力してもらえるわけではない。カイル様は護衛騎士をしてくれているけれど、神殿にとっては部外者ともいえる。唯一味方として動いてくれるのはザックさんになるだろう。それ以外の人たちは急に大聖女が私だと公表しても疑って誰もついてこないし、頭がおかしくなったと思われて嫌悪される可能性だってある。

ある程度の味方を増やしたうえで大聖女の後継者だと名乗らなければいけない。その前に私自身が大聖女になるという強い意志を持っていなければ、きっと誰も私を大聖女として扱ってくれないだろう。

最初に肝心なのは私の意思だとラニア様は言っている。

どんな答えが出ても、ラニア様はそれに従うという強い意志を示してくれた。

「私の気持ちをちゃんと伝えておきたかっただけです。味方がいるということは心強いことになるでしょうし、気負う必要がないということも伝えておくべきだと思いました」

1人で悩んでいても周りには私を支えてくれようとしている人がいる。それを伝えたかったんだと思った。

「ありがとうございます」

絶対に大聖女になれと圧力を掛けに来たのだと最初は思ったけれど、ラニア様はそれも見抜いていたのかもしれない。私が身構えないように、自分の気持ちを伝えてくれた。

なんだか心が少し軽くなったような気がした。

「話はそれだけです。いろいろと考えることもあるでしょう。今日はゆっくり休んでください」

神聖石の保護は終わったので、明日には帝都に向けて出発することになるだろう。

ラニア様は満足したように微笑むと部屋を出ようとした。すると扉を開けた瞬間ぴたりと動きを止めてしまう。

どうしたのだろうと横から覗き込んでみると、扉を開けた先に驚いた顔をしたザックさんが立っていた。扉を叩こうとしたのか右手を上げて固まっている。

「もしかして、先を越されたのかな?」

固まること数秒。ザックさんがラニア様をじっと見つめてから破顔した。

「そのようですね」

ラニア様が笑いを含むように言うと、ザックさんは肩を竦めた。

「一緒に任務をしてきた仲間として僕が一番にと思ったんだけど、ラニア様の方が先でしたね」

2人はお互いに通じ合っているような話し方をしている。私は首を傾げて2人を交互に眺めることになった。すると、ラニア様が私を見て微笑んだ。

「セシリアさんの味方は沢山いるのかもしれませんよ」

それだけ言って部屋を出て行ってしまう。言っている内容を理解するよりも先に今度はザックさんが部屋に入ってきた。

「ラニア様が何を言ったのか大体想像がつくから、僕からは手短に言うね」

私が返事をするよりも先にザックさんはにこやかな顔で口を開いた。

「僕はセシリアさんの出した答えに従うから。周りの事なんて気にしないでセシリアさんは自分の思った通りに答えを出したらいい。大聖女になるなら全面的に応援するし、なりたくないなら何も言わないよ」

そう言うと部屋を出て行こうとした。呼び止めようとして、急に振り返る。

「ただ、大聖人様には報告しないといけない。それでも、セシリアさんの意思を尊重してくれると僕は思うよ」

片手を上げて手を振るとそのまま部屋を出て行った。

その間に私が声を出す暇がなかった。

突然静かになった部屋で、私はしばらく呆けたように立っていることになった。


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