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幼い私

「大聖女様。何か不備がありましたら、いつでもお声を掛けてください」

「ありがとう。お世話になります」

優しい笑顔を向けられて私は嬉しくて仕方がなかった。

大聖女ソフィア様が私の村に来てくれたことも嬉しいが、私の家に泊まってくれることで接点が増えたことが何よりも嬉しかった。

将来聖女になりたいと思っていた私は、目の前にいる憧れの大聖女に心が躍っていた。

いつもなら第5都市の神殿から見知った聖人が神聖石の保護のためにやってくるのだけど、今回は大聖女の巡礼で、大聖女様が訪れてくれた。

「小さな村ですから、不便があるかもしれません。いつでも声を掛けてください」

部屋に案内するように父に言われて、私はドキドキしながらもソフィア様を一番いい部屋に案内していた。

その光景を見て、これは私の過去だと気が付いた。

ソフィア様のことを考えていつの間にか眠ってしまったため、昔の夢を見てしまっているようだ。

そう自覚すると、この先に起こることがすぐにわかった。

部屋に案内した私はソフィア様が椅子に座って一息ついたところで、突然話しかけたのだ。

「あの、私も将来は聖女になりたくて神殿に行くつもりでいます」

案内したのならそのまま部屋を出るのが普通だ。貴族令嬢としても大聖女に対して失礼なことをしていると今ならわかるけれど、当時の私はソフィア様を目の前にして興奮していたようだ。

「あなたも神聖力があるのね」

いきなり話しかけたにも関わらず、ソフィア様は嫌な顔をせずに私の話を聞いてくれた。

「定期的に来る聖人がいるのですが、彼が私の神聖力を調べてくれて、素質があると言っていました。将来は聖女になれるだろうって言われました」

私はもっと幼い頃に聖女になれるだけの神聖力があることを聖人に見抜いてもらっていた。まだ幼いためすぐに神殿に行くことはできないけれど、成人したら神殿に行って正式な聖女としての資格をもらうことを勧められたことを話した。

そんな私にソフィア様は最初驚いた顔をしてから、すぐに嬉しそうに微笑んだ。

「新しい聖女が誕生してくれたら私も嬉しいわ。いつか神殿を支える立派な聖女になってくれることを期待します」

聖女も聖人も限られた人間だけがなることを許されている。その数はそれほど多くないことも聞いていたから、新たな人材が見つかったことをソフィア様は喜んでくれていた。

私も嬉しくなってソフィア様に近づくと手を差し出していた。

今考えると大聖女様にものすごく失礼な態度だったと思う。でも、まだ成人していない子供の私のしたことをソフィア様は寛大に許してくれていたのだろう。

「少しですけど、治療の方法も教わりました」

その時のソフィア様はとても疲れているように見えたことを覚えている。だから私は自分にできることをしてあげたいと思ってしまったのだろう。私の力を見出してくれた聖人から、少しだけど神聖力の使い方を教わっていた。子供の好奇心でお願いしたのを聖人は穏やかに受け入れてくれて私に教えてくれたのだ。

「まぁ、あなたが私の治療をしてくれるの?」

ソフィア様は楽しそうに私の手を取ってくれた。子供のお遊び程度に考えて付き合ってくれていたと思う。本当に優しい人だった。

私は何の迷いもなく神聖力を流してソフィア様の治療をしてみた。

見た目通りに疲れているようで、ソフィア様の神聖力が弱々しく乱れているのを感じ取れた。ゆっくり休んで体力と一緒に神聖力を回復させることもできるけれど、自然に任せるのではなくて、私の神聖力でできるだけ早く回復してほしいと思った。

ゆっくりと神聖力を流していき治療をすると、ソフィア様は動くことなく黙って私の治療を受けてくれた。

しばらく治療を続けて、弱々しかった神聖力が穏やかな流れを取り戻したことを察知すると私は手を離した。

「終わりました。どうでしたか?」

私は大聖女様に自分の力がどこまで通じるのかを確かめたかったのかもしれない。大聖女様ならより詳しく私の力を感じ取れると思うのと、子供の好奇心でやったことでも褒めてもらえるのではないかという淡い期待もあったように思う。

手を離してソフィア様を窺うと、何故かソフィア様は離された手をじっと見つめていた。

何か不手際があっただろうか。もしかして不快な思いをさせてしまったのかもしれない。そう思った瞬間、自分がでしゃばり過ぎていたことにようやく気が付いて不安が押し寄せてきた。

私が怒られるだけならまだしも、私は男爵令嬢だ。怒りの矛先は父である男爵に向いてしまう。そうなると大聖女の不興を買った男爵としてこれから先の人生を歩むことになる。都市には住んでいないとはいえ、きっと噂が広がって社交界に出ることもできなくなりそうだ。

そんな考えに至ったら、血の気が引くのを感じた。

今からでも謝れば許してもらえるだろうか、そう思って口を開こうとした時、ソフィア様が感動しているかのような呟きを漏らした。

「・・・やっと」

噛み締めるような声に私は謝ろうとした言葉を飲み込んでしまった。

「大聖女様?」

「ごめんなさい。あなたの神聖力に驚いてしまったの。神聖力の使い方を教えてくれている聖人はとてもいい先生のようね。とても良い治療でしたよ」

ソフィア様の顔色がよくなっている。声にも張りが出たような気がして、治療は上手くいったようだ。

父が怒られることもなさそうでほっとした。

「ありがとうございます。聖女になるまでまだ時間があるので、頑張って鍛えていくつもりです」

そう宣言するとソフィア様は嬉しそうに頷いた。

「頑張っているあなたに私からも贈り物をさせてほしいわ」

そう言って、ソフィア様はテーブルの上に置いていた数冊の本の中から1冊を手に取って渡してくれた。

題目が書かれていない革張りの本。随分古そうに見えたけれど、ボロボロになっている個所も見当たらない。相当大切に扱われてきたのだろう。

「この本をあなたに預けるわ。その代わり、成人したら必ず帝都の神殿に来てほしいの」

「帝都のですか?」

この村から一番近い都市は第5都市だ。そこではなくてソフィア様が普段いる帝都の神殿に来るようにと言われた。

「帝都の神殿で、私の側であなたの力を鍛えてほしいの」

聖女として働くだけではなく、ソフィア様の近くで働くことを望まれている。

そのことに嬉しさしかなかった。

まだまだ子供だったのだと今なら思える。単純に大聖女に誘われて喜んでいた。そこにどんな意図があるかなんて考えることもなかった。

「はい。成人したら必ず帝都に行きます。大聖女様のお側でしっかりと聖女として働きます」

それまでにいっぱい勉強して聖女としての力を見に付けなければいけない。そうやって気合を入れていたことが懐かしい。

「あなたの名前はセシリアだったわね」

ソフィア様が来た時に挨拶をしていたので名前を覚えてくれていた。

「セシリア。あなたの未来を期待しています」

「はい。ソフィア様」

図々しくも名前を言ってみた。それでもソフィア様は怒ることなく、むしろ嬉しそうに微笑んでくれていた。

その後、少しだけ本を読みながらその内容について話をしたのだ。それは私にとってとても貴重で大切な時間になったことは今でも変わりなかった。


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